第20章 - ゲームズ・ピープル・プレイ
その行為が目的であったとしても、突然にその瞬間が訪れたら。。。。かおりの表情は、その瞬間をうまく表現していた。
目を閉じることも、視線を逸らすことも出来ずに、トラックの後部に立ち煙草を吸う男と電話をする男の自らに注がれる視線を受け続けていた。男たちの横を車が通り過ぎてなお、身体を後に捻りながら。
「驚いたな、ノーマークだったよ」
「あぁあん、グレッグ様、見られてしまいました」
「見られることは想定内だっただろ?いや、正確には見せるために、おまえを全裸にしたのだから」
会話が終わる前に、ホテルを囲う塀が現れ、ゲートに車を向ける。見るからに営業用の白く飾り気の無いワンボックスのバンと鉢合わせになる。
リネンサプライの業者かと思ったが、助手席には女の姿が認められた。ワンボックスはゲートから入庫する車を全く念頭に置かず通路の真ん中を進んでいたためすれ違うことが出来ない。
『すみません』と手を挙げて意思表示する運転席の男の表情が一瞬で変わった。ワンボックスの運転席からは、かおりの上半身だけではなく下半身まで見下ろせるのだろう。何やら口元が動いて助手席の女に何かを伝えたが、読唇術のエキスパートですら発した言葉は理解出来ないだろう。
それでも、助手席の女の顔の動きで男が発した言葉は理解出来た。この様なシチュエーションで人間が自然に起こす行動。。。。顔を見られないように顔を逸らす。。。。女は面白いほど忠実にこの行動をしていた。
男が発した言葉は多分、『おい見てみな』だったのであろう。その言葉は、顔を見られる可能性より女の好奇心を引き出したのであろう、女は正面を見た瞬間に目を丸くし『まあ』という言葉を発し、かおりに好奇の視線を注ぎ続けた。
時間にすれば、ほんの数秒だっただろう。顔だけではなく、全身を赤く染めたかおりには数分に感じられたかも知れない、車をバックさせワンボックスをやり過ごした時には恍惚の表情を浮かべていた。
「立て続けのハプニングだったな、かおり」
「ああん、グレッグ様、今は全身が硬直して手で隠すことも出来ませんでした。全身を見られてしまったのでしょうか?」
「運転席が高いからな。こっちから見るものより、あっちから見られるものの方が多いだろうな。
今のは外回りの営業っぽかったな、それにしても会社の車でよく来るよな。クライアントと鉢合わせになったらどうするつもりなんだろう」
「グレッグ様、結局そのクライアントも同じ目的なのですから、秘密の共有化なのではないでしょうか?」
恍惚の表情をしてたのに冷静を取り戻したのか、まともな回答をするかおりが滑稽に感じた。しかも全裸で車の助手席にちょこんと座ったままなのだから。
「おまえは、中々の哲学者だな」
「そんなことはございません。グレッグ様の面白い例えを聞いて、何かゲーム感覚の腹の探り合いを思い出したました。幼稚園のPTAでも良くありますので」
「そうか、じゃあオレたちは腹の探り合いではではなく、心をさらけ出すゲームをしよう」
「グレッグ様は、頭の回転が速い感じます。それに言葉遊びを自然に楽しんでおられると思います」
「かおり先生、いくつになっても先生に褒められるのは嬉しいもんだな。と言うより、先生に褒められることは無かったな。。。。いつも悪さばかりしてたからな。褒められたのは『きみは悪戯の天才だ』くらいだよ」
「そうですね。グレッグ様は、悪戯っ子が、そのまま大人になったみたいな方ですから」
先生のお褒めの言葉が少し照れくさくもあり、お礼を言う代わりに頬にキスをすると、かおりも照れたような仕草をしながらも頬にキスを返してくる。頬にキスというプラトニックな行動を全裸でしたことが恥ずかしかったのかも知れない、かおりは顔を紅潮させてうつむいた。
コテージ風の部屋の横に車を横付けすると『イリプレイサブル』を唄うビヨンセに別れを告げエンジンを止めると、彼女のツアーにキーボーディストと参加する日本人女性に雰囲気の似た全裸の女を助手席から降ろし、手を取り部屋にエスコートした。
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