自分たちの名前が呼ばれ、診察室扉を引いてある夫婦が入ってきた。
夫と妻、共に30代後半に差し掛かり、不妊治療に時間とお金を費やす日々が続けている。
1度の採精でいくつかの受精卵を作り、妻の子宮の中に戻す不妊治療は、着床しなければやり直さなければならない。
冷凍保存した夫の精液が無くなれば、再び採精しなければならず、夫の協力なしには成立しない。
金銭的にも精神的にもタブでなければならず、是が非でも子供が欲しい妻と、夫との間に溝が生まれるのも珍しくはない。
生島武、美雪の夫婦もその兆しが現れていた。
3回目にしてやっと着床したものの、嘲笑うかのように無情にも流れてしまっては諦めがつかない。
特に妻は目の色を変えて4度目の避妊治療に挑むつもり満々であり、前向きな妻に対して夫のほうは疲れが見え始めていた。
車を売り払い、親が所有していた別荘も処分してまで工面した資金は先が見えており、残りはあと僅かだった。
愛もクソもない義務的なセックスが続き、こうも避妊治療で寝ても覚めても子供、子供では身も心も持たないではないか。
特にすり減っていく心は悲鳴を上げ、妻は辛いのは自分だとばかりに夫の尻を叩くばかり……。
採精室に向かう夫の背中は哀愁に染まり、その足取りは見ている者からしても決して軽くはなかった。
医師は自分たちにしか分からない合図で看護師にある指示を出し、栗原有朱はまたか……と内心ではうんざりしながら静かに診察室を出た。
完全予約制のこのクリニックは他の患者と顔を合わせない配慮の元、造られている。
妻の側はもちろん夫の側のケアにも心血を注ぎ、大切に扱われていた。
けれど実際には出来るだけ不妊治療を続けさせたいクリニック側の本音は、医療費である。
安くはない医療費を可能な限り絞り取りたい病院は、患者の弱みに漬け込む金の亡者の側面を持つ。
そのお陰で有朱も恩恵を受けられるのだけれど、正直に言ってあまり良い気持ちはしない………。
それでも有朱は自分の夢の為に貯金をしなければならず、美雪の夫……武が待つ採精室へと足を運ぶのだった。
もちろん武は看護師が来るのを知らず、戸惑うだろう。
けれども密かに設置されたカメラが映し出す武といえば、射精させる為の行動をとる気配がないのだから仕方がない。
お金の為、お金の為…………。
有朱は心の中で繰り返しそう呟いて、院内の廊下を歩く。
射精一回で3万円、2回出させれば7万円の臨時ボーナスが水面下で手渡される。
貯金通帳を見るとこれまで一体何人の男性を射精に導いてきたのかと思うけれど、それはもう考えるのをやめた。
高額なお金が支給される理由は、難しさがある為にほかならない。
避妊治療にうんざりしている夫を射精させなければならず、その精液を採精カップの中に収めて蓋を閉める。
ここまでが出来て、初めて成功と言える。
その為には自分の身を犠牲にしなければならず、対価は状況によってはアップしてくれる。
だからこそ、そうじゃなければこんなことを進んで受ける看護師はいない。
このクリニックには有朱の他にもこの任務をこなす同僚はいるけれど、報酬を受け取る看護師は多くはない。
有朱を含めてわずかに数人しか存在せず、貴重な人材として給料も高く貰っている。
そうはいっても看護師も感情のある人間、好みはあるというもの………。
相手のタイプによってテンションの上げ下げはあるし、進んでセックスが好きな者とそうではない者とに分かれ、有朱は後者だった。
好きでもない男性と性的な接触なんて、出来ることならしたくはない。
可能な限りハンドテクニックで終わらせたいし、それが無理ならオーラルセックスで終わらせたいのが本音。
その為には男性の気持ちを上げなければならないし、興奮させるには下着を見せる。
時にはブラジャーを脱いで触らせることもするし、相手によっては口をつけることも許さなければならない。
それでも射精してくれなければ、要望を聞く必要が出てくる。
クンニリングスを希望してくるのは珍しくもなく、そのたびに有朱は嫌々ながらストッキングとショーツを脱いで、脚を開く………。
寝そべって望まぬ快感に耐えながらペニスを手に握り、そして口に含んで………。
ここで困るのが相手にテクニックがある場合……。
採精をする趣旨を無視して感じさせようとしてくる相手を止める術はなく、オーガズムを迎えるまで下を動かし続けられてしまう。
あらゆるテクニックを駆使して看護師を翻弄し、手と口では射精は難しいと暗にセックスを要求してくる………。
