そのまま五分ほど経過。
「…ちょっと遅いね?」
「そうですね…。あ!連絡してみます」
連絡をするため、携帯を取り出した男性。
(おしっこ…おしっこもれる…)
頭の中ではそれしかないのだが、そればかりを考えていると本当に漏れてしまいそうだった為、必死で別の事を考え始めた。
暫くして、漸く電話が通じたのだろう。
「もしもし、○○です。今どこですか? …あ、はい。はい、そうですね、宜しくお願いします」
そう言って電話を切った。
三十秒もしないうちに、先ほどの二名の男性と合流が出来た。
「ここからは、宜しくお願いしますね」
カップルの男性が、細身の男性にバトンを渡すかのように言葉を渡した。
「…んっと、こっちです」
細身の男性は、かなりペースを上げて歩く。
グレッグ氏と私が細身の男性の後に少し間を開け、寄り添うように歩き、次に二人目の温厚そうな男性が後に続き、
カップルさんがその後を、また少し離れて歩いた。
辺りを見渡すとジョギングする人や、サイクリングを楽しむ人。
ベンチに腰掛けて話をしたり、グループ行動をしている所もあった。
(あぁ…もれる…早く早く…ッ!)
感じる限界に、足がもつれそうになる。隠すためにわざと酔っ払いのふりをした。
その時の行動を冷静に考えた場合、どこからどう見ても、俗に言う「怪しい人」だろう。
少し歩くと、公衆トイレがあった。
グレッグ氏がどこでする?と問われたので、私は少し考えて
「男性のお手洗いでしないと、入れないですよね…?男性の方が明らかに多いし…」
と答えた。グレッグ氏は良い子だ、と頭を撫でた。嬉しかった。
しかし実質的に言えば、私はそれどころではなく、既に限界を超えている尿意との戦い。
本当は焦っていた。このまま早く出してしまいたい気持ちは山々。
私とグレッグ氏、細身の男性は裏に回り、残りの男性とカップルさんにトイレの周りを囲んでもらう。
…が運悪く、トイレを囲んでいた男性が「来た」と端的に言った。
一般男性がトイレの前に居るのだと、カップルさんが裏に回ってきて教えてくれる。
慌てて退散をし、仕方なく手洗い横に行った。
細身の男性と、グレッグ氏で再度打ち合わせ、数十秒でグレッグ氏より私に話が振られる。
「次のトイレに行く?身障トイレでする?それとも物陰に隠れて?」
もう選択の余地などない。
我慢は限界をはるかに超え、かといって、さっきの一般男性に知られるのは、とても嫌であった為、
私は小さな声でグレッグ氏だけに伝わる様に、物陰…、とだけ口にした。
それを細身の男性に伝えると、細身の男性が皆に伝えてから歩き出す。
早く行かないと本当に漏れると思った。かといって、慌てて歩けば、先ほどの一般男性にばれてしまう。
意を決して、ゆっくりと歩み始める。
歩いていると可愛い猫三匹に遭遇した。
猫の目の高さより少し上になって、目を見て「ちゅっちゅちゅっちゅ」と声を出す。
本当は我慢をするだけで精一杯なのだが…。
猫達は動きを止めて、強い警戒を示す。
(…お願い、来ないで…)
心ではそんな事を強く思っていた。
ではなぜ声を掛けたのか、と疑問に思われる方もいるかもしれないので、余談になるが補足説明をしておく。
猫は犬に比べれば嗅覚は劣る。それでも、人よりも随分優れているため、
体臭等、身体から出る匂いである程度の区別が出来る筈だ。
今回の場合、猫が野良だと判断したため、餌を求めて付いてくる可能性も捨てきれなかった。
猫たちにもし体臭などを嗅がれてしまったら、また別の用事で訪問する機会があった場合どうなるか…。
その事を考えての行動だった。
まもなく猫達は離れて行った。すぐ立った。その瞬間、身震えがする。
尿意が限界点を超え、既に十分近くが経過しようとしていた。
(もうだめ、漏れちゃうッ!漏れちゃうよぉ~…)
グレッグ氏に手を引かれ、気を紛らわすためにジャンプをしたり、別の事を考えたりした。
小さなステージみたいなものがあり、細身の男性はその裏方へ回る。
「この辺はいかがです?」
公園の中の灯りが、ステージ裏の一角を照らす場所。
「ここで良いか?」
グレッグ氏が声のトーンを落とし尋ねてきた。
「うん」と頷いて、おどおどしながら、ゆっくりとしゃがむ。
が、ハプニングが起こったのだった。
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