夜、父親提案の花火を旅館の中庭で家族4人で遊んで、家族恒例「片付けじゃんけん」に負けた琥珀は、一人で水の入ったバケツを水道まで運んでいた。
「まじで重いし…ちょっとは手伝えよ…」
なんて考えながら両手でバケツを運んでいると、片方のバケツが不意に軽くなった。
「これ、そこまで運べばいい?」
ふわりと風が吹いた。
浴衣姿のきれいな男の子が琥珀に微笑みかけた。
「え…あ…あの、だいじょぶです」
突然のことにもじもじしていると、もうひとつのバケツも軽くなった。
「どうせ暇なんだ。手伝わせて」
水道に向かう、少年のあとを、琥珀はあわてて追った。
「家族旅行で花火かあ、いいね、うらやましい」
水道でバケツを洗いながら、少年が話しかける。
少年は長身で、きれいな黒髪と、長い睫毛をしていた。歳は琥珀より、少し年上に見えた。
捲った浴衣からのぞく腕が、細いけれど筋肉質で、琥珀の心にさざ波がたった。
男の人の浴衣姿は、とても色っぽかった。
「…ん?」
会話も上の空で、横顔を見つめているから、少年が琥珀の顔を見つめ返した。
琥珀はどぎまぎして、とっさにポケットの中の線香花火を差し出した。
「あっ、これ、余ったやつ、やりますか」
「うん」
少年が、幼い笑顔で笑うから、琥珀は嬉しくなった。
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