それから真由美とはよく飲みに出掛けるようになった。
そして朝帰りに、真由美の部屋… 元々、バイクだライブだ一人旅だ何だかんだと出掛ける事が多かった俺が家を空ける事はしょっちゅうだったし、礼子はどちらかと言えば出不精で、外食はたまにするものの、そんなに酒も強くないので飲みには滅多に行かないし、家に入れるモノを毎月ちゃんと入れて、親戚、地域、その他の用事や行事などをちゃんとしとけば、自由にさせてくれていた。(まぁ、裏稼業のおかげもあり、ローンや借金といったものが全く無かったってのも、自由にさせてくれていた理由のひとつだろう。)
今日も真由美と飲みに出る… 2回続けて「F」だったので、今回は違う店にする事にした。
ここは「F」があるのとはまた違うビル。そこの地下にある店だ。
カランカラン… ドアの鈴が鳴る。
「あら、修ちゃんいらっしゃい。」
「ママ、久しぶり。」
「何、この前あの子と出会ったから気を使って来てくれたの?(笑)」
「いや、別にそういう訳じゃないけどな… 」
「で、この方は?」
「会社の同僚… で、飲み仲間。(笑)」
「いや、仲間だなんて… 」
「いらっしゃいませ。」と言って、ママは別の客の対応に行く。
「あの、師匠。ここって… 」
「そうだよ。この前駅で見かけた女の子がいる店だよ。(笑)」
「じゃぁ、この前の煙草って… 」
(少し小声で)
「そう、あれは「F」の帰りだったんだよ。でも、ここら辺りのママは多分俺が仕入れてるってのは知らないから内緒だよ。」
「はい。」なんて喋ってると、またお客が入ってきた。 段々と客が増えてくる… どちらかと言えば還暦前後が多い。
「師匠。ここって、どちらかと言えば大人な人達が多いですね。」
「だろ。だから兄ちゃんが、ジジババの溜まり場って言ってたろ。(笑)」
「そう言えば、言っておられましたね。」
「この店はね、他の店とはチョッと違うんだよ。(笑)」
「えっ、何ですか?」 「もう少ししたら解るよ。」なんて話してるとママがやってきて
「修ちゃんゴメンね。今日は週末だから皆集まっちゃって。」
「いや、イイんだよ。忙しくって結構結構。(笑)」と、また別の客の所へ行く。
暫くして、客の一人が「じゃぁ、そろそろ始めるか。ママ、用意して。」と声をかける。
すると、カラオケの音が落とされ、店の隅にある小さなステージにエレアコとアンプが用意される。
「えっ、ライブでも始まるんですか?」
「まぁ、ライブって言うかねぇ… (笑)」
声をかけた客がステージで準備をしてると、客の何人かにクリアファイルが配られる。
「何にする?」 と、リクエストが入り曲が始まる。すると、客が皆で歌い出す。
「えっ、何なんですか?凄っ!(驚)」
皆が歌ってるが、俺や真由美は世代が違うので付いていけなく見てるだけ。
するとママが来て、「アナタ達も歌う?」なんて、クリアファイルを見せる。そこにはコピーされた歌詞カードが入っている。
「いえいえ、曲を知らないですし歌えませんけど… ママさん、皆で合唱って凄いですね。(笑)」
「そうね。貴女達なら知らないでしょうね。昔はね、歌声喫茶っていってね。喫茶店で皆で合唱する店があったのよ。」
「へぇ~。」
「でもね、今はそんな喫茶店なんて無いし、最近はカラオケばっかりでしょ。」
「そうですね。」
「だから、こうやって皆で歌える風にしたら皆懐かしいって、集まってくれるようになってね。(笑)」
「だから、ジジババの… (笑)」
「へぇ~。何だか皆さん楽しそうですもんね。(笑)」
「昔ね、修ちゃんが友達連れて来たのがきっかけなのよ。(笑)」 そう言ってまた別の客のお酒を作りに行く。
「師匠。きっかけって何なんですか?」
「まぁ、ホント偶然だよ。(笑)」
ママが戻って来た。「ママさん、きっかけって何だったんですか?」
「う~んとね。修ちゃんが若い頃に、駅前で同級生が弾き語りをしてたのよね。」
「そうそう。(笑)」
「それで、久しぶりに顔を合わせて一緒に飲もうってココへ来てくれたのよ。」
「へぇ~。」
「で、当然ギターを担いで来るわけでしょ。」
