ゴールデンウイーク前の週末。高度1万メートルの雲上の世界を真由美が窓から眺めている。
搭乗前に「師匠。私が窓側でイイんですか?」なんて言ってたが、いざ滑走路に出てエンジンの音が高まれば窓の景色に見入って離陸する瞬間を楽しみ、遠くなる地上を見下ろしていた。
CAさんがエプロン姿になって客席に飲み物を配って周り、こちらにもやって来た。
「お飲み物は何にいたしましょう?」
「真由美。何にする?」
「あっ!珈琲で。」
「砂糖とミルクは?」
「両方お願いします。」
「じゃ、俺はコーラで。」
CAさんが次の列に行くなり「師匠。コーラなんてあるんですね。知りませんでした。」 と、言ってくる。
「何、欲しかった?替える?」
「いえ、そんなのまであるんだなぁって思っただけです。(笑)」
「真由美。ホント、乗り物好きだな。(笑)」
「だって、楽しいんですもん。♡」
「スピード感なのかなぁ?」
「でも、観覧車やロープウェイなんかのゆっくりしたのも好きですよ。」
「何なんだろ?」
「私的には、あまり乗れないモノで景色が流れてくのが好きって感じですかね。(笑)」
「子供みたいに好奇心の塊りだな。(笑)」
「お子ちゃまです。♡(笑)」 なんて喋ってると積乱雲に入るようで、シートベルトの着用サインが出てアナウンスが入る。
景色が真っ白になり、薄暗くなったかと思うと雨粒が窓を流れ、ゴゴゴー… ガタガタガタガタと機体が揺れ出す。
今日の揺れはいつもよりチョッと強めかな?なんて思って横を見ると、真由美は怖がるどころか近くで走る稲光に見入っていた。
一瞬、機内がフラッシュのように明るくなった。
後ろの方では怖がった女性が「キャー」なんて悲鳴を上げてるのに
「師匠。今、落ちましたよね。雷、飛行機に落ちましたよね。(喜)」と、嬉しそうに言う。
「ま、こんな時もあるよ。(笑)」
「こんなの経験ないから、ドキドキします。(笑)」なんて言ってくる。
少しして積乱雲を抜けたようだが、着陸態勢に入るのでベルトはそのままで倒していた座席を戻すようアナウンスが入る。
「もう、到着かぁ… 」なんて、残念そうに真由美が言う。
(確かに飛行機の搭乗時間ってのは、ドアが閉まってから開く迄で、滑走路を移動してる時間なんかも含まれるから、飛んでる時間は思ってるより短い。)
段々と高度が下がって行く。真由美はその着陸の瞬間を楽しむかのように、また窓の景色に見入っていた。
空港を出て地下鉄に乗り、一旦博多駅で下りる。
ここには色々と土産品が売っていて、帰りの荷物が増えるのが嫌で、先に買って家に送ってしまうのだ。
「真由美はどうする?」
「私は家に受け取る人が居ないので、明日買って帰ってイイですか?」
「あぁ、そうしよう。でも、親御さんの分は送っといたらイイんじゃないの?」
「あっ、そうですね。そうします。」と、色々と見て回った。
お昼も少々過ぎ、遅めだが昼食にしようと、夜に脂モノを食べるつもりをしてるので寿司にした。
博多駅からまた地下鉄に乗り、次は中洲川端で降りてホテルにチェックイン。
今日はダブルの空きがあったのでチョッと贅沢に中州のホテルにした。(真由美はダブルの方がイイですって言ってたけど… )
ホテルを出てバスに乗りLIVEの会場へ…
既に沢山のファンが終結していて、路上で弾き語りしてる奴の周りで盛り上がってたり、グッズ売り場に行列を作ってたり、ツアートラックを見付けて前で写真を撮ってたりと、皆テンションが段々と上がってるのが解る。
武道館の時と同じで、開演直前の曲で皆が一斉に拳を振り上げ声を上げる。
オープニングからテンションMAXで、第二の故郷だと盛り上がり、2時間半を越え、3時間近くになる熱いLIVEが終了した。
会場を出ると、バスとタクシー乗り場には沢山の人。近くのパーキングから出て来た車も行列を作る。
面倒だから歩いて行っても良いけど、疲れるしなぁなんて思ってるとタクシー乗り場の前の方から声が掛かる。
「修ちゃん、来てたのか!中州まで行くけど2人なら一緒に乗る?」って、顔見知りのファンが誘ってくれた。
「ラッキー!黒ちゃん頼むよ。」って、相乗りさせて貰う。車中はLIVEの事で盛り上がる。
黒ちゃん達は直接屋台へ向かうらしいが、俺達は先にチョッと腹ごしらえをして来ると別れた。
せっかく博多に来たんだから真由美にモツ鍋を食べさせようと思い、有名な所がイイかなと店に行ってみたが順番待ちだ。
まぁ、これは想定内だったので通りと通りを繋ぐ路地にある居酒屋の2階の店に入る。
ここは美味しいんだけど、場所が解りにくいのでいつも客足が落ち着いていてありがたい。
(実は有名人も何人かお忍びで来ているらしい。)
取敢えずで、鶏皮ポン酢とシーザーサラダ。せっかく九州まで来たんだから芋焼酎にしようって水割りを頼む。
もつ鍋を頼むと店員さんが聞いてくる。
「味噌、醤油。どっちにしましょう?」
「真由美。どっちがイイ?」
「お任せします。」
「じゃぁ、醤油で。あと、刺身の盛り合わせ。」と、注文する。取敢えずのメニューと焼酎で乾杯。
ガスコンロと鍋が用意され、具材が運ばれてくる。
