息子の最後のお弁当を作り終えて、玄関からその背中を見送ったのが先週のこと。
これまで幼稚園への送り迎え、小学校の逃れられないPTAの参加に塾への送り迎え。
そして高校生活を送るうえで3年間のお弁当作りを最後に、晴れて子育てを卒業してしまった。
毎朝早起きして弁当箱に詰めるのは世の男性が考えるよりも大変で、育ち盛りの男の子だから量も作る本人が食べるとしたら、3倍の超大盛りの量はある。
誰も褒めてくれないから我ながらよくやったなんて、自分で自分を褒めてみる。
過ぎ去って見れば大変だったけれど、生き甲斐だったんだなぁと今更ながらに気付いた。
子供はあっという間に成長し、自分の手から離れていく。
春休みが開ければ大学生活が始まる。親の知らぬ間にせっせとアルバイトに励み、どうせこの住み慣れた実家を巣立っていくに違いない………。
そういう子なのだ………。
そうと分かっているのだから自分も子離れをしなければならないと、和田優子はもう一度社会との繋がりを求めて職探しを始めた。
今さらまた働くのかと夫は言うけれど、子供を産んだのが早く青春を子育てに捧げてきたのだから、文句は言われたくない。
42歳で余生なんてまだ早いでしょ?……と返すと、夫は何か言いたそうな口をつぐんでしまった。
そう、自分は仕事に生きて子育ても申しわけ程度にしか手を出さず、こちらに全てを任せっきり。
付き合いだ何だと理由をつけて飲み歩き、休日は趣味のゴルフに釣りだ何だと家を開けて夜にならないと帰らなかった。
まあそのお陰で食卓には新鮮な魚料理が良く並び、舌鼓を打たせてもらったけれど……。
それで帳消しにはなるはずがない。
年に1度くらい近場でもいいから旅行に連れて行ってくれてもいいのに、夫はすべて自分の趣味に時間を使うので、友達と温泉に行くしかなかった。
夜も疲れたと言ってろくに相手もしてくれないし、自分が性欲を満たしたい時だけ相手をさせられるようなセックスだった。
まあ………スケベな夫のセックスは、悪くはなかったけれど………。
もっと心の通うセックスがしたかったし、そうでなければ誰としたって大して変わらないではないか。
嫌いというほどでもないけれど、良き夫として愛してるかと聞かれたら優子は自分でもよく分からなかった。
夫が突然死したとして、そのとき自分はお葬式で涙を流せるだろうかと本気で想像してみたけれど、怪しいものである。
妻の意味深な短い反論に心当たりがありありな夫はそれ以上何かを言えば、百倍になって自分に返ってくるのが分かっているので、渋々認めるしかなかったようだ。
当然である………。
優子はデザイン系の会社にいた頃によく出入りしていた取引先の夫と出会い、それがきっかけとなって結婚した。
初めはパート勤めでもいいかしらと思ったけれど、昔取った杵柄はまだ錆び付いていないと思ったので、思い切って応募したところ、面接をすっ飛ばしてそのまま採用となった。
何を隠そう元いた会社で、寿退社する時も相当に残念がられた過去がある。
さすがに自分の座る席はなく、下っ端から始めなくてならない覚悟はしていただけに、びっくりだった。
優子が現役時代の先輩は管理職となり、つい最近まで年に数回は連絡を取り合う仲だった。
その先輩……今は上司だけれど、彼女は優子の息子が子離れする時期を知っていたとみえて、優子を再び引き入れるべく虎視眈々と狙っていたと満面の笑顔で教えてくれていた。
そりゃあこの扱いになるはずである………。
狙っていた獲物が自分から飛び込んで来たのだから、飛んで火に入る夏の虫だった訳で、上司となった元先輩の彼女はお気に入りの後輩の優子を再び得ることが出来て、笑いが止まらないのだ。
彼女は優子を事あるごとに話題に上げていて、まるで伝説のデザイナーであるかのように社員たちに吹聴していたらしい。
あのね、普通の人間で才能なんて高が知れてるから、買い被りだから、きっと失望するから………。
いくらそう言っても出戻りの優子から見て先輩にあたる若い社員の彼女たちは、優子をパンダか果てはどこかの神様かとでもいうように羨望の眼差しで見詰め、すっかり先輩扱いである。
だめだこりゃと深い溜め息をついたのが半年前のこと、仕事はやっぱり楽しくて水を得た魚のように頭を働かせていると、面白いように元先輩である上司の彼女に採用されていた。
やっぱりアンタは私が見込んだ女よっ……!
