店へ入ると何だか賑やかだ。女の子に聞くと、団体さんが宴会から流れて来たらしい。
チーフが「修二さんスミマセンね。」って、声をかけて来る。
「商売繁盛でイイじゃない。(笑)」女の子も「あまり付けなくてゴメンなさい。」と…
「イイよ。氷と水さえ用意してくれればコッチは勝手に作って飲んでるからさ。(笑)」と、店の様子を見ている。ホントに賑やかだ。
真由美も、「凄いですね。やっぱり美人揃いで楽しい店だと、お客さんも来ますね。(笑)」
「ま、それに割とリーズナブルだしな。(笑)」 すると加奈がやって来て俺に耳打ちして、向こうへ行く。
「ママさんも忙しそうですね。」
「真由美。」
「はい。」
「加奈がね。もし真由美さえ大丈夫ならチョッと手伝って欲しいんだって。」
「えっ、だって私経験無いですよ。」
「大丈夫だって。解らない事は女の子かチーフに聞けばイイし、客に適当に話合わせて相槌打って煙草に火を点けてりゃ、何とかなるって。(笑)」
「でも… 大丈夫かな?」
「まぁ、物は試しで… どう?」
「じゃ、じゃぁ、ホントお邪魔になるだけかも知れないですけど… 」
「ヨシ、じゃぁ、試しだ。(笑)」 俺が加奈にOkサインを出す。
加奈が「ゴメンね。」と、真由美を裏へ連れて行く。
少しして真由美がカウンターへ出てきた。最初はチーフが近くに居るカウンターの端の方に立つ。
お客の1人が「あれ、見ない顔だね。新人さん?」って聞く。
チーフが「スミマセン。今日は忙しくって、急遽手伝って貰うことになったんですよ。(笑)」と、ことわりを入れる。
「へぇ~、可愛いじゃん。名前は?」
「あっ、えぇっと。由美って言います。」(どうやら、真由美の真を取って「由美」って源氏名にしたようだ。(笑))
見てると、戸惑いながらもチーフに水や氷を頼んだり、お客にお酒の濃さを聞いて水割り作ったりと、お客を相手にしている。
そして、そろそろ日が変わろうかという時間帯になって客が引き、店も落ち着いてきた。
由美… いや。真由美も解放されて隣に戻って来た。
「ふぅ。」
「お帰り。ご苦労さん。」
「ただいまです。」
「疲れた?」
「初めてなんで緊張もあったし… 」
「でも、なんとなく出来てたじゃん。」
「いやぁ、そんな事無いです。」
「イイ経験になったろ?」
「ホントに立ってただけのようなモノなんですけどね。(笑)」
「由美。か。(笑)」
「もう。恥ずかしいです。♡(笑)」 なんて笑ってると、加奈が来た。
「真由美ちゃん。ありがとうね、助かったわ。」
「いえいえ、お邪魔じゃなかったですか?」
「初めてで、あれだけ出来てれば十分よ。(笑)」
「由美。ってのが笑えたなぁ。」
「何言ってんの。裏で急遽決めたんだもんね。(笑)」
「由美です。♡(笑)」 なんて笑ってると、咲ちゃんが来て
「由美さん。ありがとね。「可愛いから、あの子に入って貰いなよ。」て、お客さんが言ってたわよ。(笑)」 って、声をかける。
「いえいえ、可愛くなんて無いですよ。ホント、お邪魔してたようなモノで… 」
「何言ってるの。ちゃんと出来てたわよ。(笑)」と、別のお客の方へ行く。
「でも、皆さん凄いですね。」
「何が?」
「水や氷やグラスの減り具合みて、お客さんが煙草を咥えたら火を点けて、トイレに立ったらお絞り用意して、色んなお話しに合わせてお喋りして… 」
「カラオケ入れて、灰皿取り換えて、見送りに片付けにってか。(笑)」
「いや、師匠。ホントそうですよ。」
「慣れよ、慣れ。(笑)」
「でもな、真由美。ココはまだチーフが居るけど、チーフを置いてない店は全部女の子でやらなきゃイケないんだぞ。」
「いやぁ、ホント大変です。」
「また忙しかったらお願いね。由美ちゃん。(笑)」
「いや、ただ立ってるだけですけど… ママはこのお仕事って長いんですか?」
「えっ、私。そうね、親の店ってのもあって、高3でチョコチョコお店に立ち始めたから、12年くらいかな。」
