11月後半の土曜日お昼前。新千歳空港に到着。雪が降ってるってことだったので天候が少々心配だったが、無事に着陸した。
今回もLIVEで来たんだけど北海道は出身地って事もあり、秋からツアーで道内各所に周られる。
ファイナルの札幌で1回だけバンドを入れてステージをされるので観にやって来た。
流石に北海道の1泊2日はキツイので、有給を取って2泊3日の行程。
札幌と聞いて真由美が付いて来ない訳がない。(こういう時に、ホント同じ部署じゃなくて良かったなぁって思う。)
朝早くに家を出て空港へ向かっても、到着はこんな時間になる。
(前は東京を夜に出て、朝に苫小牧に到着するフェリーがあったのだが残念なことに無くなってしまった。)
空港で昼食を摂り、列車で札幌へ。(札幌まではバスもあるのだが、冬は雪の影響が出やすいのでJRが無難だ。)
窓から見える雪景色に真由美が喜んでいる。
俺は札幌に来ると夜遊びがしたいので、ススキノのカプセルホテルを利用する事が多いのだけど、今回は真由美と一緒なので地下鉄の駅が近いホテルにした。
札幌駅でJRを降り、チェックインにはチョッとだけ早いので地下鉄に乗る前に札幌駅構内のお土産屋さんで俺はさっさと買い物して発送。真由美は下見して、明後日の帰りに買って空港まで戻り、そこで土産の買い足しをして実家には発送、自分の分は持ち帰りって風にする事にした。
地下鉄で移動して地上に出ると路肩には除雪した雪が盛られている。
歩道も所々凍結してる箇所があったが、コケることもなく無事にホテルに入った。
少し休憩をして会場へ向かう。今日のホールで700席程かな。
昔は2000人程のホールでも満杯だったのが、レコード会社から契約を切られてからは個人でライブハウスを周り、長い年月をかけて年1回とはいえ、こういうホールでのステージを出来るようにまで這いあがってきたのだ。
会場の近くに札幌時計台があるので入ってる時間は無いけど、見に行く。
「真由美。この時計台もそうだけど、『日本三大がっかり』って知ってるか?」
「えっ、札幌の【時計台】でしょ。確か高知の【はりまやばし】でしたよね。もう一つは… あれ、何処でしたっけ?」
「長崎の… 」
「あっ!【オランダ坂】だ。」
「そう。でもこうやって実物を見てどう思った?」
「確かにこんなビルが多い街中で、チョッと小さくて観光の名所としては残念な気もしますよね。」
「でも考えてみなよ。当時はだだっ広い野っぱらで、この建物が1番目立つ存在だったんだよな。それを、ヨソ者の俺達が来て、ビルだらけの中にあるからって『がっかり』って言ってるんだもん。失礼な話だよな。(笑)」
「師匠。写真お願いしま~す。(笑)」って、時計台をバックに真由美の写真を撮る。
会場に到着すると、こっちで知り合ったファン仲間から声が掛かる。
「修ちゃん久しぶり~!いらっしゃい。」
「毎度!この前は旭川の時だったから、3年ぶり?(笑)」
「そうだね。内地からワザワザ御足労様です。(笑)」
「そうしょっちゅう来させて貰えないからね。(笑)」
「で、お連れさんは奥さん?彼女?」
「向こうのファン」
「そうなの?」
「札幌に行ってみたいって言うから一緒に来たんだ。」
「へぇ~、そうなんだ。遠路はるばるご苦労様です。(笑)」
「いいえ、お邪魔させて貰ってます。(笑)」なんて話してると開場時間でそれぞれの指定席へ…
今回はホールでバンドも入るって事で、道内各所からもファンが来ている。
「うわぁ、釧路から来たの?」とか「えっ、泊まらずに稚内まで帰るの?」とか、ファン同士の会話が聞こえてくる。
そして開演。
いつもはライブハウスで椅子に座っての弾き語りだけど、今日はバンドもいるので大きなステージを行ったり来たり。客いじり、メンバーいじりも快調に楽しい時間は過ぎて行った。
「師匠。やっぱり売れないのが不思議です。」
「いや、真由美。売れてない訳じゃないんだ。」
「どういう事ですか?」