鼻息荒くそう豪語する彼女を冷や汗を流しながら宥め、そっと後を振り向くと先輩であることをすっかり放棄した若い後輩たちが、目をキラキラさせていた。
ある種のやり辛さを感じつつ、優子は機会を見ては若い彼女たちに少しづつ教えていった。
面白いもので、個性溢れる彼女たちはその眠っていた才能を少しづつ目覚めさるから不思議なものである。
先輩にして上司の彼女が不思議がって優子にどんな教え方をしたのかと聞いてきたきたけれど、それは優子にもよく分からなかった。
だって特段に変わったことを教えたわけでもないし、ただコツを教えただけなのだから………。
優子に人気があるのは、仕事の才能があるだけではない。
どこぞの高額なブランドでもなく、手頃な値段の服をセンスよく着こなす技。
その洗練された人柄と普通の主婦なのにスタイルを維持してきたそのプロポーション、嫌味のないその美貌だった。
決しておばさん臭く落ちることもなく、若い彼女たちの良き見本としての生き証人なのだ。
それは即ち男性からも注目されることでもあり、一部の邪な感情を抱く男たちの目を引くということでもある。
実際このところ、通勤電車内でお尻を触られることが増えていた。
こんなおばさんを触ってどうするの?……と、おばさん呼ばわりを嫌う優子は、この時だけは自分をおばさんと強調してしまう。
まったく、見境がないんだから………。
優子は知らなかった。
世の中には若い女の子よりも、マダムキラーと称される性癖を持つ男たちが存在することを……。
蛇の道は蛇というように、優子の情報はその世界に驚くべき速さで伝るものである。
新たな獲物として目を付けられ、観察されていることも気付かなかった。
そしてその日の夕刻、帰宅する電車の中は男たちが集結していた。
彼等は優子が気付かぬうちに取り囲み、機会を窺い見る。
そう、今開いたドアから乗り込んできて優子の前に立った男も、その左右に立つ男たちも……。
いや、優子の周囲360度周りの十数人は皆、仲間の痴漢師たちだったりする。
じわじわと外周を固めて鉄壁を築き、最後に優子の前を塞いで袋の鼠にする。
マダムらしくセミロングヘアを緩やかにウェーブさせて、品良く見せている。
着ている物はシャツブラウスに見えて、前側で止めているボタンはお腹辺りまでしかない。
ボトム側のスカート部分はシンプルに脹脛までの長さの丈があり、腰の部分にゴムが入ってさらに付属の紐できゅっとウエストを絞っている。
紺色だからボタン2つを開けた白い胸元が男をそそらせ、さり気なく立てた襟がうなじを隠している。
濃紺色だから目立ちはしないけれど、薄手の生地は光の加減でわずかに透けさせる。
優子がランチに出かける際も太陽光で脚は透けて見えていたし、今こうして間近で見ると黒い下着のラインが丸分かりである。
もう、待てなかった………。
後、横、そして前………。
次々に伸びてくる男たちの手に、動揺しながらもモグラ叩きのように振り払っていく優子。
胸、お尻、また胸、そしてお尻………。
切りがなかった。
それでも止まっているわけにはいかず、必死に手を振り払う優子だったけれど限界はくる……。
お尻側のスカート部分をたくし上げる手をはたき落としている間に胸の前のボタンを外され、それに気を取られるとまた後で裾を持ち上げられる。
同時に前側も持ち上げられて、両腕を拘束されてしまった。
何が起こっているのか理解が追いつかず、本当にここは日本なのかと泣きたくなった。
怖くて竦む片脚を持ち上げられ、何かでパンストが切り裂かれる。
男が股の間に顔を埋めるのを信じられない気持ちで見ることしか出来ず、不意に優子が固く目を閉じた。
シンプルな黒いショーツのクロッチを掴んで横に寄せ、この年代の女性らしい女性器を目の当たりにする男。
この日1日を過ごしてきたそこはIラインに沿って恥毛が生い茂り、上の方はジャングル状態……。
茶色というよりも黒紫色になった小陰唇がはみ出ていて、尿混りの蒸れた独特の匂いが鼻を突く。
男は喜々としてそこに舌を這わせ、汚れを隅から隅まで舐め取っていく………。
その生暖かい舌の感触が、優子は気持ち悪くてならない。
唇を固く引き結び、割れ目の外側、内側、真ん中を這い回る舌に悪寒が走る……。
不意にそれが断ち切られる。
舌があくまで優しく、いやらしく触れられたくない場所を攻め始めたのだ。
こんな男に、嫌っ…………!