「はい。」
「それを見た年配のお客が「兄ちゃん、ギター弾けるのか?」って聞いてね。」
「あれ歌ってくれないかって言われたのが古過ぎて解らなかったんだよ。(笑)で、「解りません」って答えたら、「じゃぁ、「乾杯」くらいなら出来るか?」って言われて、それなら歌えます。ってギター弾いて歌い出したんだよ。」
「そしたらね。リクエストしたお客さんも一緒に歌い出してね。」
「そうそう、それを見てた別の客が「兄ちゃんチョッとギター貸してくれるか?」って聞いて、ギターを持ってさっきリクエストされた曲を弾き始めたんだよ。」
「そう、それでお客さんが何人かで合唱し出して、懐かしいなぁ、昔の歌声喫茶みたいだなぁって… 」
「それがきっかけで(嬉)」
「でも、その時はそれだけだったんだけど、修ちゃんが週末の早い時間だったら、食事してチョコっと遊んで帰る人や飲みに出ようって人が寄ってくれるんじゃないって、この時間帯はこうやってカラオケ消して歌声喫茶風にしてみたのよ。」
「そしたらその歌声喫茶を経験してた世代の人が来るようになったんだよな。(笑)」
「そう、だから奥さんを連れて来るお客さんんも多いのよ。(笑)」
「まぁ、ノスタルジックってやつだな。(笑)」
「で、お客さん同志が同じ年代で、仲良くなって連れだって来てくれるようになってね。ホント、ありがたい事よ。(笑)」
そんな話をしていて、ここはセット料金なので一区切りって事で店を出ることにした。
「師匠。あの店にもきっかけ作ってるなんて… 」
「いや、あれはホントに偶然だったんだよ。たまたま弾き語りしてくれって言う客がいて、また別に古い曲を弾けるお客さんが居て… 」
「でも、ママさんが時間帯って… 」
「あぁ、あんなのは当然の事を言っただけで、あとは時間も区切りやすいしセット料金にすれば?って言っただけだよ。」
「でも、お客さんが懐かしいからって奥さんも連れて来やすいようにって読んで、時間帯とセットにするのを提案したんですよね?」
「さぁ、それはどうかな?(笑)」
って歩いてると、向かいから歩いてきたオジさんが
「おっ!修二くん、毎度。いつもありがとうね。」って声を掛けてくる。
「いやいや、こっちこそ。どうしたの今日は早いじゃん。」
「うん。今日は友達と約束してんだよ。(笑)何、女の子連れて。彼女?」
「ま、そんなもんかな。(笑)」
「やってるねぇ。ア~ッハッハッハ~」つて、すれ違っていった。
「師匠。あんな事言って大丈夫なんですか?」
「ん、彼女ってか? イイのイイのあの人は(笑)」
「何方なんですか?」
「あぁ、仕事先の人だよ。」
「えぇっ、そんな人に… 」
「大丈夫、大丈夫。(笑)」 って言いながら歩く。
「真由美。次「F」行くか?」
「はい。♡」
「よし。あっ、でもその前にチョッと寄り道してイイか?」
「えぇ、全然。大丈夫ですよ。」
「じゃぁ、行くぞ。」 と、近くのパチンコ屋へ向かう。
「あの、師匠。師匠はパチンコってされるんですか?」
「ん、まぁ。たまにはね。真由美は?」
「私はしませんけど… 」
「あぁ。今日はアレだよ。挨拶だけだよ。(笑)」と言って店に入って行く。
店へ入るとBGMと台の効果音が響き渡っている。
「チョッと待ってて。」と、俺は店長を見付け手招きする。店長も顔見知りなのですぐにこっちへやって来る。
そして自販機まで行き小銭を入れて店長にどうぞとボタンを押させる。少し言葉を交わし店長は仕事へ戻る。
俺は次にドル箱を積んでる客の1人の所へ行く。
「毎度。今日も積んでるねぇ。(笑)」
「あっ、修ちゃん。こんな時間に珍しい… 」 ここでも少し言葉を交わし千円札を1枚手渡して
「じゃぁ、またね。」と声をかけ真由美と店を出た。
「師匠。コーヒーおごったりお金渡したりされてましたけど、何だったんですか?」
「ん?あぁ。挨拶で差し入れしただけだよ。(笑)」
「差し入れ… ?」
「ま、そのウチ解るさ。」と、「F」へ向かった。
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