その⑩
鬼頭と別れて三田君の所に戻ると、彼が抱きついてきました。
「心配したぞ。今まで何していたんだ」
「う~ん、ちょっとレンさんとね」
「確か、レンは同じ歳くらいと言ってたよな。あんな奴だったのか?」
「アイツは偽物なんだよ。だからレン君とは呼ばなかったでしょ」
「なぜその場で言わないんだ? 何もされずに済んだかもしれないのに」
「それはないよ。それにアイツも三田君には気付いてるんだよ」
「俺の何に気付くというんだ?」
「僕のDVDを観てるんだよ。男優の顔を覚えるくらいに観ていたよ」
「しまった。そうだったのか」
「でも大丈夫。口止めしてきたから」
「それなら本物のレンはどこにいるんだ? 今回はレンの仕切りだろ?」
「そこが分からないけど、まぁ仕方ないよ。もう忘れていいよ」
三田君はゴチャゴチャと言ってたけど、僕は無視しました。
数日後、意外な人に会いました。
「よう、結衣君だったね。俺を憶えてるかい?」
「はい、三田君の先輩さんでしたよね?」
「実は三田に頼まれて調べモノをしていたんだよ」
「三田君に? 何を頼まれたのでしょうか?」
「本当は知ってるんだろう? レンのことだよ、痴漢のレン」
「あーそうでしたか。それで分かったんですか?」
「あぁ分かったよ。俺には色々とツテがあるからね」
「そ、そうですか・・・・で?」
「可愛い顔して白々しいな。レンは結衣君の自作自演なんだろ?」
「・・・・・・・」
「男達を煽って自分で自分を痴漢させる。恥ずかしい指示を自分に出す」
「・・・・・・・」
「想像以上に変態娘・・・いや、変態男の娘か。気に入ったよ」
「えっ?」
「レンのアカウントは俺に寄越せ。それから俺と仕事をやってみないか」
「先輩さんの仕事って・・・でも僕、今はAVの事務所にいるんですけど?」
「別に構わんよ。AV女優がTVに出てはダメだという決まりはないさ」
「ではお世話になります。事務所の方へは・・・?」
「俺から連絡しておくよ。俺には色々とツテがあると言ったろ?」
「先輩さんは社長とお知り合いですか?」
「まぁな。ちなみに俺の名前は連川(ツレカワ)だ。通称はレンなんだよ」
「もしかして連川さんがレンになるの? 三田君への説明は無理なのでは?」
「俺が言えば三田は大丈夫だよ。だから今からは俺をレンさんと呼びなよ」
先輩後輩の関係が、どの程度のものかは知りませんが、一応納得しました。
三田君が帰ってくると、何か様子がおかしい。
「三田君、何かあったの?」
「先輩から連絡があったよ。そういうことだったんだな、結衣」
どう説明したのか分からなかったで、僕は曖昧に頷いた。
それにしても対応が早いな、連川さん。
「しかしレン君って呼んでたよね。前に先輩って紹介したよな?」
「痴漢されてたのは紹介前からだし、その時は若く見えたんだよ」
「若く見えた? まぁいいか。それよりTVの仕事するんだよね?」
「う、うん・・・よく分からないんだけどね」
「明日、事務所に来るらしいぞ。もう社長にも話をつけたそうだよ」
本当に行動の早い人だな、あんなに軽薄そうな顔してるくせに。
翌日、事務所で社長と一緒に今後の話をしました。
「今後、結衣君にはTVで働いてもらうので、AVは控えてもらいたいんです」
「連川さんにそう言われたら仕方ありませんね。わかりました」
「あの・・社長、僕の所属はどうなるんですか?」
「それはまだウチの事務所だよ。まだTVで活躍できるとは限らないからな」
「TVで活躍したらAVの仕事は辞めても良いということですか?」
「勿論だ、稼いでくれるならAVでなくてもいいぞ」
「結衣君には情報番組のレポーターをやらせるつもりです。深夜枠ですが」
「深夜の方が合うと思いますよ。多少のエロなら大丈夫でしょうから」
「考えてる企画があるから来週からTV局に来てよね、結衣君」
「もう大学は休学か退学を考えても良いんじゃないか? どうせ行けないだろ」
「そうですね。少し考えてみます」
AVの仕事を始めてからは、ほとんど大学には行ってなかった。
三田君とも話し合った結果、僕は大学を休学することにしました。
三田君は大学に通いながらマネージャーを続けることになりました。
TVの仕事初日、僕は一人でTV局へ行きました。
「早速だけど、現場に行ってくれるかな?」
「は? 僕は何も分からないんですけど大丈夫ですか?」
「慣れたスタッフがいるから大丈夫だ。ところで三田はどうした?」
「抜けられない授業があるので僕一人で来ましたけど・・ダメですか?」
「まぁ仕方ないか。現場ではチーフに色々と教えてもらえばいいよ」
「連川・・・レンさんは来ないんですか?」
「俺は企画して、配置するだけだ。これでも結構忙しいんだよ」
知らない人ばかりで不安だったけど、僕は一人で現場へ向かいました。
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