激しく拒絶する優子の気持ちそのままに、左右に頭をブンブンと振る姿が痛々しい……。
その頭がいきなり弾かれたように跳ね上がり、また駄々っ子のように俯いて左右に振る……。
それも長続きはしなかった。
仲間内でも無類のクンニ好きで知られる男は、持ちうるテクニックを惜しげもなく出していく。
肉布団のような包皮を舌で覆い、優しく揺れ動かしていく。
そうして寝た子を起こし、舌先でれ〜ろれ〜ろ……と強弱をつけて、覚醒させる。
上目遣いで見る優子は明らかに感じているのに、この期に及んでまだ拒絶をするように顔を背ける仕草を見せている。
いつまでその態度を続けられるのかと、男の舌が躍動する。
唇で丸ごと包んで軽く吸い上げながら舌で丁寧に叩き続け、ウネウネとひたすら動かす。
吸っては舐めて吸っては叩き、小さくのの字を描いて上下に舌先を走らせる。
すると優子の腰がピクピクッと頻繁に短い痙攣をするようになり、膣口からとろりとした無色透明の愛液が溢れ出てくる。
それを舌先に絡め取り、包皮を持ち上げて敏感になったクリトリスに塗りたくる。
すっかり血色が良くなり濃いピンク色になった、そんな蕾を凌辱していく。
唇で挟んで吸い上げ、舌先を走らせる。
舌を密着させて痛みが出ない程度に微動させる。
吸っては離し、吸っては舐め回す………。
あくまで女をいかに感じさせるかを追求した男の愛撫は優子をとろけさせ、その経験値の深さ故に呆気なく夢中になってしまう………。
その優子の上半身はボタンをすべて外され、ずらされた黒いブラジャーの下の乳房が男たちの餌食になっていた。
細身の割りにGカップもある乳房は揉み甲斐があり、固くそそり勃つ濃い茶色の乳首を左右の男たちが交互に舐めている。
ねっとりと舌先が乳首を倒し、ねちねちと舐めては吸ってしゃぶって………。
下の男がクリトリスを吸い上げた。
チュウ…チュウ…チュウ〜〜っ………。
徐々に頭を持ち上げていく優子が顎まで上げて、ぷるぷると震えだす。
男の舌先が忙しなく躍動していたのだから、堪らなかったのだ。
唾液と愛液の混ざったものが音を立て、泡立った粘液が忙しなく動く舌に絡んで糸を伸ばす……。
閉じた瞼の下で動く眼球が逃げ惑い、官能に染まった優子の顔は羞恥することすら忘れ、口がだらしなく半開きになっていく。
男たちに囲まれて座ることも倒れることも出来ず、逃げることも叶わない……。
優子が唯一の出来ることは、身を委ねることしか残されていなかった………。
電車がどこかの駅に停車し、ドアが開いて人の乗り降りがされている。
その車両の一角だけがなぜか動かず、そのままだった。
その中心部で行なわれていることに、気付く者は誰もいない。
くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅっ………
この卑猥な音に気付く者も当然誰も気付かないまま、電車は駅を離れていった………。
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