玄関を入ると出迎えに出て来たのは、かなり年配の女中だった。
そこは当時、連れ込み宿と言われた旅館。
彦則と、てる子では誰の目にも人妻と青年の浮気に映るだろう。
てる子は首に巻いたマフラーで口と鼻を隠し顔が良く分からないように無意識でしていた。
年配の女中からしてみれば、二人がどんな関係か気に成るはずも無く、休憩だと彦則が告げると、たんたんと部屋に案内をして、決まり事のような挨拶を済ませると早々と部屋を出て行く。
狭い前室…襖を開けると、そこには部屋いっぱいぐらいの、ふかぶかとした二組の寝具が敷かれてる。
枕元には水差しとコップがお盆の上に有り、横には漆塗りの木箱に柔らかそうなチリ紙が入っている。
今までに、何組…何百組の男女が、ここで互いの欲望を満たしたんだろう…。
初めて目にする欲望を満たすだけの部屋に、てる子は別の興奮を覚えると同時に、夫を裏切り、とうとうこんな場所にまで来てしまった事に、罪悪感を覚えた。
襖を開け放ったまま控えの間で小さなテーブルを挟みお茶を呑む。
「ここでだったら、誰に遠慮も要らないから、てる子も思い切り乱れてくれ」
興奮した口調で彦則が言う。
「他にも私らみたいな客が来てるんじや」
「居るかも知れんけど、ここはそうする場所やから遠慮する事はない」
やがて彦則が先に立ち上がり、着ている服を脱ぎ始める。
「てる子も脱げ」
彦則の声に促されるように、てる子も立ち上がると衣服に手を掛ける。
先に裸に成った彦則の股間は、既に激しく勃起をしている。
てる子がスリップを脱ぐと、彦則は驚きの表情を見せた。
年末に恥ずかしい思いをしながら買った、あの下着を身に付けて居たからだ。
「てる子、そのパンツ…」
「あんたが喜ぶかなと思い、恥ずかしいけど勇気を出して買ってみた」
子供を産んでない、てる子の下腹部は同年代の女性より締まっていて、その下着姿が何とも妖しげで艶っぽく見えた。
「そのままで、こっちに来い、てる子」
彦則は生唾を飲み込み、てる子を誘う。
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