「こ、高校の時から… 」
「スレた高校生だったもんなぁ。(笑)」
「何を言ってんの。アナタは捻た高校生だったくせに。(笑)」
「お二人って、高校も一緒だったんですか?」
「そうよ。可哀そうだったけど、私がくっついて回るもんだから、修ちゃんは彼女が居るって勘違いされて… 」
「小中高と彼女無し。(悲)」
「ホントにお2人って付き合ってなかったんですか~?(疑)」
「ホントよ。」
「まぁ、兄妹みたいなもんだったな。(笑)」
「師匠ってどんな高校生だったんですか?」
「俺か。俺はいたって普通だったよ。(笑)」
「ホントですか~、ママ?」
「 まぁ、彼女無しの理由の一つは、修ちゃんはバイトばっかりしてたってのもあるのよ。」
「へぇ~。」
「夜はラーメン屋さんで2時頃までバイトして、授業中は寝てばっかで学校が終わったらまたバイト。」
「深夜2時!」
「で、土日はうどん屋さん。春休みは引っ越し屋さん、あれ?夏休みって何してたっけ?」
「前半は駐車場整理。後半はバイク… 」
「あっ、そうだ。遊園地の駐車場整理してたわね。そうそう、お盆が過ぎたらバイクで10日間くらい北海道へ行ってたわよね。」
「へぇ~、1人でですか?」
「そうだよ。テント持って、キャンプとユースホステル。」
「イイなぁ… 」
「それで、冬休みはスーパー… あっ!(笑)」
「何々、何かあったんですか?(嬉)」
「そう言えば、店長にスカウトされてたわね。(笑)」
「おぅ。あったな、そんな事。(笑)」
「私も同じスーパーでバイトしてたんだけどね。最初、私は売り場でお酒の試飲を配ってたの。」
「お酒ですか。」
「それはイイんだけど。修ちゃんは裏で商品を出す作業をしてたのに、人手が足りなくなって急に売り場へ駆り出されたのよね。」
「あれは恥ずかしかったな。(笑)」
「何でですか?」
「それがね、クリスマスイブでケーキの販売の担当をさせられたんだけど、サンタさんの恰好してね。(笑)」
「見てみた~い。♡」
「結構、売れ残っちゃって。で、修ちゃんが店長に幾らまでなら値下げしてイイって聞いてね。翌日25日なんだけど、最初は少し値下げして売っていて、午後から最低ラインまで値引きして、ほぼほぼ売り切っちゃったのよ。まぁ、今で言うタイムセールってやつね。(笑)」
「俺的にはバナナの叩き売りみたいなつもりだったんだけどな。(笑)」
「それが、他の店舗では結構売れ残ったのが、その店は殆ど売れたんで店長が喜んでね。」
「お前。明日から売り場担当ってな。」
「でも、最低でも売上が上がるなら、残って廃棄するよりイイですもんね。」
「そうなのよ。それで今度は店の出口でミカンの販売担当。」
「あっ!摑み取りだ。(笑)」
「違うっ!普通に販売だ。」
「でも何で出口なんですか?」
「だって、重たいし車まで運ぶの大変でしょ。」
「そうですね。」
「でね。最初は普通に売ってたんだけど、そんなに飛ぶように売れる訳でもないから、他のバイトの人達と売りに立つの交代にして外で寒いからストーブに当たってサボってたんだって。」
「加奈達は店の中だけど、あれはホントに寒かったぞ。」
「で、修ちゃんが売りに立った時に年配の方が、ミカンは欲しいけど車まで運ぶのが大変だしって躊躇されてたんだけどね、この人が勝手に「じゃぁ、車まで運びます。」って言ってミカンを売って。サボってたバイトの人に運んで来いって運ばせたのよ。」
「まぁ、サボってるんですから、それくらいは出来ますよね。」
「それに、買い物袋を一旦車に置いて、戻って来なきゃイケない訳でしょ。」
「あっ!そうか。」
「でね、それを見てた他のお客さんが「車まで運んでくれるなら買うよ」ってなって、別のバイトの人に運ばせたのよ。」
「まぁ、手が空いてるんですもんね。」
「そしたら、「じゃぁ、ウチも運んで。」ってなって、最初に運んでたバイトが帰ってきたら、もう次の運ぶのが決まっていて… 」
「サボれない。」
