第17章 - デスティニーズ・チャイルド
屋上パーキングまでは階段ではなくエレベーターを使った。エレベーターを待つものは誰もいない。やがて3機あるエレベーターの真ん中の扉が開き、大学生と思われる男女グループの7~8人が降りてきた。最後に残った子は『開』ボタンを押しながらふたりが乗り込むまで待っていてくれた。
お礼を言うと、ニッコリと微笑みを返してくれるような可愛らしい子だった。肩に届くか届かない軽くウェーブした髪こそショートボブのかおりとは異なるが、身長や体型、着ているワンピースの雰囲気や肘に掛けたトートバッグ、履いていたサンダルがかおりと似ていたため、何か10年前のかおりを想像させた。
『きみは将来、変態S男に恥辱調教される運命にあるんだ』
そう心の中で呟き、エレベーターから去る10年前のかおりを見送った。
「かおり、いまの子、おまえに雰囲気が似てたな?」
「わたしも瞬間的にそう感じました。ワンピースが似てたし」
「ワンピースだけじゃない、トートバッグには気付かなかったのか?マナーを持ち合わせた育ちの良さそうな可愛らしい子だったな。まるで10年前のおまえを見てるように感じたよ。
そして10年後には、M女として開花する運命の子、まさにデスティニーズ・チャイルドかな? デスチャと言えば、ビヨンセのガールズバンドに参加した日本人ピアニストもおまえに雰囲気が似てないか?」
「ああ、辻利恵さんですね?グレッグ様は、本当に幅広い音楽がお好きなのですね。それに本当にロマンティック。。。。」
「ただの変態S男だよ。でも魚座のO型って占いにロマンティストと表現されることが多いな、自覚症状はあまり無いけど」
「占いは当たってると思います。言葉遣いは乱暴でも優しいお言葉に聞こえますもの」
そう言うと、かおりはクスッと笑う。
やがてエレベーターは屋上パーキングのフロアで静かに止まる。会話に夢中になってしまい大切なことを忘れてしまっていた。鏡のようにエレベーターの内部を写し出す扉に向かって、かおりを後から抱きしめ、ワンピースの裾を捲り上げてやれば良かった。
「せっかく、ふたりきりのエレベーターだったんだから、おまえに悪戯するチャンスだったよ」
「グレッグ様ったら。。。。」
可愛らしい女子大生やかおりの好きなビヨンセのコンサートツアーに参加する日本人ピアニストに似ていると言われたのが嬉しかったのかも知れない、機嫌が良くにこやかでM女のオーラが薄れてしまっている。ホテルに着くまでに、そのオーラを取り戻してやろうと思っていた。
「車のキーを貸してごらん、運転してやるから」
「よろしいんですか?」
「いいよ、任せろ。その変わり、おまえが助手席ですることはわかっているよな?」
「あぁん、グレッグ様の意地悪っ。命令してくださらないとわかりません」
「駐車場を出て市街地になったら命令してやる。さあ、乗れ」
このショッピングモールから車で15分位にホテルが点在するエリアがあると聞いていた。
シートに腰掛けイグニッションを回すとデスティニーズ・チャイルドのサバイバーのイントロがスピーカーから流れ出した。
かおりにはホテルまでの道すがら前開きのワンピースのボタンすべてを外させる積もりでいた。
『かおりは、周囲の車や歩行者に見られるかもしれないこの試練にサバイブするだろうか?』
サバイバーという曲から、そんなことを考えていた。あと15分もすれば至福の気分を味わえるはずだ、真っ白なブラウスに着替えさせたかおりに授ける神聖な儀式によって。。。。
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