観音開きの扉を手前に開きいて右足を一歩、中へと踏み出す。先日甥っ子を連れ久しぶりに訪れたあの映画館は、子供だった当時は広い空間に感じられたものだった。それでも大人になった今はこんなものだったかと、思わず時の流れを感じてしまった。
場末の成人映画館、そんな形容がぴったりのこの場所も大して変わらないように真弓には感じられた。暗い空間にスクリーンからの明かりがやけに眩しく、男女の交わる卑猥な音声が耳に流れ込んでくる。扉を閉めて目が暗闇に慣れるまで数秒間を立ち止まり、空いた座席の目立つ館内を見渡して誰も座る者がいない座席の列に歩を進めた。
先客たちは自分たちと同類が新たにやって来た、その程度の認識しかないのかもしれない。誰もこちらを確認すらしようとはせず、スクリーンの中のストーリーを凝視する者や暇そうに欠伸をする者、居眠りをする者だったりと各々が自由に過ごしているようだった。
女の真弓には勝手が分からず始めて来たのもあって、場違いな気持ちを持て余しながらスクリーンに目を移す。そこには修正はされているようだけれどペニスだと十分に認識できるモノを、女性が愛おしそうに口に咥えては頭を動かし、舌を這わせる官能的な映像が流れていた。さっきから耳障りな水音がスピーカーから流れていた正体は、まさにこれだった。
他人の営みを観ても心が揺さぶられる気持ちにはなれないけれど、興味本位で客観的に見るとどうなのかと真弓は暫くスクリーンを眺めてみる……。
女性の唇が亀頭の大きさ形に膨らみ、口を離すといやらしい粘液が糸を伸ばして切れる。そして再び口に含むとぐじゅぐじゅと口の中で、泡立った粘液と唾液が混ざった男を館内に響かせる。舞台はどこかのオフィスらしく、上司と部下のOLという設定なのだろうか。服装を乱したOLが机に腰掛けた男の陰部を一心不乱に愛撫している。
実際にはあり得ないことだと頭では理解しながらも、男の願望を具現化した茶番でしかない。まだ午後も早い時間だというのにスーツ姿の中年男性が、居眠りをしている。こんな所で時間を潰していられるなんてどんな仕事をしているの……?そんなどうでもいいことを何となく思う。真弓は様々な人間観察や小さな変化、発見を続けながらこの空間の饐えたような臭いが漂う空気に、少しづつ馴染んでいくのを感じていた。
ふと右側に人の気配を感じた。露骨に見ることはできないけれど、2つ座席を空けて腰を下ろしたのは男性だと分かる。そして気付くと左側にも誰かが移動してくるではないか、真弓に緊張が走った。
「約束が違ます……やめてくださいっ……!」
耳をつんざく女性の悲鳴が館内に響き渡る………。
スクリーンに目を移すと上司らしき男にOLが襲われ、必死に抗う迫力あるシーンが流れていた。
口淫だけの約束を破られ、危機に瀕する女性が今まさにスカートを捲くり上げられる緊迫の場面。
そして真弓にも、緊張を覚える現実が迫る………。
真弓は誰も座る者のいない座席の列に腰を下ろしたのだけれど、何も考えずやや中程に座ってしまったことを、今更ながら後悔し始めていた。左右の男たちはそれぞれ2つ3つ座席を空けて座っていたはずなのに、今やこちらに迫り座席を一つ空けているだけになっている。邪な気持ちを抱きながら来たはずなのに、いざとなると腰が引けてしまう。これでは逃げられないではないか………。
そして、右側の男が隣に移ってきた。
姉さん、お一人かい………?
どう返事を返していいのか分からず、真弓は前を向いたまま両手を握りしめた。
1人で来たのに、今日は相手はいないのかい……?
どうやらこの手の場所に出入りする女性がいるらしく、察するに淫らな行為をするパートナーといっていいのか分からないけれど、特定の相手と繰り広げるらしいと解釈できる。
お相手がいないなら、どうかな………?
真弓は拒絶とも肯定とも受け取れる、無言を貫きながらスクリーンを見るともなく見詰め続け、唾液を呑み下す……。
いいんだね、それじゃ…………
はっきりと拒絶を示さない真弓を受け身の女と、そう判断した女は真弓の太腿に手を伸ばす。慣れた手つきで膝まで下げた手でスカートの裾を掴んで捲くり上げ、バンストを身に着けてこなかった素肌に、手の平を這わせる。閉じた太腿に指をこじ入れられると汗ばんだ柔肌に男の太い指が食い込む。
緊張が頂点に達した真弓は声を出せず、下着の上から撫でられるがまま身体が硬直して動けなかった。男が眉毛を上げ、嬉しそうに笑みを見せる。
遊んでいるように見える濃いメイクをしているわりな
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