第19章 - エターナル・フレーム
横を通過する際にスピードを少し落としたため、交差点の手前のバス停には7~8人の男女の姿が認められた。信号が赤に変わればバス停のほんの少し先で止まることになっていたが、信号は黄色にすらならなかった。
「かおり、おまえの祈りが届いてしまったな」
前開きのワンピースのすべてのボタンが外され、ブラやヘアが露になった姿を見られることにはまだ抵抗があるのか、かおりは安堵の表情を浮かべる。
「信号を通過しても外すボタンが無いから、ブラはそのままで乳房を片方づつ出すことにしようか」
幹線道路の脇にホテルの看板が現れ始めた。
「ラッキーナンバーにちなんで3つ目に現れた看板のホテルでいいな?」
2つ目の看板と3つ目の看板は、殆んど隣り合わせのように現れた。ローマ神話の『愛と美の女神』の名を冠したホテルに行くことなる。インドの金ぴかの王宮を思わせる名のホテルよりは良さそうだが、畳の部屋がある和風のホテルに興味があったのも事実だ。
「愛と美の女神、ヴィーナス。。。。マハラジャよりは女を誘いやすい名前だよな?」
「グレッグ様は面白い方ですね」
スピーカーからはサラ・ブライトマンの伸びやかな高音が聴こえ始めた。イントロが終わると曲調が変わり、サッカー日本代表のテーマのお馴染みのメロディになる。
左側に続き、右側の乳房がブラから露になる次の交差点を左折すると『愛と美の女神』を冠したホテルが現れるはずだ。
交差点の手前では、看板が『左折後、ひとつ目の信号を右折してすぐ』と案内し、ホテルがビルではなく、それぞれが独立したコテージ風であることを示している。
「かおり、次が最後の信号みたいだ。そこでワンピースを脱いでしまえ。サラ・ブライトマンが応援してる」
「わかりました」
幹線道路で左折した後には、それほど規模の大きくない倉庫や工場、そして建設予定地と思える空地があるが住宅は無さそうなエリアだった。そんな安心感からか、かおりは躊躇なく了解する。
前方の信号が青から黄色に変わるのが見えた。信号に到達する頃には、赤に変わり停止することになるだろ。
車が停止すると、かおりは急いでシートベルトを外し、ワンピースを脱ぎ始める。左右の腕を袖から抜くと広げたワンピースの上に座り、ブラだけしているような格好になる。
「いっそのこと、ブラも外そうか?」
「あんっ」
言葉にならない言葉を発すると瞬間的に、緊張、躊躇、そして決意が混じり合うような複雑な表情を浮かべる。
ブラから左右の乳房がこぼれ露になっていても全裸では無い安心感が少なからずあるのだろうか?見方によれば、今の格好の方が全裸よりいやらしく見えると思うのだが。。。。
信号が青に変わるタイミングには生まれたままの姿になっていた。後続車も対向車もいないト字型の交差点をゆっくりと右折した先には、大型トラックがハザードランプを点滅させて止まっている。
太陽の位置の関係かフロントガラスが反射し、中の様子が伺えない。逆にこちらの車内は太陽のスポットライトを浴びて丸見えになるはずだ。
その事を一瞬で理解したのだろう、明らかに、かおりの瞳の様子が変わる。まるで小さな炎が瞳に灯ったように。。。。それは、『エターナル・フレーム』、永遠に消えることのない決意を記しているかのように。
人が歩く位のスピードでトラックに近付くと運転席を見上げる。中には誰もいない。車の気配を感じたのだろうか、トラックの後部に立っていた男が顔を覗かせる。トラックを降りて煙草を吸っていたようだ。
トラックの横を通過する間、スピードを変えずに通り抜けると、荷台の後部には、もうひとりの男が携帯電話で話をしているのが見える。
徐行する車からふたりの表情を見るのは容易く、驚きの後には好奇心が表れた。同様にふたりから車の中を見るのは容易く、全裸で助手席に座るかおりは好奇心の対象としてエターナル・フレームの如く目に焼きついてしまった。
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