めくるめく官能世界に程遠く
「ただいまー」
「おかえりなさい、お疲れさま」
「帰りの改札口出口で知らない男性に声を掛けられたわ、『お茶しませんか』ですって」
「へえー、ナンパか」
「で、断ったのね、でもしつこく付いてきて、気持ちわるかったから、咄嗟にお店に飛
び込んで、店員さんに事情を説明して、少しの時間、居させて頂いたら、そのうち通り
過ぎていなくなったわ」
「ふうん、ストーカーじゃないか、近頃、妙なのが大勢いるから、気を付けたほうがい
い、それでなくても、まゆさんは歩く姿が綺麗だし、目を付けられやすいよ」
「うふ、で、お店へのお礼ついでにブローチを買っちゃった」
「高そう、飛び込む前にお店を選ぼう」
「無理よ、怖い思いをしていないから、そんなことが言えるんです」
「そうか、そうだね、ごめん」
「あら、その耳の赤いのは何」
「あー、これ、ファーストピアス」
「ええー、あなたがピアス?」
「どう、似合うでしょう」
「ぜんぜん、私でもしていないのに、あなたがピアスね、どっちが女性だか、それも赤
いピアス、どういう心境の変化かしら」
「まいさんがピアスをしたいと言うので、先ず僕がピアスして、耳たぶが膿んだりしな
ければ、まいさんがしてもいいと、これはその実証実験中です」
「あなたって、まいさんのことになると親身度が違うのよね、ストーカーに遭った私に
は『お店を選ぼう』とか、おかしくない?」
「だから謝ったでしょう」
「いつ」
「いま」
「聞こえませんでした」
「ふうー、ごめん、ごめん、ごめん、すいません、すいません、すいません」
「うふふ、あなたって、やはり率直で素敵な男性だわ、うっふん」
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