上司 早川さん、仕事が早くて助かるよ。
この間の企画書、あれ、採用だよ……。
綾香 ありがとうございます……。
笑顔でそう言葉を返す、綾香。
そんな綾香は濃紺色のパンツスーツ姿だ。
細身の体によく似合い、女性らしいシルエットを惜しげもなく披露している。
ボタンを締めたアウター細いはウエストを強調しており、程よく盛りあがった胸の膨らみが男性の興味をそそらせる。
自分のディスクに戻る綾香を何気なく見た男性の同僚が見た光景は、キュッと上がったお尻に目が奪われてしまった。
卑しい気持ちがなくても男の性が、騒いでしまうのは仕方がない。
あの出来事から1ヶ月が経ち、少年はあれ以来姿を見せなくなってしまった。
罪の意識を感じて気落ちしていたけれど、偶然にも先日の駅で見かけたのだ。
見た目にも垢抜けたファッションに変わり、彼の隣には可愛い彼女と思しき女の子の姿があった。
肩を並べて歩く彼は自信に満ち溢れ、距離の近さから2人はそれなりの関係なのだと綾香にも分かる。
綾香との壮絶なセックスを体験した彼は、女性に対して自信を持ったのだと嬉しくなった。
それはそうよね、私みたいなおばさんより年相応の女の子かぁ………
わずかばかりの寂しさを感じつつ、これからの彼の健闘を陰ながら応援する明るい気持ちで2人を見送る綾香だった。
肩の荷が下りてからというもの仕事も順調に進んで、全てが明るくささやかな喜びを感じる日々。
生理中だったが、その憂鬱さもそろそろ終わる。
ナプキンにはほとんど経血はつかなくなったことから、今日明日にも終了と見てもいい。
明日は何を着てこようかと、今から思案する綾香だった。
以前から見かけるようになって、気にはなっていた。
同じ時間の電車にいるのだから、服装から見ても通勤途中であることは間違いない。
何度も彼女の側に素知らぬ顔で立っていたことも彼女は気付かす、漂う甘い体臭を嗅がせてもらっていた。
それだけで満足させていたのだ。
どこにでも居そうな特徴のない顔をしてるから、彼女に気付かれなくても仕方がない。
それは好都合だからいいのだが、こともあろうに少年と何かをしていたらしいのだ。
彼女たちは先頭車両の隅にいて、こちらに背を向ける格好で少年の姿が見えないなんておかしくないか?
ずっと観察していたら彼女の頭が後にゆらゆらと傾くような仕草を繰り返して、こころなしか肩が揺れているように見えたのだ。
ん?何だ?と、思ったよ。
彼女を追って電車から降りる際に残された少年の顔を見たら、呆けたような放心状態だったように見える。
いや、あれば恍惚と言い換えたほうがいいのだろう。
その理由は、あの状況から考えたら良からぬことをしていたとしか思えない……。
まさかと思ったが、あの後の彼女はコンビニに寄っていた。
すぐに買い物をしたのじゃなくて、まずトイレを利用してからなのだ。
コンビニから出た彼女を見送って、何が分かるとも思えなかったが試しにとトイレに入ってみた。
男女共用トイレだったのは幸運だった。
情報が得られるとすれば、汚物箱だろうか。
あんな所を見るのは嫌だったが、ものは試しだ。
そうしたら、女性用のパンツが捨てられているじゃないか………。
いや、女だって下痢で汚すことはあるだろうし、生理の血がべっとり……なんてことはあり得る。
恐々それを手にとって広げて見たら、プ〜ンとあの間違いようのない臭いがするじゃないか……。
精液………。
あの彼女の下着にまず間違いはないと見て、いいだろう。
やっぱり………そう思った。
自分の勘は、間違っていなかったのだ。
電車内でセックスなんて信じ難いことだが、彼女はそれをしていたのだ。
衝撃的で、脚が震えてしまった。
ちくしょう、俺は体臭だけで満足させていたなんて……クソッ!
綺麗な顔してあの女、とんでもない変態じゃないか………。
そんなに欲求不満なら、俺にもお裾分けしてもらうじゃないか………。
ひとりトイレで不敵に微笑む男は手にした汚れた下着をコートのポケットに入れ、缶コーヒー一つを購入してコンビニを出た。
決意を新たにして………。
綾香は淡い茶色のワンピースを手に取り、鏡の前に立った。
春らしく柔らかい色調で、これなら下着も透けなくていい。
上半身はタイト、下半身のスカート部分は大人の女性らしく柔らかな膝丈のシフォンスカートになっている。
パンストを一度手にとって、たまにはと戻す。
セパレートタイプを選んだのは、そんな気分だったというだけ。
服よりも明るいトーンの色を選び、脚に通す。
いつものようにナチュラルメイクで武装し、颯爽と部屋を後にした。
艷やかな黒髪が暖かくなった風に靡かせて、数人の男性の注目を浴びる。
美人だが意思の強そうな顔立ちから弁護士か何かの堅い仕事に従事する人種に見え、知り合いになれたらという妄想を打ち砕く。
それは良からぬ妄想をしたからで、身の破滅に繋がることに本能的な拒絶を示したからだ。
お気楽な男性は美人女性アナウンサーの誰かに似ていると、本気にお気楽な妄想を楽しむ者もいたけれど……。
電車に乗車して、いつもの混み合うターミナル駅に停車する。
ドッと人の群れが車内に押し寄せてきて、たちまち満員電車となった。
綾香の背後に誰の気にも止まらない、誰の印象にも残りそうにない平凡な顔の男が陣取っていた。
電車が動き出してしばらく経つと、綾香はお尻に違和感を感じた………。
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