めくるめく官能世界に程遠く
女子高生の母親から相談したいことがあると喫茶店に呼び出された。
「お忙しいのに、ごめんなさいね、折り入って先生にご相談したいことが」
多忙は事実だけれど、忙しいのは誰も同じ、母親だって忙しいはず。
「何でしょう、まいさんの成績ならご心配ないと思いますけれど」
「実は主人が、成績が上がったから、家庭教師は必要ないだろうと申しまして」
「お父上のご判断が正しいのでは」
「でも、当のまいがどうしても納得しないので、困ってしまって」
「まいさんが、そうですか」
「私は、まいの成績が上がった理由は、先生に来て頂いているからだと思いますのよ」
「そんなことはありませんよ、評価して頂いて大変ありがたいですけれど、買い被りす
ぎです」
「いいえ、あの子が常日頃、先生を信頼していることぐらい、母親の私が一番よく知っ
ていますわ、私だって、あなたこと・・・」
「はぁ、ありがとうございます」
「何か、主人を説得するよい手立てはないものでしょうかしら」
「ふーむ、ところで、お母さまは、まいさんの進路希望をご存じで」
「それなんですけれど、あの子、何も話してくれないんですのよ、親としても、高望み
して挫折されても困りますし」
「ご心配よく分かります。じゃあ、どうでしょう、数学の枠を越えて、まいさんの進路
希望のお手伝いをさせて頂くというのは。元々聡明でいらっしゃるので、どこまでお役
に立てるか、僕にも正直分かりませんけれど、結論を急がなければ、何かしら、まいさ
んに役立つこともあるのではないかと。あとは、まいさんとお父上のご意思ですから」
母親の顔色が次第に晴れやかになった。
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