セックス産業を営む所ではない以上、避妊具が置かれていないことを承知で要求してくるのだ。
あくまで密室の中で看護師が個人的にしている事と認識しているから、タチが悪い。
内緒にすれば分からないし、そっちも感じていた。
そっちは射精させたい、こちらも射精しなければない、利害は一致しているという都合の良い勝手な言い分である。
想定ないだけれど、採精する為に内心では忸怩たる気持ちを抑えて応じるのだ。
早漏であることを、願って………。
ここからが問題で滅多にないことだけれど、想像以上に我慢強い相手だとその後の仕事に影響が出るほど感じさせられることがある。
有朱は以前その時の相手が射精するまで、2回もオーガズムを迎えなければならなかったことがあった。
ちゃんと射精の間際に引き抜いてカップの中へと放出してくれたからいいものの、それが叶わなければ次の射精をしてくれるまで耐えなければならないことを考えると、身体が保たない……。
有朱の前方に武の居る採精室の茶色のドアが、ゆっくりと見えてきた。
カメラが捉える武はヘッドホンを付けてDVDからの音声を、無気力な顔をして聞きながらテレビの画面に目を向けていた。
無感動で興奮のコの字もなく、射精することへの拒絶感を表しているようにしか見えなかった。
あくまでも拒絶をする相手から採精するのは簡単ではないし、逆に興奮され過ぎても辛い。
どちらにしても難儀するし、素直に射精してくれればいいのだけれど………と、有朱は願った。
ドアの前まで来ると、ひとつ深呼吸をする。
よりにもよって今日は生理が始まる数日前にあたり、あまり身体に触れられたくはない。
おりものの分泌も多い時期で、その類のシートを1日に数回は交換しなければならなかった。
つまりは普段よりも敏感で感じやすいし、正直いって意図せずその気になりやすい傾向がある。
ある意味で仕事だけれど、もしも妻の美雪との営みにうんざりしていたとしたら、抑圧された性欲を目覚めさせて捌け口にされる危険はある。
そうなれば何とか武を宥め、ある程度は我慢しながら適当に感じるふりをして、採精しなければならない。
ねぇ出来る、あたし……?
……っと、有朱は自問する。
これまでも散々してきたから大丈夫よね……。
何とかなる、うん……今日も、何とかなるに決まってるじゃない………。
高校時代は走り幅跳び、大学時代はチアガールで身体を動かして、アクロバットをして鍛えてきた身体は29歳になった今も健在だった。
当時から履いているジーンズは今も普通に履けているし、体重の増加も2〜3キロで抑えてすぐに落とすように気おつけている。
お尻も垂れていないしお腹の周りも平気、胸だってDカップを保ち続けている。
この身体に興味を示さない男性はおらず、興奮させてさっさと射精させればいい………。
もう一度、有朱は深呼吸をしてからドアをノックする。
コンコンッ………ヘッドホンをしているはずだから聞こえないはずで、有朱のほうで解錠しようと思っていた。
不意に鍵が解錠されるカシャンッ……という音の後にドアが開き、暗い表情をした武が顔を覗かせる。
急かすつもりは毛頭なく、時間的に調子はどうかと様子を確認する必要をそれとなく伝える。
力なく笑顔を見せる武の顔を見れば、言葉を聞くまでもなかったけれど………。
彼は羞恥心を見せてDVDの映像を流すテレビを急いで消して、また苦笑いを浮かべた。
どうもその……駄目なんです………。
事実ズボンの前は有朱が見ても、その傾向が見られない。
彼から見ても魅力的な看護師の有朱に打ち明けるのも恥ずかしいだろうに、疲弊というよりも憔悴して見える武に同情を覚えた。
避妊治療に前向きになれない夫も少なくないのにもかかわらず、武は紳士に向き合い妻に協力しているからここまで心を擦り減らして………。
誠実な人には協力を惜しみたくない、そんな気持ちがやる気となって、有朱は立ち上がった。
少しなら協力は出来ますから、絶対に内緒にしてください……。
そう伝えると有朱は奥さんや赤ちゃんという言葉を使わず、明るい未来の為にと武にペニスを出すように促した。
武はさすがに戸惑い躊躇していたけれど、真剣な有朱の顔を見て出さずにはいられなくなり、渋々チャックを下げていく。
やがて取り出したペニスを武は恥ずかしそうに手で隠し、有朱はその手をどけて手にしている洗浄セットで処置をすると、柔らかく手に握った。
気にする必要も緊張する必要も、ありませんからね………。
どうですか、痛くはないですか……?
