その⑤
店長による客の選別は完璧でした。
その後も「あの客と話して来て」と店長に言われるままに接客。
その全ての客が僕に興味を示し、ほとんどの客がDVDを買ってくれました。
買ってくれたDVDは一度僕が預かり、駐車している車まで届けています。
「お買い上げ、ありがとうございました。少し話しをしてもいいですか?」
「ああ、別に構わないよ。何?」
「あの・・・もし良かったらサービスさせてもらいたいんですけど」
「サービス? どういうサービス?」
「フェラチオ・・・フェラチオさせてもらえませんか?」
「は?フェラを? 好きなの? それとも得意なのかな? 」
「練習中なんです。上手になりたいので協力して欲しいんです」
そんな感じの流れで話すと、誰一人として断る人はいませんでした。
そしてその人達は、みんなリピーターになってくれました。
「結衣ちゃん、今日もDVDを買ったら車まで届けてくれるのかな?」
「はい、お持ちします。どのDVDにしますか?」
「何でもいいよ。目的はアレだからね。いいよね?」
「あ、はい、もちろんです。では直ぐにお持ちします」
「実は結衣ちゃんに抜いてもらうつもりで二週間も溜めてるんだ」
「そんなに? 濃厚そうですね。どんな味か楽しみです」
でも困ったリピーターもいたりします。
「お金が無いから買えないけど、会話だけでもしてくれる?」
「もちろんです。また今度買ってくださいね」
「しばらく買えそうにないけど、それでも相手をしてくれる?」
「はい、お話しだけでも大丈夫ですよ。いつでも来てください」
「ちょっと車に来てくれない? 大事な用事があるから」
「ごめんなさい。店長に怒られちゃうからダメなんです」
「じゃあ仕事が終わるまで待ってるからさ。いいだろ?」
「それは困ります。そういうサービスはしてませんから」
「サービスじゃなくて自由恋愛だよ。それなら店長も関係ないだろ」
「それはそうですが・・・でも僕、女の人が好きなので・・・」
「え? 嘘だろ? でも俺は結衣ちゃんを諦めるつもりはないからね」
「・・・・・・・」
そんなある日、新規の客が僕に話しかけてきました。
「失礼ですが、凄く可愛い男の娘がいると聞いたのですが、あなたですか?」
「凄く可愛いかどうか分かりませんが、バイトは僕一人だけですけど」
「やはりそうでしたか。噂以上ですな。男とは思えないですよ」
「いえ、そんなことは・・・」
「あと、噂がもう一つ。DVDを買えばサービスしてくれるというのは?」
「えっと・・・お車までDVDをお持ちしますので・・・はい」
「それでは、これを頼みます。あとは車で待っていればいいのですか?」
「はい、直ぐにお持ちしますから」
車までDVDを持って行くと、運転席にも助手席にも客の姿が見えない。
スモークしてある後部ガラスに顔を近づけると、中から数人の男が出てきた。
「あ、あの・・・先程のDVDです。ありがとうございました」
「おい、ちょっと待てよ。他にもやることがあるんじゃないのか?」
店内での丁寧な態度と違い、乱暴な口調で僕に言ってきました。
「あの・・・複数のお客様を相手にするのはちょっと・・・」
「いや、相手は俺だけだよ。こいつらは見物人だ。気にするなよ」
「こういうことは初めてなので、店長に相談してみないと・・・」
「俺はそれでもいいぞ。ただ、今より悪い状況になるのは確実だけどな」
「でも僕だけでは判断できないので・・・」
「よし、それなら店に戻ろうか。おい、お前らも付いてこい」
僕は四人の男達と一緒に店に戻り、店長の所へ行きました。
男達は店長を激しく責め立て、脅しているようでした。
「結衣君、ちょっとこっちへ来てくれるかい?」
「すみませんでした、店長。僕に何かできることがありますか?」
「結衣君が気にすることはないよ。何も心配しなくていいからね」
「店長・・・本当に何か出来ることがあれば言ってください」
「あとで連絡するから、ここに住所・連絡先を書いてくれないか」
渡された紙は住所・氏名・生年月日などを書くようになっていた。
「あと、ここに印鑑を。無いなら拇印でいいからね」
よく分からないけど、言われるままにサインをして拇印も押しました。
その夜、三田君に昼間の事件を話していました。
そして突然の来客、こんな夜に誰だろう。
「誰だ? こんな時間に」
三田君が玄関を開けると、昼間の男達が立っているのが見えました。
「男と一緒に住んでるのか。可愛い顔して、色々やってるんだな」
「突然に何ですか。誰なんだ、アンタ達。警察を呼びますよ」
「呼んでくれても構いませんよ。こちらには何も非はありませんから」
「三田君、この人達は昼間の・・・。あの、何か僕に用ですか?」
「ああ、迎えに来たんだよ。俺の事務所と契約した件で」
「事務所? 契約? 何のことですか?」
「ほら、これだよ。昼間に書いただろ? 契約書だよ」
「契約書・・・僕はそんなつもりはありませんでしたけど・・・」
「それは通らないよ。キミのサインも拇印も押してあるんだからな」
ようやくサインをした時の違和感の理由が分かりました。
「そ、そんなの無効です。だって僕は何も知らなかったんだから」
「そんな子供みたいな言い訳が通用すると思ってるのか?」
三田君が僕のサインした契約書を読んでいた、いや、読まされていた。
「結衣、これは正式な契約書だよ。こちらに勝ち目は無さそうだぞ」
「彼氏は理解力があるみたいだな。では、ここで一緒に話を詰めようか」
「僕は何にサインさせられたの? 一体、何の事務所ですか?」
「結衣、AV出演の契約みたいだよ。ここはアダルト専門の事務所なんだ」
「僕がAVに?」
「ま、そういうことだ。キミなら相当に稼げるぞ。悪くない話だろ」
「嫌です、嫌ですよ。だって僕は・・・そんな・・・」
「契約は三年だ。三年間働けば自由にしてやるから安心しろ」
「そんな・・三年なんて・・・」
「キミ次第だ。頑張って稼いでくれたら短縮してやる。約束する」
「本当ですか? 大学を卒業するまでには辞めさせてくれますか?」
「卒業前に? 今は三年生か。まぁ頑張り次第だな」
「わかりました。頑張りますので、約束は守ってくださいね」
口約束だけでは信用できないので、契約書に書き足してもらいました。
三田君がマネージャーになると言い出し、土下座してお願いをしてました。
最終的に相手が折れてくれて、僕のマネージャーと認められました。
ただし、三田君は無給ということになったようです。
僕も一人では心細かったので、少しだけ安心しました。
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