めくるめく官能世界に程遠く 1/fのゆらぎ
以前お世話になった先輩が奥様同伴でアパートに訪ねていらした。
修士を終えられた翌年、結婚された。
「元気そうですね」
「その節は大変お世話になりました、ありがとうございました、先輩もお変わりなく、
お元気なご様子で」
「コレが、ディズニーランドへ行きたいと言うので、観光ついでに顔を見に寄ってみ
ましたよ」
「家内でございます、どうぞ、宜しくお願いします、主人共々お邪魔してしまって、
ごめんなさいね」
品の良い、素朴な感じのするご婦人、きっと先輩との相性も良かったのだろうと思った。
「ディズニーは私もコレも初めてで、人の多さには参りましたよ」
「そうでいらしたんですか、実は僕も言ったことがないんです」
「あら、デートでも?」
「ええ、大学に入ってから、デート自体したことがなかったもので」
「そうなんですね、主人の言う通りの方だわ」
「コレがね、嘘だ嘘だと、私の言うことを信用しないんですよ、暇な文系じゃあるまい
しね、で、それなら実物を見せてやる、と」
「はは、僕は証拠品ですか」
「はは、まあ、そうなるかな」
「でも、こんなに綺麗に片付いたお部屋ですもの、今は彼女さん、いらっしゃいますの
よね」
「えっ、ええ、今はまあ」
(女の勘は鋭い、舐めてかかると大変なことになるぞよ)
「ほら、私の勝ちだわ、うふ」
「ご夫婦仲が宜しくていいですね、カップル仲を良くする秘訣があれば、お教え願えま
せんか、無粋な者で、女性の気持ちがさっぱりなんです」
「喧嘩でもなさったのかしら」
「いいえ、していません、むしろ、順風満帆だと思います」
「それは殿方の見方ね、遠くて近きは男女の仲っていいますもの、満足していると、足
元をすくわれますよ」
「はい」
「女性の心は常に揺らいでいる、と、お思いになれば、ご自身の女性を見る目も違って
くるかもしれませんわね、私に言えるのはこんなことくらい、答えになっていなくて、
ごめんなさいね」
「貴重なアドバイスをありがとうございます、肝に命じます」
(本当に分かったのか、分かった気でいるなら、初めから分からないほうがよいのだ
ぞ)
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