めくるめく官能世界に程遠く 愛に方程式はない
「ねえ、お買い物へ行きましょう、一緒に」
「何買うの」
「差し当って、今日はあなたの半袖シャツとズボンね、それと私のスカートとかパンツと
か、あと下着類もね」
「スカートを履いてるの見たことないんだけど、履くの」
「まっ、失礼ね、すこしおばさんはいってるけど、これでも女よ」
「はあ、そうですか」
「そこで納得しちゃうわけ」
「いや、納得はしてませんよ、どこから見てもいい女だし、いい匂いの女だし、妻だし」
「えっ、今、何て」
「どこから見てもいい女、いい匂いの女って言ったけど」
「そのあとよ、何ておっしゃったの」
「何だっけ」
「んーもう」
「牛」「なにそれ、今、言ったのに忘れちゃったの」
「妻」「そうよ、そうそう、もう一度おっしゃって」
「妻」「うんうん、もう一度」
「妻」「はい、もう一度」
「妻、って、何回言わせるのさ」
「うふ、いい響きよねー、やすらぎを覚えるいい響きだわ」
「へえ、そうなんだ」
「さっ、早く行きましょ」
急いでいる時に何度も言わせるか、フツウ。
(気分よくショッピングをするための、ウォーミングアップか、心の体操なんだろうよ)
「今日はありがとうございました。お疲れになったでしょう」
「ふうー、どっちを向いても女性ばかり、どこから湧いて出て来たかと思うぐらい、
これでもかこれでもかとわんさかいて、目のやり場に困ったよ」
「うふ、女性への免疫が全然ないあなたですものね、わかるけど、そのうち慣れるわ」
「いや、慣れないと思うよ、女性が集合したあのニオイ」
美熟女が後ろを向いてガッツポーズ「うふ、ヨシ」
いい匂いといわれてる自分の匂いに確信が持てず、他の女性達と匂い試しでもしてたのだ
ろうか。
(夢遊病者のように、他の女性達の匂いに釣られでもしていたら、今ごろ、命がなかっ
たろうな、ナムナム)
「ここに来て服を脱いで立ってごらん」
「これでいいかしら」
目の前で服を脱いだ美熟女の肉体は、精細画から抜け出てきたように美しい。
彼女だけが常に発する匂いも素晴らく、目隠しをして、鼻を数センチ近づけただけでも美
熟女と分かる。
下半身へ顔を落とし、桃尻を両腕で掴んで引き寄せて、パンティを穿いた下腹部ごと、鼻
に押し付けてみた。
日々、体を重ねる男と女が漂わせる情愛深き香りが鼻腔を突いた。
まだ舌舐めもしていないのに、美熟女のパンティは湿りを滲ませ、「ふうー」と彼女の
口からは吐息が漏れた。
股間に密着させた顔を両手で押さえ、腰を前後に揺らし始めた。
脚の力が抜けて太腿が震え、膝折れしそうになり、たまりかねてソファーに倒れ込んだ
ポロシャツとズボンを脱ぎ、朝の情交の後、美熟女と交換して穿いた彼女の下着を露わに
すると、愛液と精液が混じり合った淫らな匂いに、肉棒が一気に膨張、そのまま美熟女の
左に横たわった。
ディープキッス、乳房と股間への愛撫、1度目の性交は全て下着着衣のまま行い、全裸で
抱き合ったのは2度目以降だった。
(100組200人のカップルがいれば、セックスも100通り、愛に方程式はないんだよ)
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めくるめく官能世界に程遠く たかが下着、されど下着
「もう、私、ふらふら、何度イカされたか分からないわ」
「そう?まだできると思うけど」
「ええー、まだできるの、すごい人ね、私が初めての女だなんて、信じられないくらい」
「買ってきた下着多くない?」
「ああ、それね、今までの全部処分するつもりよ」
「新品もありそうだし、もったいなくない?」
「いいの」「どうして」
「うーん、どうしてかしらね、急にそうしたくなったの」