優しい言葉を武にかけながら、意図せず風俗嬢のような言葉を投げかける。
そういった世界に足を踏み入れたことのない有朱はそうとは知らずに言っていたけれど、若い頃に経験のある武は心中が複雑だった。
本物の看護師が病院で風俗嬢と同じ言葉を吐き、同じ行為をしているのだから………。
異常な興奮を覚えてムクムクと膨張していく彼のペニスは、見慣れている有朱が見ても恥ずかしいくらいに勃起を遂げていく………。
手の中で熱くて硬くて、亀頭に近い部分の陰茎が緩いカーブを描いて反り、流れ込む血流で脈打っているのが手の平に伝わってくる……。
平静さを装っていたけれど有朱だって感情のある人間であり、慣れているとはいっても恥ずかしいものは恥ずかしい………。
武も有朱の耳が赤くなっているのに気付き、申し訳なくなった。
羞恥心からか有朱は頻繁に武に語りかけ、これはあくまで採精の為だと暗に伝えるように痛くはないかと言葉を発する。
有朱の手の中で武の分泌した粘液で滑りの良くなったペニスが、ヌチャッヌチャッ……と音を出す。
コクンッと唾液を飲み下した有朱が、小さな音を立てて喉を鳴らす。
巨大な芋虫のようなペニスが次から次へと粘液を吐き出して、有朱の指が大変なことになる。
あの………その兆しが来たら言ってくださいね……。
そう言ってからもう、10分以上が経過していた。
不意に武が言いづらそうに、言葉を吐く。
あの、申し訳ありません……ちょっと痛くなってきて………。
あっ、そうですよね、気付かなくってごめんなさい……。
有朱がそう言って慌てて手を離し、これは難儀しそうだと戦々恐々とする。
この手の男性は耐性があり過ぎて、そう簡単には射精をしてくれない。
有朱は仕方なく、武に断って口に含んだ。
武は自分の目に映る光景を信じられない気持ちで見詰め、前後する看護師の頭を眺めていた。
この温もりに感動し、妻とはまるで違う感触に目を閉じる。
ピンクサロンの風俗嬢のように悪戯に音を立てることなく、唇を密着させたマッタリとした感触に心地良さを覚える。
ムァ〜ワリッムァ〜ワリッムァ〜ワリッ……
ムァ〜ワリッムァ〜ワリッムァ〜ワリッ……
唇がカリ首を乗り越えて陰茎へと進み、ある程度の所で折り返して戻っていく。
カリ首を乗り越えて亀頭の形に唇が窄み、前に進むとムァ〜っと亀頭を包み込み、ゾクゾクするような快感が湧き上がる。
妻とは違って献身的な有朱のフェラチオは、このところ射精をしていなかった武に我慢を強いた。陰嚢の中の睾丸に蓄えられた分身たちが暴れ出し、我先にと先を争い外へと出ようとする。
ムァ〜ワリッムァ〜ワリッムァ〜ワリッ……
ムァ〜ワリッムァ〜ワリッムァ〜ワリッ……
ムァ〜ワリッムァ〜ワリッムァ〜ワリッ……
ムァ〜ワリッムァ〜ワリッムァ〜ワリッ……
むはっ……っと、堪らず口を離した有朱が指先で口を拭い、その兆しは来そうにありませんか……?
ごめんなさい、私あんまり上手じゃないから……。
申し訳無さそうな顔をして、そんなふうに呟く。
出来ることなら協力出来ますから、あの…………
どうすればもっと、興奮しますか………?
あっ……その、でも……それは………
言葉を躊躇する武に、有朱は優しく畳み掛ける。
射精することが大事ですから、言ってくれませんか………?
そこまで覚悟を持ってくれてるのなら、言い渋るのは返って失礼な気がする。
悪戯に疲れさせるのも申し訳なくて、思い切って言ってみた。
あの……じゃあ、胸を触らせていただけますか…?
