夏も終わり9月半ば、10月の人事異動の話しが出る。
ウチの会社では社内の移動はあったとしても転勤なんて滅多に無い。
だけど、新事業が4月からスタートするので、その準備の為に関連会社へ兄ちゃんが出向する事になった。
そこで10月の初めに送別会をする事になり、部署の連中とジェット仲間が参加した。
「係長、新事業の立ち上げお願いしますよ。カンパ~イ!」
「向こうでは所長なんでしょ、凄~い。」
「ヨっ!新所長!」なんて盛り上がっている。
すると、兄ちゃんの隣にいた真由美ちゃんがやって来て「修二さん、係長が呼んでます。」と言う。
俺は真由美ちゃんを挟んで兄ちゃんと話す。
「兄ちゃん、栄転だな。おめでとう!」と、乾杯しようとグラスを差し出すと
「チョッと待て、元々は修二が言い出した話しなんだぞ。」
「何言ってんの、俺はこの先に少子高齢化が進んでいくと、こんなの用意しとけば必要になるんじゃないかなぁって言っただけじゃん。それをちゃんとプレゼンまで持っていって事業にまでこぎつけたのは兄ちゃんだろ。」
真由美ちゃんが聞く
「えっ?新事業って修二さんが最初なんですか?」
「そう、コイツがね、どうせこの先は年寄りだらけになるんだからって言い出してね… 」
「だから、俺は風呂の釜。」
「何ですかそれ?」
「湯(言う)だけ。(笑) チャンと事業にまでこぎつけたのは兄ちゃんなの。」
「修二、次呼ぶぞ。」
「お断り~。俺は人の上に立つような人間じゃないし、裏稼業もあるから、ペーペーで自由気ままに してたいの。」
「でも、修二さんの立案なんですよね?」
「まぁまぁ、言うだけならコッチからでも出来るじゃん。(笑)」
「お前、さては、まだ次があるな?」
「さぁ?それはどうでしょう?(笑)」
「真由美ちゃん、コイツはね、ホントは俺なんか飛び越して、もっともっと上に行けるのに行こうとしないんだよ。」
「そうなんですか?」
「会社になんか縛られたくない。上に立って人の責任なんて取れないの一点張りだ。」
「だって、人に気を使うのだけはゴメンなんだって。(笑)」
「まぁ、修二さんらしいですけれど… 」
「コイツの目は10年、20年先を見てるからね。覚えときな。(笑)」
「いやぁ、そんなに褒められても… 」
「褒めてない、勿体ないって言ってるだけだ。」
「確かに、勿体ないですよねぇ。」
「まぁまぁ、兄ちゃんそれより乾杯しよう。」って話しをしてたら、ジェット仲間が
「何々、既婚者が2人して真由美ちゃんを口説いてるんっすか?(笑)」って入って来た。
「おっ!来た来た。祝いだから飲ませろ飲ませろ~!」って兄ちゃんへの献杯を煽ったりしてた。
俺が「チョッと、トイレ~ 」って席を外そうとした時、「私も… 」と真由美ちゃんが立ち上がった。
「おっ!一緒に行くか? 連れション、連れション。♪」って、調子にのってたら
「もう、私は立ちション出来ません!」って返す。
皆がドっと笑って「真由美ちゃん、立ちションって~ 」ってツッコまれていた。
廊下で真由美ちゃんが、「修二さん。この後どうされるんですか?」と聞いてくる。
「そうだなぁ、兄ちゃんは皆と話しもあるだろうし、チョッと飲みに行こうっかな。」
「じゃぁ、私も連れて行って下さいよ。」
「何、連れションして、連れ飲み?(笑)」
「ハイ、連れ飲みで。(笑)」
「皆と一緒に行かないの?」
「皆さん係長と長いじゃないですか。色々お話もあるでしょうけど私なんかはまだ浅いですし、お邪魔するだけですよ。」
「いや、そんな事ないと思うけどなぁ。」
「ダメですか?」
「別にイイけど、そんなオシャレな所とか行かないよ。いつも行ってるオジさんのオアシス。ザ・スナックだぜ。」
「はい、ザ・スナックで。(笑)」
1次会も終わりに近付き、万歳三唱で締めくくることになった。
「バンザーイ、バンザーイ、バンザーイ!」 店を出て、ワイワイガヤガヤ…
「兄ちゃん。皆と話しあるだろうから、俺は別行動させて貰うよ。」
「おう、修二ありがとうな。まだ日にちあるから、また話しさせてくれや。」
「了解!」
真由美ちゃんも「係長、ありがとうございました。今日は申し訳ないですけど失礼します。」
「真由美ちゃん、ありがとうな。修二は金持ってるからタクシー代出して貰え!(笑)」
「ひでぇ、俺は金づる?(笑)」