「前から俺は売れてないとは言わずに全国区じゃないって言い方してるだろ。」
「そう言えばそうですね。」
「売れてないってのはアーティスト活動だけで食っていけない人や辞めた人たちの事で、こうやってステージやって飯を食えてる人は売れてはいるんだよ。ただ、全国的には知られてないしガッポリ儲けられてるって訳じゃないから、俺達から見ると売れてないって思うだけなんだよ。」
「そうか、確かにそうですね。売れてないならこんなホールが満杯になんてならないですもんね。」
「そう。ただ、全国的に名が知れてないってだけなんだけど、やっぱり全国の多くの人に知って貰いたいってのが本人さんも俺達ファンも同じ願いなんだよ。」
そう言ってロビーへ出ると、CDを買ってくれたお客さんへのサイン会をするって事で、行列が出来ている。
「うわぁ、あのステージが終わったばかりなのに、こんなに沢山の人にサインするって大変ですね。(凄)」
「そうだよな。でも、ここで頑張るからまたお客さんも来てくれるんだもんな。」
そう話しながら、ツアー前にリリースされたアルバムを手に俺達も並んだ。
俺達がサインして貰う順番が来た。
「お疲れ様でした。」と、声を掛けると
「おぉ!遠いのに来てくれたのか、ありがとうな。」と、サインをして貰う。
「今日、あそこですよね。」
「そうだな。」
「お邪魔してもイイですか?」
「入れたらな。(笑)」って、少し言葉を交わして会場を後にした。
「ヨシ、真由美。飯に行こう!」って、北海道に来たらアレもコレもと食べたい物がイッパイなのだが、先ずは蟹を食べようって事で、北海道の知り合いに教えて貰ったお店へ行く。
「真由美は花咲ガニって知ってるか?」
「いいえ。何ですか花咲って、越前ガニや松葉ガニみたいに取れる場所で名前が違うってやつですか?」
「そうだな。確かに取れる場所の名前もあるんだけどな、タラバの一種なんだろうけど、見たらビックリするぞ。」
「え~っ、何か違うんですか?」
「見てのお楽しみだけど、厳つい蟹なんだ。(笑)」
「どんなんだろ?」って事で、店に到着して鍋を囲む。
先ずは付き出しに魚と蟹の刺身で乾杯。少しして運ばれて来た蟹を見て真由美が言う。
「師匠。確かに厳ついです。凄いトゲですね。(笑)」
「だろ。俺は厳ついって思うんだけど、茹でて赤く花が咲いたように見えるって意味も名前の由来らしいんだ。」
と、蟹が鍋の中で赤くなるのを見て言う。
「へぇ~、花が咲いた… か。」
「これがまた美味いんだ。(笑)」
真由美が初めて花咲ガニを口にして「何だかタラバガニを更に濃くしたような感じがします。(笑)」
「な。美味いだろ。(笑)」
「こんなの今まで知りもしませんでした。」
「こうやって、そこへ行ってみて今までに知らなかったモノを知るってのが、俺の楽しみなんだよな。」
「それが色んな情報や経験として結びついて、師匠は次から次へとアイデアが浮かんで来るんですもんね。」
「真由美は札幌に来て何か発見はあったか?」
「えぇ~っ、だってまだホテルとホールしか行ってませんよ。(笑)」
「ま、あとは時計台見ただけか。(笑)」
「そうですね。気付いたっていうか感じたのは、寒さ対策なのか二重扉の所は多いですよね。」
「おっ、そうそう。そういう事を来てみて知識として知るってのが大事なんだよ。この蟹だって、写真なんかで見るなんて事はあるかも知れないけど、実際はこんな味なんだとか食べてみないと解らないしな。(笑)」
って事を話しながら食事も終わり店を出る。
「ヨシ、行こうか!」
「ススキノですか?(嬉)」
「いや、今日は焼き鳥屋さん。」
「焼き鳥も名物なんですか?」
「ま、着いてのお楽しみだな。(笑)」と、タクシーを捕まえ乗り込んだ。
「スミマセン。円山の〇孝って解りますか?」
「いや、チョッと知らないなぁ。」
「じゃ、近付いたらまた言いますんで、取敢えず駅の方へ向かって下さい。」と、道案内をしながら店に到着した。
