めくるめく官能世界に程遠く 一件落着
「どうだった、実家の様子は」
「どうもこうもありません、実家にいる兄嫁の話によると、母が戻ってすぐ、熱出して
寝込んでしまったそうよ」
「お疲れだったとか」
「そうじゃなくて、あなたが言った言葉で」
「ん?」
「『幸せにするよう一生努力する』と、おっしゃったんですってね」
「言いましたよ」
「ふつう『一生幸せにしますから娘さんをください』とか言いません?」
「まあ、一般的にはね」
「それを聞いて、私まで悲しくて涙が出ちゃったわ」
(よく泣く女だ)
「だけど、言えないものは言えない、言ったら大嘘になるよ」
「嘘でもいいの、両親に結婚を願い出る場合の常套句なんですから」
「そんな、言ったもの勝ち、あとは野となれ山となれ、は、僕は嫌だ」
「まあ、なんて強情なんでしょ、あなたを母が応援する側に回ったのが、何かわかる気
がするわ」
「えっ、どうなってるさ」
「父は『酒も飲めない奴と、茶を飲んで腹を割って話せるか、将来どうなるかも分から
ん者に娘はやれん』で反対、兄夫婦は、私の出戻りを警戒してでしょうけれど、賛成、
母は、初め反対、あとから賛成に変わったの」
「へえー、何でだろう」
「母が賛成したのは、兄夫婦が家を継いでいる実家に揉め事を持ち込んで欲しくないの
と、将来不安は学生でも社会人でも同じこと、正直で真面目そう、あなたの顔を見て、
案外可愛いかも、娘にはもったいないから、自分の若いツバメに、って思ったからだそ
うよ、冗談でしょうけどね」
「へいへいほうー」
「で、父は母が賛成するならと、渋々認めてくれて、一件落着になりました、はい、お
わり」
「じゃあ、よかったんじゃん、よかった、よかった」
「ムムムッ!私の涙、返してください!」
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