「そう。でもミカン箱って意外に重たいし運ぶの大変でしょ。」
「そうですよね。」
「でね。修ちゃんが裏で商品を出す時に使ってた台車を勝手に持ち出してきて、一気に3箱4箱って運べるし早いじゃない。コレで運べって言って、車まで運んでくれるなら買うって人が増えて、バイトはサボる暇無し。オマケに車まで運んでくれるならって、2箱3箱買う人も出てきて、売上が一気に急増したのよ。」
「ケーキでタイムセールにミカンで配送サービス。」
「そう。ケーキもミカンも売上が一気に上がったのを見た店長が、学校出たらウチに来てくれよってね。」
「いやぁ、やっぱり凄いです。」
「何が?」
「師匠です。♡」
「ただの偶然。」
「いいえ、そのケーキだって普通はバイトが店長に値下げの交渉するなんて考えないですし。」
「いや、あれは捨てるの勿体ないし、どうかなって思って聞いてみたら、タダには出来ないけど、これ位までならって話になって。俺が勝手に面白がってバナナの叩き売りみたいに「持ってけ、このドロボー!」ってな。(笑)」
「ミカンだって… 」
「いや、それだって買ってくれそうなのに、車まで運ぶのが大変だからってだけで売れないのなら、横に暇な奴がいるんだし運ばせちまえ!ってな。」
「それですよ。そこで売れないなぁで済ませないってのが凄いんです。」
「そうか?」
「しかも無駄にバイトを遊ばせないように出来てるんだし、運ぶの大変だからって直ぐに台車を考えつくのだって… 」
「それは、いかに楽に出来るかって考えたら、丁度良い台車が裏にあったなって思ってだな… 」
「いいえ。そのいかに楽にとか、無駄を省くとか、どうすれば喜んで貰えるとかを結びつけるのが凄いですし、それがサービスになって売上が上がるなんてのを高校時代のバイトでやってたってのが、凄いんです。」
「そんなに褒められても何も出ねぇよ。(笑)」
チーフが氷を持って来て声をかける。
「由美さん。ご苦労様でした。(笑)」
「いいえ、お邪魔してしまって… 」
「とんでもない。助かりましたよ。 それに、あの子可愛いからヘルプじゃなくって入って貰えよなんてお客さんも居ましたしね。」
「いえいえ、とんでもないです。(恥)」
「また、お願いしますね。(笑)」なんて言いながら片付けの方へ向かう。
「ママさん。」
「な~に?」
「ココって、3時までやっておられるじゃないですか?」
「そうね。」
「何故ですか?」
「まぁ、ウチの場合は昔っからなんだけどね。ここら辺りは1時迄って店が多いのよ。」
「へぇ~。」
「それに、ご飯屋さんや焼き鳥屋なんて所も12時とか1時だしね。」
「はい。」
「だから、お店の終わった女の子や、店員さんなんかがチョッと飲んで帰ろうかって思っても店が開いてない訳でしょ。」
「そうか!」
「そう。だからココへ来ればチョッと気晴らしに1時間2時間は飲んで歌ってって出来るじゃない。」
「なる程~ 」
「3時迄の店は少ないから、少なからず来てくれるお客さんはいるし、お店が終わった女の子が自分のお客さんと連れだって来てくれるってのもあるし、そういうお客は放っておいても連れてきた女の子が勝手に相手してくれてるし。(笑)」
「だからな、真由… 由美。(笑)今は少し落ち着いたけど、もう少ししたら、またパラパラとお客が入って来るんだよ。」
「へぇ~。」
「まぁ、ヨソの女の子やママが愚痴こぼしに来たり、相談事しに来たりもあるしね。」
「じゃぁ、ママやこの店の人達は?」
「まぁ、終わる時間が時間だしね。チーフも送ってくれるし真っ直ぐ帰る事が多いけど。そうね、カラオケとかは無いけど、始発まで待とうってお客さんを拾うのに朝までやってる居酒屋とBAR、それと少し離れた所に24時間のファミレスがあるくらいね。」
そう言ってると、客がチラホラ入りだしてきたので、加奈も顔を出しに行く。
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