「追加で生のセンマイとレバーお願いします。」 グツグツ… さぁ、もう食えるだろうと2人で鍋を突く。
「美味しいっ!♡」
「そう。良かった。真由美は俺と一緒で好き嫌いが無いから、何でも美味しいって食べてくれて嬉しいよ。(笑)」
「あっ、でもありますよ。」
「何々?」
「え~っと、クサヤと鮒ずしって言うのは無理でした。(笑)」
「鮒ずしって、珍しい。」
「子供の頃にお父さんの友達がお土産って、くれたんですけど私はチョッと無理でしたね。師匠は食べたことあります?」
「あぁ、あるよ。苦手って人も多いけど、日本酒に合うんだよなぁ。あっ、真由美は琵琶湖って見たことある?」
「いえ、まだ無いんです。」
「そうか、滋賀を通ってても新幹線からは見えないもんな。デッカイぞ。バイクで行ったことあるけど、聞いてたイメージを遥かに超えてたもんな。(笑)」
「へぇ~、どんなんだろ?」
「もう、あれは海!(笑)」
「って、よく聞きますね。(笑)」と、お喋りしながら具材も追加して箸が進む。雑炊で〆て店を出て屋台へ向かう。
やっぱり博多に来たんなら屋台だ。今日は週末のうえにLIVEもあったし人が多い。グッズのTシャツを着た奴が何人も居る。
何とか空きを見付けて座る。
「師匠。賑やかですね。(笑)」
「そりゃ、博多って言えば屋台だしな。それに今日は俺らと一緒でLIVE帰りの人が繰り出してるからな。(笑)」
なんて喋ってると、お隣さんもLIVE帰りのようで、「お兄さんらも行ってたんですか?」と会話が弾む。
真由美も「あのハーモニカの取り合い凄かったです。喧嘩みたいになってましたもん。(笑)」なんて話している。
「あぁ。ハーモニカって言えば、さっきタクシーに便乗させて貰った黒ちゃんは持ってるんだぜ。」
「へぇ~。」
「確か城ホールでキャッチしたって言ってたな。(笑)」
隣の客が聞く、「何か違うんですか?」
「暗い所でも判るように蛍光テープでキーが貼ってあるんだって。」
「なる程ねぇ。」 なんて時間が進む。後ろでは入れる屋台を探す人がまだ多く、右往左往している。
俺達は鍋も食べてきたし、そろそろってことで屋台を出る。
「師匠。私、屋台の並んでるこの川沿いを歩くだけで楽しいです。♡」
「そりゃ、良かった。(笑)」
「手、繋いでイイですか?♡」
「アァ。」と、恋人繋ぎってやつをして中州の街を歩いた。
何処かで飲もうと、定番のスナックを探しに案内所へ。こういう人出が多い時は空いてる店を紹介して貰うのが手っ取り早い。
ビルの下まで連れて来て貰うと、お迎えの子が待っていて案内してくれる。
「いらっしゃいませ。」と、カウンターへ座る。今日はやっぱり芋焼酎だと水割りを頼む。
店内にもLIVE帰りの客が数組いるようで、カラオケで盛り上がっている。
ママさんが、「いらっしゃいませ。今日は人が多くてゴチャゴチャしてるけどゴメンね。」と挨拶してくる。
カラオケを歌ってる人の方を向いて
「今日はLIVEだったからね。(笑)」
「そうなのよ。(笑)」
「俺達もそうだからね。(笑)」
「あら、そうなの?行ってたんだ。」なんて話してると、真由美は店内の様子を観察している。
「師匠。九州訛りっていうか九州弁って面白いですね。(笑)」
「そうか?」
「だって、男の人は言葉がキツくって怖いなって感じなんですけど、女の人は可愛らしい感じなんですもん。」
「だな。(笑)」
グラスを傾けながら真由美が聞く、「今日飛行機に乗ってる時に揺れたじゃないですか。あんなのって珍しいんですか?」
「いや、別に珍しくは無いけど今日のはチョッと激しかったかな。(笑)」
「ふ~ん、よくあるんだ。」
「もっと激しい時もあるし、滅多には無いけどエアポケットで急に高度が下がってガクってなる時もあるしな。それに天候の回復待ちって空港の周りを旋回したり、酷い時には着陸を諦めて別の空港に降りたり、引き返すこともあるしな。」
「師匠は経験あるんですか?」
「エアポケットはあるし。一度な、札幌へ行った時に千歳の上空まで行ったのに天候が回復せずに一旦羽田に降りて、機内で2時間程待たされて、また飛んで行ったって事があったな。」
「えっ、降りられないんですか?」
「その時は、そんな飛行機がいっぱいで、駐機待ちしてたら天候が回復したっていって飛んだんだけどな。5時間乗ってたな。」
「5時間も。」
「で、お昼を越えるってんでサービスにサンドイッチがチョコっと配られただけ。(悲)」
「お腹空きますね。」
「その時もLIVEに行く予定だったんだけど、お昼前に付いて空港で昼飯食って、土産品を送って。札幌へ移動して、ホテルにチェックインしてから会場へ行こうって予定してたのが全部パー(笑) 飛行機降りたら速攻で電車に飛び乗って、札幌駅でコインロッカーに荷物放り込んで直接会場へ走り込んだ事があったな。(笑)」
なんて思い出話をしてると、セット料金の時間が来たんでどうするかと聞かれる。
せっかくだから別の店も覗いてみようって事で、一旦区切って店を出ることにした。
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