その⑫
用意された服に着替えると、三人の所へ急ぎました。
「お待たせしました、結衣と言います。よろしくお願いします」
チーフとカメラは笑顔を見せたものの、サブの人は無言。
気になりつつも撮影が始まり、初のレポーターをやってみました。
初回は『目立たないけど美味しいお店』という食レポ。
出された料理を食べて「美味しい~」とか言うだけ。
特に難しくもなく食レポは進み、少しの休憩となりました。
チーフとカメラは優しいけど、やはりサブの言動が厳しい気がする。
ちょっと確認してみることにしました。
「サブさん、このお水をもらっても構いませんか?」
「はぁ? 俺のだよ。水くらい自分で買ってこいよ」
「すみません。着替えた時に財布を置いてきたもので」
「チッ仕方ないな。何で俺の水をこんな奴に」
「あの、質問なんですけど。もしかして僕のこと嫌いですか?」
「そうだな。男か女かハッキリしないから扱い方が分からんな」
「そうでしたか。それなら現場では女として扱ってください」
「はぁ? お前にはチンコが付いてるだろうが」
「そうですけど、この服は女性用ですよ。それに・・・ほら」
僕はシャツを捲って、ノーブラの胸を見せた。
「知ってる、チラチラと見えてたよ。男のくせに何だ、その胸は」
「何もしてないんですよ。自然に膨らんだんです」
「そんなことがある訳ないだろ。男のくせに胸の整形なんて」
「違います。嘘だと思うなら触ってみてください。どうぞ」
僕はサブの手を引き、直に胸を触らせた。
「どうですか?」
「どうって・・・よく分からんよ」
「もう少し揉んでみて・・・あ、いやん・・・」
「な、何もしてないぞ。変な声を出すなよ」
「だって急に乳首を突いたりするから・・・エッチ」
「それはお前が無理矢理にだな・・・」
「僕のこと、まだ嫌いですか?」
「い、いや・・・別に嫌いという訳ではなくてだな、うん」
「良かったぁ。嫌いじゃないんですね? では好きですか?」
「好き? いや、それはどうだろうかな」
「胸だけではダメですか? それなら他に・・・えいっ」
僕はサブに抱きつき、キスしました。
サブは驚いた顔をしたものの、抵抗はしませんでした。
そのうちサブの舌が強引に入ってきて、僕の舌を絡め取りました。
さらにサブの手が僕の胸を強く揉み始めて、僕が声を上げる。
「あ、悪い。痛かったかい?」
「いえ、気持ち良かったです。やっと声が優しくなりましたね」
「俺は最初から優しかったぞ。何を言ってるんだよ」
「では、そういうことにしておきますね。お水、もらっていいですか?」
サブが頷いたので、僕は水を飲み干しました。
「誰が全部飲んでいいと言ったんだよ。お詫びをしてもらうからな」
「同じ水でいいですか? 後で買ってお返ししますから」
「今だよ。今、返して欲しいんだよ」
「そんなこと言ったって・・・今はお金を持ってないんですよ」
「キスしてくれよ、濃厚なヤツを頼む。それで勘弁してやる」
「いいですよ、サブさん。でも恥ずかしいから目を瞑ってください」
素直に目を閉じるサブを置いて、僕はその場を離れました。
「サブさ~ん、何をやってるんですかぁ。チーフが呼んでますよぉ」
照れた顔で走ってくるのを見て、厳しい人はいなくなったと思いました。
その後の撮影は順調に進み、予定よりも早くに終了しました。
「早く済んだから、何か食べにでも行こうか?」
「でも、どこで何を食べます? 結衣ちゃん、何か希望はある?」
優しくなったサブは、僕をちゃん付けで呼ぶようになった。
「近くに知ってる焼き鳥屋さんがありますけど、どうですか?」
「焼き鳥か、いいねぇ。よし、決まり。行くぞ」
チーフが即決したので、誰も何も言わずに僕について来ました。
目的の焼き鳥屋には直ぐに着いた。
「どうも、大将さん。席は空いてます? あ、服を借りてましたね」
例のオフ会の焼き鳥屋である、大将が驚いた顔で僕を見ている。
「い、いらっしゃい。結衣・・ちゃん。後ろの人達は・・・何?」
「こちらはTV局の人達です。あ、取材してもらいますか?」
「今回の企画と合ってるね。この店で結衣のオススメは何なの?」
チーフは僕を呼び捨てか、カメラは僕を君付けで呼んでたな。
みんなの呼び方の違いで温度差が分かるな。
「何だろう? そういえば何も食べてなかったな」
「どういうこと? いつもはアルコールだけしか頼まないの?」
「説明が難しいんだけど、前に来た時は服を脱がされただけですから」
「またまた面白い冗談だな。まぁいいや。何か頼もうよ」
サブがトイレへ行くというので、一応僕が案内することに。
