めくるめく官能世界に程遠く 美熟女の涙
美熟女が母の墓参りをしたいというので、菩提寺へ案内した。
結婚前なのに、何故・・・・
母が生前、永代使用料を払っておいた土地に建てた我が家分家の墓石、刻まれている名
も未だ一人、ほとんど苔も生えていない。
墓前に立つと、彼女はおもむろにバックから歯ブラシ、スポンジ、雑巾、タオルを取り
出して、こう言った「お掃除しましょ」
ふたりで磨いた。陽の光を浴びて建立の輝きを取り戻した。
時折り、カラスの鳴き声がする他は静寂そのもの、これが首都圏にある古い菩提寺とは
到底思えなかった。
花束を添え、焼香。
線香の煙がゆらゆら立ち上る煙たさに目がしら熱く、母が微笑んでいるように見えた。
美熟女が屈んで手を合わせた。
いつまで経っても立ち上がろうとしない、母と何を話しているのだろうと思った。
「お墓が綺麗になり、母さんもきっと喜んでいるよ、ありがとう」
「お母さま、ごめんなさい」、彼女は涙を溢してそう言った。
意味は分からない、分からないけれど、まあるくした背中が愛おしく、背後から両腕を
回し、胸の中に彼女の身体をそのまま収め、髪を顔で撫でた。
彼女が言ったあの意味も涙も、未だに分からないけれど、分からなくてよいと思ってい
る。
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