ソリティア-最終章「ギルティ・オブ・ロマンス」
見ず知らずの導きにより乳房を露にし、下着すら膝まで下ろしている妻の姿を見ている依頼主の夫は、相変わらずのポーカーフェイスのまま表情が自らの分身に手を添えピストン運動を繰り返している。スピードに変化があるのは、射精を自制しているからだろうか?
スクリーンでは助教授の母親が娘の淫乱で汚れた血を激しくなじっている。既にこの世にいない夫により持ち込まれたという血のことを。そして母娘の会話とは思えない言葉の応酬はやがて、この映画のストーリーを予想させるシーンに繋がる。
この先は、隣の人妻の感情を昂らせる展開はなかった筈だった。いや、もとよりこの人妻には映画のストーリー展開など掴めていないだろうし、自らが主人公になって、自らのストーリーを組み立て初めていると感じた。
「その指は、ぼく自身に見立てているんですね?」
左手で固く熱くなった物の存在を確認するや口元に運んだ右手の指を意図する質問を投げ掛ける。
「・・・・・」
大きく頷く人妻の意思を確認するための指示を与える。
「どうしたいのか指の動きで表現してごらん」
形状をトレースするようにゆっくりと動いていた左手の動きは止まり、その物の存在を更に確認するかのように力を込めて力強く握りしめる。
その一方で唇をなぞっていた右手の二本の指は絡みつく舌に導かれながら口の中に消えていく。 それはフェラチオを想像せずにはいられない行為だった。
『奥様には指一本触れない』という約束を守り続けるのは修行僧の忍耐を要し、約束を反故にする理由を探し始めていた。
「欲しければあげますよ。但し、貴女の自らの意思であれば。。。」
腰を浮かせて手伝いはしたものの、すべては人妻の意思による一連の動きだった。ベルトを外し、チャックを下げ、コーデュロイのパンツとトランクスに手を掛ける。
怒ったように反り返る、今や身体中の血流が注ぎ込まれる脈動を感じる自分自身に直接右手が添えられ、人妻のやけどしそうに熱い吐息を感じる。
人妻が屈んだことで、夫である依頼主の姿をより近くに感じる。いや、いつの間にか一つ開けていた座席に移っていたのだった。
依頼主の能面のようなポーカーフェイスから喜怒哀楽の感情を掴むのは難しい。それでも怒りと哀しみの感情は感じられない、感じたとしてもこの行為を止めることは出来なかったが。。。。
人妻の舌先が絡みつくのを感じ、自身の左手は人妻の右の乳房を、右手は左の耳を包み込む。乳首を転がす動きや、耳の穴に入れた指の動きにシンクロするように絡みつく人妻の舌先が心地よい。
「気持ちいいよ。もっと深く。。。」
耳をいじっていた右手で髪の毛を撫でながらも頭を押さえると、分身は喉の奥深くにたどり着く。
頭を撫でられたことで、言葉を発さずとも褒められていると理解してくれたのだろう、人妻は唇をすぼめ顔を上下に振り出してくれた。今や隣の席に移っている依頼主の夫には『ジュボジュボ』という激しいフェラチオ独特の音すら漏れ聞こえていることだろう。
自らの愛する妻が、初めて会った見ず知らずの男にフェラチオという行為をしている姿を目の当たりにし、なおかつ、その姿を間近で見ながら自慰行為をする夫---頂点に達したのか先端にティッシュを被せるのを視界の端に捉えた。
スクリーンでは、渋谷の廃墟になったアパートで発生した猟奇殺人の加害者と被害者が誰であるのかを示すシーンが始まろうとしていた。
右手の上下運動と唇の上下運動、そして絡みつく舌の回転運動のバランスに、自分自身も映画どころではなくなってきた。少しでも長くこの瞬間を楽しむために絶頂が訪れそうになると、翌週のミーティングのアジェンダを頭の中で組み立てたり、感銘を受けたアメリカ大統領の演説の一節を思い浮かべていた。
依頼主の妻が口と右手を駆使したフェラチオという行為を楽しむだけではなく、左手を使っての自慰行為に及んでいることに気付くと少し冷静さを取り戻すことができた。『座席に潮を撒き散らさせてはいけない』と思うとパンティは履かせたままの方が良かったと後悔した。
即座にポケットからハンカチを取り出し人妻に手渡した瞬間に、ケネディ大統領の演説すら止められない大きな波が到達した。
褒められたい気持ちが芽生えたのだろうか、人妻は口に受けたものをすべて飲み込む仕草を見せるためにか身体を起こし、少し首を上下させゴクッと
大袈裟に飲む込んだ。
「ありがとう、全部飲み込んでくれたんだね」
緊張が完全に解れたのか、自らも満足感が得られたからなのか、人妻は初めて笑顔を見せてくれた。
「そして、貴女のオナニーを見れたことが嬉しかった」
発した言葉や命令はすべて人妻の右耳から直接伝えていたため、依頼主の夫は何も聞こえなかった筈だ。
自らの妻が喜び満足したことを悟ったためか、夫の無表情な表情が少し緩んだように感じられた。まだ完全に踏み切れない寝取られ願望の一歩手前の嫉妬を感じてくれたのは間違いない筈だった。
ロマンティックな時間だったと感じた。そして、依頼主に対するほんの少しの罪悪感を感じた。
『ギルティ・オブ・ロマンス』--この映画につけられた英語のサブタイトルが気持ちを表していた。
完
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