「師匠。何か昔っからある焼き鳥屋さんって感じですね。(笑)」と、中を覗くと賑やかだ。
「うわ、人気なんですね。」
「いや、今日は特別だよ。(笑)」って、暖簾をくぐり
「スミマセン。2人だけど入れますか?」って聞くと、中にホールで出会った仲間が居て
「マスター、わざわざ内地から来てくれたんだ。入れてあげてよ。」と、てんやわんやの店をさらに詰めて貰い入らせて貰う。
「師匠。ここってLIVE終わりのファンが集まる店なんですか?」
「あぁ、ココは特に濃いファンで時間がある人が集まるんだよ。(笑)」
「時間がある人?」
と、質問もそこそこに飲み物を頼んで皆さんと乾杯。
京都を中心とした関西組や道内でも遠方から来てる人達なんかもいて、ワイワイと時間が過ぎて行く。
真由美が壁に貼ってあるポスターに気付き
「あっ、これって古い時のですね。へぇ~、昔はこんな感じだったんだ。(笑)」
なんて店の雰囲気を楽しみながら他の仲間たちとも打ち解けて行く。テーブルが一緒になった女性に聞く。
「ここは何で、皆さん集まるんですか?」
「あれ、知らないの?」
「だって、お楽しみだって言って教えてくれないんですもん。」
「意地悪なんだ。(笑) 〇〇〇さんがデビュー当時から通っててね。ココのマスターやママによくして貰っていて身内みたいな店なのよ。」
「へぇ~、そうなんだ。」
「マスターやママも今日はLIVEに行ってて、終わってから開けてくれてるのよ。(笑)」
「終わってからって大変ですね。やっぱり、来たいってファンの為にですか?」
「まぁ、それもあるんだけどね… 」って、入り口がガラガラっと開くとマスターが「お疲れさ~ん!」と、声を掛ける。
そこへ顔を覗かせたのは〇〇〇さん本人だ。店中から拍手が沸き起こる。
「おぅ、おぅ、ありがとね。(笑)」と手を挙げて挨拶しながら、先ずはマスターと向き合うカウンターへ座る。
時間は日も変わった1時過ぎ。バンドメンバーやスタッフも何人か一緒にやって来て、店は更にギュウギュウ。(笑)
「師匠。本人さんが来るんですか?」
「ですか?って、もう来てるじゃん。(笑)」
「凄いです。」
「バンドのメンバーやスタッフと打ち上げして、ココへ流れて来るのが定番なんだよ。」
「だから、お店を開けられてるんだ。」
「で、来るのがこの時間だから… 」
「時間があるファンが集まってるって。」
「そういう事。(笑)」って事で、打ち上げから来た皆さんのグラスも用意され、本人さんのご挨拶と音頭で再度みんなで乾杯。ココへ集まってるファンは殆どが古くからで、顔も覚えて貰ってるような人達ばかりなので本人さんもそれぞれのテーブルやカウンターの客の所へ顔を出して話しをする。こちらにもやって来て、
「よく来てくれたな。」
「バンドが入るステージも観たいですからね。(笑)」
「彼女、名前は?」
「真由美って言います。」
「真由美ちゃん、コイツに引っ張られて来たの?(笑)」
「いえ、私もバンドのステージを観たかったし、札幌も来てみたかったんで付いて来たんです。(笑)」
「何処か行って来た?」
「いえ、お昼に空港に到着したんで… 」
「いつまで居るの?」
「月曜です。」
「じゃ、1日あるんだ。明日だったら大変だもんね。チョッとは楽しんで帰りなよ。(笑)」
「ありがとうございます。」と、また別の客の所へ周って行く。
「師匠。あんな気さくにお話しさせて貰えるなんて… 」
「よかったじゃん。(笑)」
なんてワイワイやってると時間も3時を過ぎてしまい、そろそろお開きにって事でそれぞれタクシーを呼んでもらったりしてお会計。
店を出る頃にはもう4時になろうとしていた。〇〇〇さん達10人程はまだ行くぞ!と、24時間やってるお店へ向かう。
いつもなら俺もご一緒させて貰うのだけど、今日は真由美も居るし、明日(今日)があるので、ここで帰らさせて貰う事にした。
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