めくるめく官能世界に程遠く
「いだいまー」
「お帰りなさい、お疲れさま」
まゆみから軽いキス
「ん?何かいいことあった」
「コートの直しが終わったの、お母さまが着てらしたものよ、紺色と白黒チェック柄の
リバーシブル、どう、似合うかしら」
「着てごらん・・・へえー、歩くと裾からチェック柄がチラっと見えて、とてもいい、
まゆさん、センスいいね、似合うよ」
「うふ、ファッションセンスがいいのはお母さまよ、お店の人がね、オーダーメイドの
しっかりした作りで、シックで年代を感じさせない若々しいデザインに感心なさってい
たわ」
「ふうん、まゆさんが母さんのコートをねえ」
「ねえ、あなたも着れないかしら」
「僕はまゆさんのでいいよ、まゆさんを肌身に感じられていい」
「妻の服を好んで着ているなんて、うふ、ヘンな旦那さま」
「似合うからと、まゆさんの服をせっせと着せてるの、まゆさんだよ」
「だって、ほんとに似合うんですもの、着ているあなたを見ているだけで、不思議に抱
かれている気分になるのよね、あー、またおかしくなってきちゃうわ」
「ジャスト待ってモメント、腹減った」
「キッチンきれい、お風呂もおトイレも、家じゅうきれいだわ、あなたがひとりでされ
たの」
「日頃まゆさんがやっているから、たいして時間が掛からなかったよ」
「あー、まゆさんたちが明日来られるのね」
「うん、まゆさんの母親のチェックを無事に通すため」
「考えることが他の男性とぜんぜん違うのね」
「そうかな」
「そうよ、用意周到に考えられていて、いざとなったら短い時間にさっとやってしまわ
られるの、あなたは面倒くさいからとおっしゃいますけれど、ふつう、面倒くさがり屋
の人は、こんなことしません」
「じゃあ、ふつうの面倒くさがり屋はどうするのだろう」
「面倒なので考えません、面倒なので結果を予想しません、面倒なので何もしません、
面倒なので行き当たりばったり、面倒なのですべて他人任せ、面倒なので結果に責任を
持ちません、面倒なので愚痴を言い合ってわいわいがやがや、憂さを晴らします」
「はは、AIでも考え行動する時代だよ、僕に言わせれば、それは生きているのが面倒な
んですよ、ロボット以下、本当の怠け者はどうしたら怠けられるか始終考えて行動して
いる」
「ねえ、今夜はまいさんに先を越されないための地球最後の日だわ、早くきて」
「あはは」
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