そうは思っても現実的には智樹の洗濯や食事の用意をしてあげられるわけでもないので、効率的な洗濯のしかたや掃除方法、食品の保存方法や簡単なレシピなどを教えてあげると、その都度智樹は、
「へえー凄い!」
と感心しきったように聞いてくれるので、つい紀子も多弁になる。
ひとしきり家事全般の話しを終えた時、
「理花ちゃんは紀子さんみたいな立派なお母さんに育てられたからあんないい子なんですね?やっぱり俺とは全然違うな…」
「そんなことないわよ!智樹君は素直でとってもいい子よ!ただみんなが少し誤解してるだけ!私は昨夜から智樹君みてきてちゃんとわかったから!」
ニコリと優しく微笑む紀子をみて、心癒される智樹であった。
「本当にそう思ってくれますか?紀子さん…」
「もちろんよ!」
智樹に真剣な表情で見つめられドギマギする紀子であった。
しばらくの沈黙があり紀子は考えごとをしていた。
(今紀子さんって呼んだわよね?なんで私の名前を知ってるのかしら…)
『紀子さん』と呼ばれて嬉しいのだが、なぜ名前を知ってるのか疑問になり思いきって紀子は智樹に聞いてみた。
「智樹君、なんで私の名前しってるの?」
「ああ!ほら、さっきのファミレスで紀子さんの同僚の方が、『紀子さん』って呼んでたから!それで名前わかったんですよ。あっ!『紀子さん』じゃ失礼でしたか?」
照れたように言う智樹に紀子は嬉しさを押し殺しながら、
「ううん、全然いいわよ!私も智樹君って呼んじゃったし…あっ!あのね、理花が智樹君て呼んでたから、昨日理花と話してて…もちろん、智樹君が万引きしたことは言ってないから安心して!」
「それ言われたらヤバいですよ(汗)いまだに万引きしてるなんて中学の奴らに思われたらマジでヤバいですって!(笑)それで…理花ちゃん俺のことなんか言ってましたか?」
「そうなんだ!智樹君の弱み握ったわね(笑)」
「だからもう紀子さん、それだけは許してくださいよ~(笑)」
お互い昨夜のことが冗談として受け取れるようになってきたぐらいに2人は打ち解け始めていた。
「理花がねぇ…智樹君はモテてたって言ってたわよ!」
「全然モテないですよー!理花ちゃんこそ男子から人気あったから!明るくて可愛いってみんな言ってましたよ!あっ!俺はタイプじゃなかったけどね!(笑)」
それを聞いて紀子は昨夜理花がまったく同じことを言ったのを思い出して吹き出してしまった。
「あれ?なんかおかしかった?」
紀子が吹き出したのわ不思議そうにみながら智樹が聞いた。
「違うのよ!昨夜理花も智樹君のことカッコいいって言った後に、自分のタイプじゃないって、智樹君と同じこと言ってたからおかしくなっちゃったのよ!ああ…おかしい(笑)」
笑い転げる紀子であった。
「ヒドイなぁ~紀子さん…俺のことタイプじゃないとかって理花ちゃんが言ったからって、そんなに笑うことないし(笑)」
紀子にとって楽しい時間だったが、あっというまに18時近くになっていて、夕飯の準備や洗濯物の取り込みがあったので
「大変!もうこんな時間!帰らなきゃ…智樹君も明日学校最後だから、ちゃんと帰って遅れないようにね!」
智樹は少し寂しそうに紀子を見て
「はい。わかりました!俺、明後日から早速バイト行くから…日払いでバイト代でるから、明後日必ずワックスのお金返します!明後日、お金渡したいんですけど…」
帰りしたく始めてる紀子にたずねた。
「私、土日はパートお休みなの。慌てて返さなくてもいいわよ!」
「でも…そうだ!紀子さんの番号教えといてください!バイト代はいったら連絡します!」
「そうね!一応私も智樹君の番号聞いといたほうがいいわね!昨夜も聞きそびれちゃったし!」
番号交換してマックを2人は出て
「送ってくわ!乗って!」
智樹の家は歩けるところだったが、また夜遊びしないようにとの意味もあり、紀子は智樹に乗るように促した。
「はい!」
素直に助手席に乗り込み紀子の運転する車は発進した。
すぐに智樹のマンションの前に着き
「さっき教えたとおりにご飯作ってみて!じゃあね!」
紀子は名残りおしさを振り切るように言った。
「紀子さん、今日もありがとうございました。バイト代はいったら連絡します。」
深々と頭を下げる智樹に、昨夜と同じ匂いを紀子は感じながらも
「うん!智樹君もバイト無理しないでね!じゃあね」
智樹が降りたのを確認して家路にと急いだ。
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