「いや、打ち出の小づちとまではイかないし、財布でも無いしなぁ… 小銭入れ?(笑)」
「小銭…😢」
「ジェットの事とかもあるし、またな。」
「じゃぁ、行くわ。お~い皆、今日のウチに愚痴でも文句でも言いたい放題言っとけよ!(笑)」
そう言って皆と解れ真由美ちゃんと駅の方へ向かう。駅近くのパチンコ屋の角、少し待ってると1台の車がやって来た。
「修二さんお待たせ。」そう言って声をかけてくれた車に真由美ちゃんと乗り込む。
「車を使うなんて珍しいっすね。」 「そうだね、久しぶりだね。」 車が1駅離れた駅近くのとあるスナックビルで止まる。
「ありがとね~。」 「じゃぁ、また後で。」 と車を降り、真由美ちゃんと店へ向かう。お店の名前は名前はスナック「F」
ガチャッ… 「修ちゃんいらっしゃい。」とママが声をかけてくる。
「今日はお連れさんと一緒なんて珍しいわね。」 真由美ちゃんにも「いらっしゃいませ。」と言いながらお絞りを出す。
「今日は兄ちゃんの送別会があって流れて来たんだよ。」
なんて話をしてると、俺はキープしてあるバーボンの水割りが用意され、真由美ちゃんに「何にする?」って、メニューを見せると
「私も同じもので」と言う。「飲めるの?」って聞くと、「テキーラとかは無理ですけどね。」と笑う。
取敢えず、乾杯って事でグラスを鳴らす。
「何で、俺なんかに付いてきたの?」
「色々とお話聞きたくて。」
「何の?」
「だって、さっきも新事業の話を聞きましたけど、元は修二さんの案なんですよね?」
「まぁ、そうだけど… 」
「何で?」
「何が?」
「何で自分から行かないんですか?」
「だって、時間取られるし、色々面倒じゃん。」
「それにしたって… 」 それを聞いていたママが話し掛けてくる。
「修ちゃんまた何か考えついたの?」
「いやぁ、別に… 」
「いいえ、凄いです。ママさん、聞いて下さいよ。ウチの会社で新事業が始まるんですが、素案は修二さんが考えたのに手柄は人に手渡して、涼しい顔してるんですよ。どう思います?」
ママが聞く。
「フフッ、貴女お名前は?」
「えっ?ま、真由美です。」
「真由美ちゃんって言うの? 修ちゃんはね、そういう人なのよ。自分の時間が大切だから、良い事を考えついても、時間の掛かること、面倒なこと、人の責任を背負うことは、どれだけ儲かるような事でもしないのよ。」
「まぁまぁ、そんな話は抜きにして加奈も一杯どうぞ。」 ママがグラスを持ってくる。
「いただきます。」
真由美ちゃんが聞いてくる。
「さっきお知り合いの方の車で来たじゃないですか?後でねって仰ってましたけど、あの方は?」
「あぁ、そのウチ来るよ。」
と、ママが
「真由美ちゃん、お迎えの車で来たでしょ?」
「はい。」
「あれは修ちゃんの案なのよ。」
「えっ、どういう事ですか?」
「ここは駅に近いでしょ。」
「はい。」
「でも、駅から遠い家の人は車で来られないから、タクシーなんかで来なくちゃいけないわよね。」
「まぁ、そうですね。」
「だったら、片道の迎えだけでも無料にすれば来やすくならない?」
「えっ。なりますけど… 帰りは?」
「ここは駅も近いから、タクシーは捕まえやすいしね。」
「あっ、そうか。じゃぁ、さっきの方は?」
「あれはウチのチーフなのよ。お迎えの分はチョッとバイト料上乗せしてね。」
「だから、後でって… 」
「そういう事。お陰で平日はボウズの時もあったりしてたけど、ウチは迎えが来てくれて片道浮くぞってことで、口コミでね…」
「お客さんが増えたんですね?」
「まぁ、距離というか時間に限りはあるけど、出来る限りの範囲内でね。」
「いいんじゃないのそれで?だってこの店潰れたら俺の飲みに来る所が減るじゃん。(笑)」
「修ちゃんはこういう事ばっかり言ってる人なのよ。」
「いいのいいの。俺は遊び代が浮いてりゃ十分。」
「真由美ちゃんは知ってるの?修ちゃんのお小遣いの元。」
「裏稼業って言っておられましたけど… 」
「それも、実はココが拠点でウチも随分助かってるの。ヨソの店もウチを有難がって便利使いしてくれてるし。」
「加奈(ママ)。それ以上は… 」
「もしかすると、修ちゃんの裏稼業は真由美ちゃんのお給料以上かもよ。(笑)」
「エエ~っ!」 なんて話しをしながら酒が進む…
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