部屋のチャイムが鳴った瞬間、2人は唇を離した。
「なんだよ~せっかくいいとこだったのに…(笑)紀子さんごめんね!」
残念そうに苦笑いしながら智樹は言うが、紀子はホッとしたような残念なような複雑な心境で何も答えられなかった。
それより誰が来たのか気になって、もし智樹の友達だとしたら、自分がなぜここにいるのか不思議がられたりしないか?なんて言えばいいのか…そんな不安な気持ちになっていた。
「智樹君のお友達かな?私…どうしたらいい?」
「たぶん…昨日の花火で俺具合悪くなったから、心配して麻菜が来たんだと思う。」
智樹は言いながら、おもむろにスマホ画面見て、
「今から様子みに来るって麻菜からLINE入ってた!全然チェックしてなかった!」
苦笑いしながら智樹は言った。
「麻菜って子、智樹君の彼女なんでしょ?」
紀子は一番気になってたことを、できるだけ平静を装って尋ねたが声がわずかに震えていた。
「彼女じゃないし!学校の友達だから!紀子さん気になるの?(笑)大丈夫ですよ!ちょっと紀子さん待ってて!」
そう言うと智樹は玄関を開けに行ってしまった。
(そりゃ気になるわよ!私のこと好きとか言ったんだから…でも彼女じゃないのね?)
今まで心の中でモヤモヤしてた気持ちが解消されたようで、紀子は嬉しかった。
智樹の部屋に残された紀子はとりあえず服の乱れがないか確認して、リビングへと移ったら、玄関から智樹達の話し声が紀子に聞こえてきた。
女の子の声で
「智~大丈夫?昨夜急に帰るから心配しちゃったよ!熱あんの?はいこれ!お見舞いね」
「おっ!さんきゅー♪亮平も来てくれたんだ♪あがってよ!あっ…でもちょっとお客さん来てるけど…」
どうやら女の子だけでなく、男の子の友達も来てるようだと紀子はわかった。
「智樹、大丈夫か?お客さん来てるんなら俺ら帰るよ!なあ~麻菜!」
「智~お客さんて誰?」
「中学ん時の友達のお母さんなんだけど…中学ん時からお世話になっててさ!たまたま用事があって今日連絡来たから、風邪引いたって言ったらお見舞い来てくれたんだよ!」
智樹が説明しているのだが、紀子は自分が帰るべきだと判断して、荷物を持って帰るために玄関へと向かった。
「こんにちは。お友達でしょ?私帰るから…あがってもらったら?」
「あっ!こんにちは。」
男の子がまず紀子に挨拶した。
麻菜は紀子のことを上から下まで眺めたあと、
「こんにちは。」
と、挨拶した。
全身を麻菜に見られて、麻菜ち心良く思われていないとわかった紀子だが、
「智樹君、今解熱剤で熱下がってるけど、無理したらまた熱あがるかもしれないから、おとなしく部屋で寝かせててあげてね!」
「おばさんのおかげでよくなったですよ!ありがとうございました。」
智樹が言った。
「いいのよ!じゃあお大事にね!」
と言って帰ろうとした紀子に、
「おばさん、その服って○○の服じゃないですか?」
帰ろうと玄関に出た紀子に急に麻菜が声をかけた!
紀子は若い娘が着るようなお店の服を着てるのを麻菜に指摘され、動揺しながら
「えっ…ええ…娘と共用で買ったの!これならお母さんでも大丈夫って娘が言うから…本当は自分が着たいから勧めてきたんだけどね!」
笑ってごまかした紀子であった。
智樹はあらためて紀子が着ている服を眺めながら、
「へえー、おばさん理花ちゃんと服共用してるんだ?全然似合いますね!」
みんなの前では紀子を『おばさん』と智樹は呼んだ。
「やっぱりね!そのワンピ、うちも目つけてたんだよ!でも、おばさんが着てるから…買うのや~めた!うちもママが買ってくれたらいいのになぁ~♪(笑)」
「ごめんなさいね…私みたいなおばさんが着てて…じゃあ智樹君、お大事に!」
紀子は高校生達に、若い娘が着るべきであろうワンピースを着てる姿を見られてるのが、たまらなく恥ずかしくなり、逃げるように帰っていった。
帰りぎわに麻菜の軽蔑したような冷ややかな視線をうけたのも紀子を急がせたのだった。
「ありがとうございました!」
後ろから智樹の声が聞こえたが振り向きもせず、紀子はその場から立ち去った。
早くこの場から立ち去りたい一心で、コインパーキングの清算をすまし、紀子は素早く車を走らせた。
(今ごろ、あの子達…おばさんが若い娘の服着てって、私のこと笑ってるのかしら?)
紀子は昨日買った服を着て智樹の部屋へ行ったことを後悔してたら自然と涙がこぼれていた。
(でも智樹君は脚が綺麗って言ってくれた…)
智樹が褒めてくれたのが紀子の救いであった。
泣き顔で家に帰って、正明や理花がいると変に思われたらいけないので、近くのスーパーに立ち寄り、買い物をしてから帰ることにした。
買い物をすませ車に戻ると、智樹からLINEメールが届いていた。
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