しばらく健太は里子を抱き締めていた。どれくらい時間がたったのかわからないが、健太には長く感じた時間だった。
抱き締めちゃった、里子さん、怒るかな、僕の気持ち、受け入れてくれたかな、いろいろ考えていると、健太くん、と小さな声でささやいた後、ばっと健太の腕を振りほどいて、「さっ、ごはんたべよっ」 里子はそう大きな声で言うと、料理の準備の続きを始めた。否定されたような健太は、悔しさ、寂しさ、いろんな感情が湧き、その場に立ち尽くした。里子は、何もなかったかのようにキッチンと居間をいったりきたりして食事の準備をしていた。そんな里子を横目に、健太は込み上げてくる感情を抑えきれず、「あの、僕、僕、里子さんが..」と言おうとした時、里子が健太の口に人差し指を当ててきた。
「もういいよ、健太くん、ね?」 そう優しく語りかけ、里子は正面からやさしく、包み込むように健太を抱き締めた。
そして健太の胸の中でささやいた。「ご飯、食べよっか」 健太は小さく頷き、居間に向かった。
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