問題児4人組が放課後の教室でたむろしていることを知ってから、俺は教卓に盗聴器を仕掛けることにした。
時間もだいたい決まっている。
受信した音声を職員室の起動済みのパソコンに自動的に取り込むことは、俺にとってそう難しいことではなかった。
俺は今日のファイルを開いた。
「これ、何だかわかるか?」
「何って、ドリンクの瓶だろ? 愛情1本! ……てか?」
「クロロホルムだよ」
「クロロホルム?!!!」
「あの、先週のフナの解剖で使ったやつか」
「ああ、こいつと二人で少しずつくすねて、この瓶に四分の一くらい集まった」
「よく見つからなかったな。先生、終わったあとに調べて回ってたろ?」
「なあに、通り過ぎたあとですぐに移しかえたよ。机の下で」
「大胆だなあ。で、使ってみたのか?」
「ああ、土曜日に。こいつと二人で隣町まで自転車で行って……」
「女にか? それでやったのか? ちくしょう、いいなあ! 何で言わねえんだよ!」
「ウソだよ。そんなことしたら大事件になるぞ。嗅いだのは、この俺さ」
「なあんだ」
「マスクをとってみようか」
「え? お前、カゼじゃなかったの?」
「おい、鼻の頭が真っ赤じゃないか! 口の端も切れちまってるぜ」
「痛そう~」
「クロロホルムでただれたんだ。お袋にマスクをとって見せろと言われて大変だった」
「で、本当に効くのか?」
「ダメだ。なかなか眠らない。だんだんとボンヤリしてくるんだが、完全に眠るまでには5分以上かかる」
「でもオレ、びっくりしたよ。かかったあとはぐったりして死んだようになったからな。クソも小便も垂れ流しになるし……」
「全身の筋肉がゆるむからな」
「部屋の中はクロロホルムと汚物でものすごいにおいさ。あの甘い、プラスチックが溶けたようなにおい。いまだに頭がガンガンして吐き気がする」
「ま、これでレイプされる女もいるんだから……女って大変だな」
「2時間くらいしてようやく目を開けたときには、オレは本当にうれしくて泣いたよ」
「そんなにか!!」
「大げさだよ。30分から1時間程度だろ? お前って、相当に気が動転してんのな」
「笑うなよ! 俺一人だぞ! 死体みたいになったお前のそばにずっと居たの」
「まあまあ……で。これ、例の計画に使えるの?」
「一戸若菜強姦計画にか?」
「バカ! 略して言えよ。どこで聞かれているかわからないんだぞ」
「はいはい。W.I計画ね」
「気絶している間は吸い込まないだろうから、あまり効き目はないだろうな」
「目が覚めたときに少し嗅がせてみるか? 二人くらいで手足を押さえつけて……」
「でも、口元がただれるのはどうするんだよ? 本人が黙っていても、何かあったってことはすぐにわかるぞ」
「そうか……じゃあ、身近な者には使えないってことだな」
「これ、厳重に密封して、焼却炉の裏手の土の中に埋めようよ」
「あの、フナを埋めたところか?」
「そうさ。いつか、何かあったときに使えるように……」
今日は一瞬ヒヤリとしたが、どうやら何事もなく済んだようだ。
クロロホルムは人体に有害な劇薬だ。
意識がなくなったというのが事実だとすれば、致死量に近い分量を、それと知らずに吸い込んだのだろう。
そこの部分だけはまだ子供だ。
しかし、W.I計画の決行とはいつなのか?
まだ幼児や小学生の女の子が乱暴されたという話は聞かないが……
校長や教頭、保護者たちが勝手に思い込んでいるように、中学生は純真で汚れのないもの……ということにしておいてもらわないと、教師である俺が困るのだ。
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