あの日、琥珀は家族旅行でこの緑翠荘に来た。
普段は到底手の届かない高級旅館に泊まるとあって、父親がえらく興奮していたのを覚えている。
琥珀は、というと、退屈していた。
この家族旅行もそうだし、あまり刺激のない平凡な高校生活にも、退屈していた。
琥珀は15歳で、とりわけ目立つわけでもなく、かといって地味でもなく、どちらかといえば優等生の、どこにでもいる普通の女の子だった。
一応彼氏はいるけれど、周りのカップルラッシュに焦って作った間に合わせの彼氏で、まだ手を握ったこともない。
不満はないけど、なんだか退屈な、そんな毎日を過ごしていた。
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