やっぱりそうきたか……と、有朱はこの場で何回見せたか分からない乳房を見せるべく、ワンピースタイプのナース服、そのファスナーをゆっくり下へと手を動かしていく。
今よりも若い頃に身に着けていたフェミニンな感じのブラジャーはとっくの昔に卒業し、成熟へとひた走る年齢になってシンプルで清楚な物を身につけるようになっていた。
パステルカラーの淡い黄色のブラジャーを露わにした有朱は、恥ずかしそうに顔を俯かせる……。
白い肌に映えるブラジャーは美しいレースが仕立てられ、下支えするカップとは別に上の部分半分が透ける素材が組み合わされて、お餅のような丘を包み込んでいる。
下着は取ったほうがいい………?
有朱のその言葉に武は頷いて見せ、背中に回した手でホックを外した彼女は器用にストラップを肩から外し、片腕で乳房を隠しながらブラジャーを着ているナース服の中から取り去った。
やっとという感じで身体から腕を離し、有朱は意を決したようにその乳房を武の目に晒す。
見るからにボリュームがある乳房が存在感を誇示するように現れ、ツンっと大きめの乳首がやや上を向いている。
再びペニスを黙って口に含んだ有朱は頭をゆっくり前後に動かし始め、武はその柔肌に手を伸ばす。
ふにゅっとした柔らかい乳首が指に触れた瞬間、有朱の肩がぴくっと動く。
指を開いて手の平に包み込み、ふにゃふにゃとその柔らかい感触が堪らない………。
彼女には申し訳ないけれど、やはり物足りなくなってきた。
あの………と物言いたげな武に耳を傾けた有朱が、その要望を聞いて身体が熱くなるのを覚えた。
舐めてもいいですか……なんて、こんな図々しいことを言う男性はここではさすがに滅多にいない。
顎が疲れたし、休みたかったこともあって渋々とその要望に応えることにした。
今度は武が座っていた椅子に有朱が座り、有朱がしていたように武がその場に膝をついた。
有朱よりも背の高い武はそれでも乳房の高さに顔があり、膝を揃えて座る有朱が身体を捩らせて上半身を彼に向ける。
ぷるんっとした乳首と土台の乳輪は、ピンク色からやや薄い茶色をしている。
顔を背ける有朱のそこに武はそっと唇を付けて、開いた唇で挟んで舌先を動かし始めた。
思った以上に敏感な反応を見せる有朱が、上半身をビクッ……ビクッ……ビクッビクッ……と弾ませながら後に身体が逃げていく……。
武が有朱の背中にさり気なく手を回し、ちゅぱっちゅぱっ……といやらしい音を立ててしゃぶっていく。
有朱は武の頭を抱えるように両手で口を抑え、舌の動きに同調するかのように吐息を荒々しく吐き乱す……。
やばい……どうしよう…………気持ちがいい……。
感じやすいとの自覚はあるけれど、生理が近い今はタイミングが悪すぎる。
普段よりも感度の上がった身体が必要以上に快感を享受して、くすぐったい感覚を飛ばして気持ちいいしかない。
やっ!……何をするのっ………
武の手が有朱の股を割って侵入し、指先が恥部を弄りだした。
上と下の同時攻めに抗えなくて、拒絶する気持ちを捻じ伏せられる。
身体が言うことを聞かず、両手が差し込まれたと自覚した時には椅子の座面と座るお尻の間を、素早くパンストが通過していた。
まだ方足首にパンストが絡まった状態で有朱のそこを再び弄りだし、乳房の愛撫も武は忘れなかった。
ぬぅ〜〜っと何かが入ってきたそばから動かされ、有朱の意志は休眠させられていく………。
ショーツの脇から挿入した指を何度も抜き差させて、恍惚となった彼女のショーツを有無を言わさず引き摺り下げる。
有朱があっと思った時には足首まで下げられ、こじ開けられた股の間に顔を埋められていた。
こんなはずじゃなかったのに………。
抑圧された性欲を開放した武に成す術がなく、美しき看護師の頭が跳ね上がる。
くねくねと躍動をする武の舌先に、上半身を踊らせる有朱の背中が反り返る。
もう、耐えられそうになかった………。
※元投稿はこちら >>