用意は念入りに、周到に。行動は迅速に、冷静に。手順は間違っても構わない。必要なのは目的を達成する事。己の欲望を満たす事。
これは犯罪だ。
これは、犯罪だ。
だが、構わない。
自分の心情を整理する。今やるべき事を、少しずつ明瞭にする。
小笠原朱音。
彼女の身辺調査に、半年を費やした。兎に角、しなければならないことが多かった。
資材の調達。彼女の監視。タイムスケジュールの作成。決行の期日。合カギの作成。盗聴機の設置。
また、職場での地位を確かなものにしなければならなかったので、そちらにも注意を払った。なにしろ、彼女を調査する為に仕事を休まなければならなかったのだから、その都度とやかく言われる部署では敵わない。
転属願いを出し、上司と関係部署に根回しをした。これが気の滅入る作業で、キャリア組でもないのに昇進しようとする人間は、多大な労力と時間を割く事になるであろうことが、用意に想像できた。
しかも、その努力が徒労に終わる可能性すらあるのである。全ては役員と上司の気分次第なのだから。
今回私は運が良かったようで、努力は実った。我が社では有名な、仕事をしてもしなくても評価の変わらない、外回りのお荷物部署へと転属となった。
大手、御得意様への営業は、他部署のキャリア組が行っているので、この部署が行う取引は小企業もしくは、個人相手の取引で正直、してもしなくてもな取引ばかりだ。
この御時世に、大企業依存型の会社運営をしているのが信じられないが、役員達は御得意様と心中する腹なのかもしれない。
なんにせよ、私が役員や社長なら、間違いなく廃止するであろう毒にしかならない部署へと移動した。
ノルマは低く、インセンティブも勿論ない。必然、部署の人間にやる気など有るわけが無い。くたびれたスーツにボサボサ頭、シケモクがよく似合う社員ばかりの化石部署である。寝袋などが置いてある辺り、雰囲気をかもし出している。
聞けば今の社長がこの部署の出身で、その理由だけで残っているのだとか。
組織が大きくなれば、管理の行き届かない場所は、必ず生じる。それがここなだけの話しだ。
社長交代と共に潰れる部署、それが社内での共通の認識である。
私が、この化石部署に転属を願い出た時、上司は怪訝な顔をしていた。それもそうだろう。誰が好き好んで、出世の望めぬ部署に移りたがるだろうか。しかし、今の私には好都合だった。居ても居なくても、働いても働かなくても、いいのだ。
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