めくるめく官能世界に程遠く
実家に今ではもう誰にも弾かれることないオルガンとピアノがある。
女性の体に触れると、オルガンの音色が自然に思い出され、オルガンを弾くと、足のペ
ダルで空気を送りながら音を出すので、鍵盤を叩いても音が出たり出なかったり、また
その音もピアノのようなはっきりした音でなく、鼻をつまんで声を出したときのような
こもった音、体内、ことに女性の内なる柔らかな調べを奏でているような気分になる。
隣りに座った母の音色をなぞって遊んだ幼い頃の遠い記憶、オルガンもピアノも、もの
にはならなかったけれど、詰め込みでない自由な情操に育まれた意義はとても大きく、
まゆみへのオルガン打鍵にも似た全身愛撫で、日々変化する彼女特有の音を引き出せれ
ば、これに優る喜びはない。
※元投稿はこちら >>