めくるめく官能世界に程遠く
まゆの友達がお茶飲み会で家に集まるというので、帰宅を遅らせた。
「ただいまー」
「おかえりなさい、お疲れさまでした」
「ん?まだ居るの」
「そうなの、ごめんなさいね、5人はお帰りになったんですけど、残りの奥様がかなり
お酔いになって」
リビングの女性、顔を見たことがある。女性の顔は瞬時に覚えられ、なかなか忘れない。
でも、まゆが紹介してくれたけれど、近しい女性以外、女性の名前はすぐ忘れる。
忘れる以前に、初めから覚える気がないのだから仕方ない。
酒のニオイをプンプンさせ、千鳥足で近寄って来た。
「あなたがまゆさんのフィアンセね、あら、ちょっと、いいんじゃない、ねえ、私に貸
し出しなさいよ」
さすがのまゆも「何をおっしゃますの、奥さまには素敵なご主人さまがいらっしゃるじ
ゃございませんの」
「若い女とヤルことしか考えてないあんなやつ、欲しければノシ付けてあげるわよ」
どうやらご主人の浮気相手は会社の女子社員のよう。
「ふうー」まゆもお手上げ状態で、りょうの顔を見た。
りょうはまゆを一瞥して微笑んだ。
「あのう、失礼ですけれど、以前、商店街のはずれでお目にかかりましたよね、おばあ
さんが転んで往生していて、近くの石踏に腰掛けさせたときのこと」
「あー、あのとき、私一人の力ではどうにもならなくて、丁度通りがかった男の方に手
伝ってもらったわ、あのときの方ね」
「はい、そうです、けっこう人通りがあるのに、貴女だけ、転んだおばあさんを助けよ
うと四苦八苦されていて、なんて優しい女性なんだろうと」
「いいえ、違うのよ、家にも年寄りがいるので、身につまされてなの、そうだわ、もう
こんな時間、おいとましなくっちゃ」
まゆはりょうにウィンクし、投げキッスを送った。
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