店の奥の、その裏側にあるようだけど、実は僕もよく知らない。
扉を開けると、その奥にあったトイレの中へ押し込まれました。
「嫌だな、サブさん。一緒には無理ですよ」
「結衣ちゃん、この後、俺とデートしてくれないか?」
「えっと・・ごめんなさい。チーフに誘われてて・・・」
「チーフに? 何処に行くと言ってた? 何をすると・・・」
「何をするか知らないけど、チーフに誘われたら断れないでしょ?」
「行くなよ。絶対にエッチなことをされるぞ。俺と一緒に居ろよ」
「サブさんはエッチなことをしないんですか? 」
「俺は、その・・・合意の上でだな・・無理には絶対にしないぞ」
「うん、分かってますよ。でも相手はチーフだからなぁ」
「もしチーフに身体を求められたらどうするつもりだ?」
「言われた通りにするかな、当然でしょ。だってチーフだもの」
「ぐぐぐ・・・ダメだ。絶対に行かせないからな」
「うん、何とかしてみます。とりあえず戻っていいですか?」
サブから逃れてチーフ達の元へ。
「長かったな、トイレ。ん? アイツはまだなのか?」
「はい、先に頼んでおいてくださいって言ってましたよ」
「よし、じゃあ上がって床に座るか。結衣もいいだろ?」
「今日はミニスカートではないから大丈夫です」
「何だよ。まるで前回はミニスカで座ったみたいな言い方だな」
「そうですよ。でもどうせ全部脱がされちゃったんですけど」
「本当に冗談が上手いな。何度も聞くと本気にしてしまうぞ」
本当なんだけど、説明が面倒なのでいいか。
サブも戻り、四人で小上がりの席に座る。
「とりあえず生ビールを四杯でいいですか?」
「ちょっと待った。俺は車だからビールは三杯にしてください」
「あ、サブさんは運転でしたね。すみません。では三杯で・・」
「結衣君、ごめん。俺もまだ仕事があるからビールは無しで」
「カメラさんも? えっと、まだ仕事が終わってなかったんですか?」
「そうだな。仕方ない、俺と結衣だけで飲むとするか」
「いえ、ダメです。仕事は終わったと思ってました、すみません」
「結衣君は知らなくて当然だし、気にする必要はないよ」
「必要あります。ところで今からは何の仕事をするんですか?」
「編集だよ。今、撮ったのを放送用に編集するんだ」
「それはカメラさんの仕事なの? 知らなかったな」
「その編集したのを俺がチェックして、上に許可をもらうのさ」
「チーフは編集に立ち会わないんですか?」
「まぁ当然だな。それは俺の仕事ではないからな」
「初めてなので色々と経験したいです。僕も立ち会っていいですか?」
「結衣が編集に? 面白いことは何もないから止めた方がいいよ」
「いえ、チーフ。もしカメラさんが許してくれるなら参加したいです」
「おい、カメラ。邪魔だよな? お前も一人の方が都合がいいだろ?」
「そんなことはないです。構いませんよ、結衣君」
そういうことで、急遽解散となり、飲みは次の機会に延期しました。
大将には「また来るから」と謝り、サブの運転でTV局へ戻ることに。
しかし車に乗り込む前にチーフに呼び止められました。
「どういうつもりだよ。この後、約束してただろ?」
「あ、忘れてました。カメラさんに謝ることばかり考えてて・・・」
「忘れてただと? どうするつもりだよ、これから」
「でもサブさんにもカメラさんにも言ってしまいましたし・・・」
「この埋め合わせはキッチリとしてもらうからな」
「はい、次回はチーフの望むことを何でもしますから」
「何でもだな? 本当だな? 約束だぞ」
そんな約束をして、僕はサブとカメラの待つ車に乗り込みました。
「結衣ちゃん、チーフは何か言ってた?」
「うん、別になんでもないです。大丈夫ですから」
「怪しいな。何か変な約束をさせられたりしなかった?」
「約束というか、次は何でも言うことをきいてもらう、とか・・」
「何だよ、それ。大変じゃないか。チーフに食われちまうぞ」
「えっ? そういう意味なんですか? 僕は撮影のことかと・・・」
「違うよ、結衣君。完全にチーフはヤルつもりだよ」
「カメラさんも同意見なのか・・・どうしよう。困ったな」
「俺達で守ってやるよ。次も俺達から離れるなよ」
TV局に着くと、僕とカメラを降ろしてサブは行ってしまいました。
最初はサブも一緒に降りて来そうな感じでした。
でもカメラに「お疲れ。ここでいいよ」と言われ、そのまま帰宅に。
結局、編集はカメラと二人きりでの作業になりました。
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