第14章 - セントエルモズ・ファイヤー
ランジェリーショップでの行為は恥辱調教としては、かおりの予想を遥かに超えたもので、フィッティング・ルームではお漏らししそうだったと告白した。
ピアニストの指を持ち、鍵盤の上と同様に繊細なタッチから大胆で激しいタッチまで駆使する自慰行為で感じるものとは別の快感の波。。。。それが何度も押し寄せたらしい。
それこそが、肉体では無く、『脳と心を感じさせる』とかおりに宣言した恥辱調教だった。
このかおりに施した『体験的な恥辱調教』を記事にしたブログを読み感化されてしまったのが、クリムゾン・サンライズことみほだった。
ブログでは駅での待ち合わせから楽器店のことまでは綴っていたが、ランジェリーショップのことは触れずにいた。かおりと訪れたランジェリーショップは、『調教という言葉』の持つ意味を理解できるりかいある店員のお陰で成立したもので、運が良かったから成功しただけのことである。
ブログという公共性の高い媒体で目にしたことを、周囲の状況の如何に拘わらず実行されるのは困ると考えたからである。
あの時のかおりの表情やその後の感想や言葉を思い出すと、今でも全血流が身体の一点に集中する感覚を覚える。そして、みほにも同じような体験をさせ『脳と心』を感じさせたいと感じる。
ついさっきメッセンジャーでリアルタイムに会話をしたみほとは、土曜日の夜に最終的な打ち合わせをすると告げた。かおりへの恥辱調教を再現して欲しいと望みを伝えた、みほの心は不安、あるいは後悔の感情に支配されているかも知れない。そう考えると、土曜日を待つこと無く不安を取り除く言葉をオフライン・メッセージで伝えることにした。
『みほ、今は期待より不安が大きいと思う。怖かったら無理しなくてもいいし、周りの状況を見ながら、おまえのペースで進めるつもりだ。全てを再現などと考えなくても、おまえに合わせた恥辱調教をしてやる』
メッセージの送信をクリックし、パソコンはそのままにシャワーを浴びることにした。
シャワーを浴びてパソコンのディスプレーを見ると、みほから返信を受信していた。
『やはりグレッグ様は思った通り優しい方です。私の不安感を察してメッセージを送ってくださったのですね。私がグレッグ様に調教をお願いしたいと思ったのは、ブログの記事で書かれた行為そのものにも興味を持ったこと以上に、グレッグ様なら安心してお任せできると感じたからです』
みほの几帳面さが伺える文面であった。そして、芸術的な感性を持っていたかおりと共通するのがロマンティックなところだと感じていた。
メッセージを締め括る一節は、読んで恥ずかしくなるようなものだった。
『ブログでコメントを残す女性たちに投げ掛けるグレッグ様のお言葉は、それぞれの女性の心の奥に届いてらっしゃると感じています。私も再婚前の独身のうちに、グレッグ様のお言葉に触れながら調教されたいと感じておりました』
『グレッグ様のお言葉は、まるで船乗りの守護聖人であるセントエルモの火のように煌めいて、M女の心を導いています。早くグレッグ様にお会いしたいです』
この文面から、みほが単なる興味本意からではなく、相当な決意を持っていることを確信した。
ドライヤーで髪の毛を乾かすことも無くベッドに入る。夢に出て来るのは、かおりだろうか?それともまだ見ぬみほだろうか?それは実行した調教が再現された夢だろうか?それとも新たな調教のアイディアが生まれるような夢だろうか?
目を閉じて、そんなことに想いを巡らせているうちに深い眠りが訪れていた。
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