「何かあった?」「べつにー」
「まっすぐ目を見て」「・・・・」
「やっぱりな、嘘です、ってちゃんと顔に書いてある」
「どの辺に」「この辺」
紅さす唇を人差し指でなぞってみた。
軽く指を噛み、指を口の中で舐めから、キスしてきて、唾液を絡ませてきた。
言わないで、というサインなのだろう。けれど、気になって仕方なかった。
浪費家でもない美熟女が、何故。
時をおいて、話す気になってくれた。
「あの人とのことを全てなかったことにしたいの、だからよ」
「そうだったんだね」
その後、二度と下着の入れ替えを訊ねることはなかった。
たかが下着、されど下着
(ようやく女が分かってきたようだな)
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めくるめく官能世界に程遠く 一重の桜に思いを重ね
美熟女が童貞を初めて体内に迎え入れたその日から、彼女の左手薬指には結婚指輪がなく、
指輪の跡だけがくっきり残されていた。
以前から離婚調停は始まっていたのだから、むしろ、はめているほうが、おかしかったと
もいえるけれど、世間体や、窺い知ることのできないご主人への複雑な思いを抱えていた
のだろうと、敢えて訊ねることはしなかった。
可憐な指の白い窪みが跡形もなく消え去ればいい、そう願えば願うほど、見えない指輪が
「どうだ、青二才、叩かれても蹴られても何も言えない女に躾けたのはこの俺だ、この女
は俺の女だ」と、あざ笑う。
いたたまれなかった。
しかし或る時、突然ひらめいた「そうだ、思いを逆転させればいい」
苦い思い出なら誰でも心の中にある、消してしまいたい過去を引きずることに何の意味が
ある、「今ある思いを分厚くし、嫌な思いは心の片隅で砂粒ほどに小さくさせておけばい
い」、何故、気付かなかったのだろう。
(頭がわるいからだ)
即断即決、即、実行に移した。
「はい、これ」
「なあに、何かしら、えっ、なにこれ、私に」
「指を出して」
美熟女の左手の薬指にはめてみた。
ものの見事に白い窪みにドンっと居座った。
「!婚約指輪!?」
「学生の身だから、分相応なことしかできないけどね」
「一輪立爪、高いのよ、どうなさったの」
「貯まったバイト代で、下戸だし、ラブホはおろか、風俗へ行ったこともないから、自然
に貯まった」
一輪立爪にしたのには訳がある。
バイト代だけで買える代物ではなく、母が息子のためにと、蓄えてくれていたものも含ま
れている。今は彼女に言わないでおくよ、母さんありがとう、母さんの息子に生まれてよ
かったよ、心からありがとうを云いたいよ、会いたい。
(年上の女を好きになった原点だ、純なる母の美、努々忘れるでない)
「何も知らされてなかったから、嬉しくて嬉しくて、もう何て言えばいいの、どうもあり
がとう、まだドキドキしてる、ほら、触ってみて、ね、ドキドキしてるでしょ」
シフォンのブラウスに手を当て耳を当て、心臓の鼓動を聴いてみた。
香る匂いに脳天パー、乳房をついでに揉み揉みしたかったけれど、ここはじっと我慢の子。
(どこまでイヤラシイ奴なんだ、顔を洗って出直してこい、ご町内のみなさーん、むっ
つりスケベがいますよ、ご注意くださーい)
「ほんとだ、けっこう速いね、喜ぶ顔を見れてよかった・・あー、また、そんなに涙を溜
めてー、お化粧が台無しになっちゃうよ」
「だって、思ってもみなかったんですもん、私、あなたに逢えて本当に幸せよ」
キスの嵐に涙の随喜、か細い指の小さな光りがぼやけて見えた。
香しき 一重の桜 腕の中 思いを重ね 共に咲くらん
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