6月初旬。田植えも祭りも終わり、礼子との温泉旅行も過ぎて、今日は平日だが「F」に居る。
真由美… いや、由美の誕生日だ。
他の女の子に比べれば日も浅いし平日にしか入ってないのだが、それでも幾つかの花が届けられている。
俺は基本的に店の女の子の誕生日には何もしない。
花を送るとかしてもイイけど、抜けたりして不公平にならないよう、基本しないようにしている。
「おめでとう。」
「ありがとうございます。♡」と、挨拶程度で、いつもの事ながら由美は他の客へ付きに行く。
加奈が「修ちゃん、これ飲んでみて。」と、ロックグラスを持ってくる。
「おっ、由美の梅酒だな。」
「何だ、知ってるの?」
「あぁ、おすそ分けで貰ったんだ。(笑)」
「美味しいから店で出したい程だわ。」
「加奈に飲ませたら多分そう言うぜって言ってたんだ。(笑)」
「バーボンって珍しいもんね。」
「そういうと梅酒って、作るのこの時期だな。」
「お願いしちゃおうかしら。(笑)」
「そりゃ、ちゃんと金払うんなら作ってくれるかもな。(笑)」
「おっ、そうだ。加奈、この前なんとなく思ったんだけどな、ここのハウスボトルって瓶そのままじゃん。」
「そうね。」
「それをな、焼酎だったら陶器の甕だったり、洋酒ならオーク樽とかってのに入れて出すってのはどうだ?」
「どうしたの急に?」
「いや、この間さ付き合いでチョッと良い店に行ったんだけど、ハウスボトルでもそうやって出されると雰囲気的にも違うし、何か話しではチョッと熟成もされて味も良くなるって言ってたしな。どうだろうなって思ってな。(笑)」
「気分のもんなんじゃ無いの?」
「まぁ、気分だけでも気持ちよく飲めたらイイじゃん。」
「まぁね。」
「それとな、芋なんだけどハウスボトルに使えそうな焼酎があるから、一度試してみるか?」
「まぁ、アンタが持って来てくれるんなら味くらい見てもイイわよ。(笑)」
「ヨシ。じゃぁ、今度仕入れたら持って来るよ。」
って事で、帰ろうかとすると加奈が聞く。
「由美ちゃんの誕生日なのにもう帰るの?」
「だって、明日仕事だぜ。もう、おめでとうは言ったから、今日はこれで退散するよ。(笑)」
「由美ちゃん、残念がるわね。」
そう言って、御祝いに皆で飲むようにとシャンパンを1本下ろし、手を振る由美に手を振り返して帰った。
6月下旬。何故か「F」はチャイナ服の日なのだ。(まぁ、加奈が店を受け継いだのが6月だからってだけなんだけど。)
赤に青にピンクに緑… 黄色がいればゴレンジャーなんだけど、残念。今日は週末だけど由美も入っていて黒色だ。(笑)
この前に言ってた芋焼酎を仕入れて持って来た。
取敢えず、加奈に飲ませてみる。
「アラ、これ美味しいわね。何かスッキリしてるし… 」と、まだ早い時間なので女の子にも味見させてみる。
「あっ、これ美味しい。」
「飲みやすいですね。」と、概ね好評のようだ。加奈が「これって何処の焼酎なの?」って聞いてくる。
「実はな。宮崎の焼酎で20度なんだ。」
「へぇ~。」
「母ちゃんの従姉妹が宮崎の田舎の方にある焼酎の製造元に嫁いでいてな、一般的なやつだと安いんだ。」
「ふ~ん。一般的じゃ無いのもあるの?」
「チョッと値段は上がるんだけど、プレミアで何万もする何処かの有名なのじゃ無いけどな。緑の包装紙で、俺はそっちの方が有名なやつより味的には好きなんだよな。(笑)」
「幾らぐらい?」
「それでも3千円程じゃ無いかな。何でも、出来が良くて早く飲んで貰うのにラベル作ってる時間が勿体ないからって、ラベル無しで出したらしいからな。(笑)」
「それの一般的なのがコレ?」
「そう。どうだ?」
「これでも十分美味しいけど、これならどれ位なの?」
「まぁ、送ってもらわないとイケないんだけど、俺んとこなら纏めて送って貰えるし、一升瓶で1600円~1700円ってとこかな。」
