先に健太が相談室で待っていると、遅れて里子が入ってきた。
「ごめんね、待たせちゃったね、さあ始めようか。課題はやってきたかな?」言いながら椅子に座り、準備を始めた。「やってきました。よろしくお願いします。なかなかテーマが難しいから時間かかりました」 「そうでしょ。でも本番もそんな感じだから、今から慣れておかないとね。」 里子は健太に微笑みながら、課題に目を移した。
一通り見て、いろいろ添削を受け、とりあえずは終了したが、健太は一人ドキドキしていた。相談室は個室なので、里子の甘い香りで部屋が満たされていたのだ。
あぁ、里子先生の匂い、いいなあ、と思いながら里子の話しを聞いていたので、余計に意識してしまっていた。
そして里子が立ち上がり、窓際で背伸びをした。
その時、白いワンピースが光に照らされて、里子の体のラインが透けて見えた。胸の膨らみから腰周りから太もも、足首までのシルエットが健太の前に写し出された。
うわあ、こんなのみたらやばいよ、どうしよう、
などと健太は思いながらまばたきせずに眺めていた。ほんの一瞬の出来事が、スローモーションのようにみえた。
里子は、よし、と独り言を言ったあと、健太を見つめて切り出した。
「健太くん、今度の土曜日ね、雅彦が帰ってくるの。久しぶりだから、健太くん、うちに来ない?雅彦もなかなか健太くんと会えないし、前に帰った時、会いたがっていたから。夜ごはんでも一緒に食べよ。料理は私がごちそう振る舞っちゃうから。ね、おいでよ」 健太は迷うことなく、「ぜひ行きたいです。奥野先生の料理が食べれるなんて楽しみだなあ。」 「じゃあ夕方5時くらいに来てね、早速雅彦にも伝えるね。頑張って料理作るから楽しみにしててね」 今までみたことのない笑顔で、里子は話しをしていた。
やっぱりうれしいよね、母親だもんね、そう思う健太に少し嫉妬のような感情が芽生えていた。
そして土曜日当日、健太は出掛ける前に、思い出したように、自分の一眼レフを持ち出した。せっかくだから記念撮影でもしようっと、そんな思いを持ちながら、里子の家に向かった。
※元投稿はこちら >>