めくるめく官能世界に程遠く
「あなた、私の勤め先に何かされました」
「いいや、何も」
「おかしいわね、私、担当部署を移動になったの、この時期に急によ」
「媒酌人の人から、まゆさんの勤務先を訊ねられて答えただけですよ」
「その方って、お母さまのご親戚でしたわよね」
「そうですよ」
「どんな方ですの」
「むかし母を娘のように可愛がってくれた人で、僕が生まれた病院も、その人が懇意に
されていた産婦人科部長のところ」
「今、何をされている方」
「年金生活だと思うけれど、以前は、県議を数回されて瑞宝章を受勲された」
「きっとその方だわ、今の担当部署の雰囲気ががらっと変わって、私だけでなく、セク
ハラがいっぺんになくなったのよ」
「へえー、すごいね」
「すごいのは会社じゃなくて、その方を私達に導いてくださったお母さまよ」
「ふうん」
「ふうんじゃなくて」
「?」
「あなたってどこまでお坊ちゃまなの、私なんかがお付き合いして本当によかった人な
のかしら」
「あのね、僕はしがない学生、僕は僕なの、まゆさんを娶るのは僕であって、親戚では
ないの、ステータスも学歴も関係ないの、僕の妻はまゆさんなの、まゆさんしかいないの、
You see?」
「・・・・」
「ユー シー?」
「アイ シー」
「ワンスモア アゲイン」
「アイ シー」
「桶、桶、愛の桶、愛してるわん」
「・・・・愛されてるわん・・・・あなた」
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