めくるめく官能世界に程遠く
「まゆさん、インターンでお世話になった社長が何故、僕のような者を預かると言い出
されたか、ようやく分かったよ、媒酌人の人の推挙だった、社長が親父に直談判した目
的もね」
「ええー、それじゃあ、お父さまがあなたを自社雇用するよう仕向けるのが目的だった
と」
「うん」
「何でまたそんな遠回りなことを、媒酌人の方がお父さまに直接言えば済みましたでし
ょうに」
「母の苦渋を知っていたからですよ、親父は母や母方の親類縁者に決して頭を下げなか
った、母方の媒酌人の方が直に言ったところで、親父は聞く耳を持たないだろうと考え
たから、媒酌人の方が表にでないやり方で、親父の翻意を促したのです」
「でも、どうしてそこまでして、あなたをお父さまの会社から始めさせようとされたの
かしら」
「いろいろ考えたけれど、答えは只一つしかない、母は信頼を裏切った親父を完全には
信用できず、会社の将来を息子の僕に早めに託したかった」
「そうだったんですね」
「それと、まゆさん、媒酌人の方は現在、財団法人の理事をされていて、まゆさんの会
社はそこの会員でもある。セクハラが一掃されたのも、おそらくまゆさんの勘通り、貴
女が母の跡を継ぐたった一人の女性で、問題のある会社や部署のいる場所はそぐわない
と判断したからですよ」
りょうはここまで一気に話し、まゆみの顔を見て、無言で頷いた。
沈黙の時が流れ、まゆみはりょうに言った。
「私、がんばる、あなたの妻として、お母さまの女の城を守る後継ぎとして、そして何
よりも、私自身のために頑張ります」
その顔に、以前のような不幸のニオイのする暗い影は微塵もなかった。
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