「一升で?これでハウスボトルだったら美味しいし、人気出るかもね。」
「まぁ、しばらくは銘柄を内緒にして出してみたらどうだ?」
「うん。じゃぁ、そうね。取敢えず試し込みで20本頼める?」
「えっ、いきなりか?」
「だって、美味しいんだもん。ちょっと、味見させたい人もいるしね。(笑) それと、その良い方のも5本程欲しいわね。」
「じゃぁ、頼んどくよ。これに由美の梅酒が手に入るなら、限定にしたりとか色々しかけてみるのも面白いかもな。(笑)」
「あれも美味しかったもんね。(笑)」
「ところでさ、話しは変わるけど、何で由美は黄色じゃ無くて黒なんだ?」
「何で?」
「赤、青、ピンクに緑。そこに黄色が入ったらゴレンジャーじゃん。(笑)」
「アタシらは戦隊ヒーローか?(笑)」
「ま、「せ」までいかないから、変態ヒーローだな。(笑)」
「それはアンタの事でしょ。(笑)」
「ごもっともで。(笑)」
チェンジで、由美が付きに来た。
「師匠。この前はシャンパンを頂いて、ありがとうございました。」
「いや、早めに帰ったからな。あれぐらいでスマなかったな。」
「いいえ、付きも出来なかったのに気を使ってくれなくても… 」
「気は使ってないよ、金は使ったけど。(笑)」
「だから… 」
「嘘々。冗談だよ。それより、コレ飲んでみな。」と、さっきの焼酎を飲ませる。
「あっ、美味しい。これって、芋ですよね。」
「そうだよ。」
「何だろ。芋なんだけど変なクセが無いって言うのか、口当たりがイイですね。」
「グビグビイキそう?(笑)」
「はい。(笑)」
「さっき、加奈と話して、試しにハウスボトルで出してみようって事になったんだ。」
「えっ、これをですか?」
「そうだよ。」
「採算とれるんですか?」
「取れなきゃ、教えたりしないよ。(笑)」
「何で師匠はこんな誰も知らないような、こんな焼酎の仕入れまでまで知ってるんですか?」
「これは、この前の博多の時に思い出したんだ。」
「儲け話じゃ無いけどって言ってた… 」
「そう。たまたま親戚に焼酎の製造してる所があって、そこのが美味しいから紹介しただけ。(笑)」
「親戚。」
「そう。宮崎の田舎でな。母ちゃんの従姉妹が嫁いでるんだ。」
「そんな所に親戚があるんですか。いいなぁ。」
「あっ、そこの市内にあった温泉が美人の湯とかで、入ったらお肌ツルツル(笑)」
「へぇ~、行ってみたいなぁ。(笑)」
「俺も子供の時に家族旅行でしか行ったことないけど、日南海岸とかをツーリングで走ったら気持ちイイだろうなぁ。」
「イイですね。私もツーリングとか行きたいし、早くバイク欲しいな。」
「楽しみだな。(笑)」
「でも、まだバイク貯金始めたばかりですからもう少し先ですね。(笑)」
「ま、安いもんじゃ無いしな。(笑) で、由美は今日は何で黒なんだ?」
「大きさがこれしか無かったんです。(笑)」
「まぁ、似合ってるから良いんだけど、やっぱり黄色でゴレンジャーにして欲しかったな。(笑)」
「カレーですか?(笑)」
「知ってる?」
「聞いただけですけど、黄レンジャーはカレーってのは知ってます。(笑)」
「カレーで思い出したけど、昔バイトしてた店の賄いで食ってたカレー蕎麦が美味かったんだよな。(笑)」
「うどんじゃ無くて、蕎麦なんですか?」
「そう。麺が細いからカレーが良く絡んで、蕎麦独特の風味と重なって好きだったんだよな。」
「そんなの聞いてたら、お腹減ってきちゃいました。(笑)」
そう言ってると、徐々に客も入り出してきて、黒レンジャー(由美)はまたチェンジで別の所へ付きに行った。
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