暖かい……を通り越し、初夏の陽気に本当に春なのかと戸惑う今日このごろ、綾香の服装が周囲に爽やかな風を運ぶ。
白のボータイブラウスに合わせたアコーディオンスカートが風に吹かれ、膝が隠れる程度の丈の長さが上品に揺れる。
それを淡い色合いのブルーグレーのアウターが明るさを柔らかく抑え、音楽教師さながらの清楚さを醸し出す。
下着のお洒落にも手を抜かず、とても淡いグレーの上下。
服装に合わせて白のガーターベルトを惜しげもな使用し、セパレートストッキングを吊り下げる。
綾香は取引先の担当者と打ち合わせを終え、昼食を共にするところだった。
先方は綾香に担当者を自由に使って構わないと、お付きの者か秘書かという高待遇ぶりに戸惑いを覚え、居心地の悪さを禁じ得なくて密かに溜息をつく………。
この仕事に期待をするのも分かるけれど、プレッシャーを感じて仕方がない。
担当者 すいません……悪気や他意はありません
から、うちの社長を多目に見てやって
ください…。
綾香 そんな、とんでもない………
担当者 社長の悪い癖なんですよ………。
気を遣い過ぎて、相手に肩苦しい思を
させて……お恥ずかしい……
どうやら社長の的はずれな所は、自他共に認める困った性格のようだ。
担当者 昔気質な人なんですが、でも人は悪く
ないんですよ……
この若い部下が擁護するくらいだから、人柄は認められているのだろう。
この人も大変ね………。
綾香はこの若い担当者の彼に同情する気持ちを、苦笑で返す。
ともすれば自分の社長の悪口になりかねないというのに、社長と部下の間に壁のない関係性が伺い知れて、胸に温かいものが広がる。
まだ若いのに誠実な性格の彼にも好感を覚え、一気に打ち解けた気持ちになった。
まだ20代なのに、しっかりしている。
後輩くんとはえらく違って、彼の顔を思い浮かべて出てしまいそうな溜息を慌てて止める。
最近どういうわけかすぐに溜息が出て、困ったものである………。
第一印象から、綺麗な人だと思った。
爽やかで落ち着いた大人の女性の彼女は、清楚ですらあって、何なら色気を漂わせている。
社長からわざわざ申し付けられなくても、自分から担当を立候補していたのは内緒である。
あんな美女と仕事が出来るなら、あの彼女が例え40代でも一向に構わない。
あの声、仕草、人柄……どれをとっても嫌味なところは、何一つとして見つからない。
実は昨日、彼女とはある一件で気まずい関係になっていた。
彼女が手に持っていたハンカチを風に飛ばされてしまい、木の枝に引っ掛けてしまったのだ。
ハンカチくらいまた買えばいいのにと思うのだけど、思入れがあるのか諦めきれない様子だったのだ。
次に向かう時間が迫り、辺りに人も居ない。
ましてやハシゴなんかはあるはずがなく、人が登れるほど太い樹木でもない。
さて、どうするか………。
仕方なく自分が四つん這いになり、彼女の土台になったけれど届かない。
確なる上は肩車をするしかなく、でもそれはある問題があった。
彼女はビジネススーツを着ていて、よりにもよって膝上丈のタイトミニスカートである。
本当に困った様子だったので、あくまでひとつの案として彼女に伝えたところ、かなり迷っていたけれど………。
30秒後には顔の両サイドを彼女の柔らかい内腿に挟まれる、そんな自分がいた。
彼女に背を向けてしゃがみ込み、肩を股がれたときはやっぱりドキリとなった。
ストッキングに包まれたスベスベする脚のスネを掴んで立ち上がり、失礼ながら意外な軽さにびっくりである。
それでも50キロ前後はあるのだろうけど……。
そして、気付いてしまった。
顔の横はストッキングの肌触りなのに、首を跨ぐ部分は素肌なのだ。
そして首の後は、下着の感触………。
それでもあと一歩指が届かず万事休すかと思われたけれど彼女に一旦、木の幹に手をつかせた。
立ち上がって肩に乗らせるしか、他に手はなかったから………。
怖がって無理であれば諦めるしかない。
けれどまた少し迷ってから、彼女は実行に移したのだ。
よほど大事なハンカチなのだろう……。
さすがに両肩に立ち上がられるのは、体重の軽い女性とはいえど楽とは言えない。
立ち上がるまでに時間がかかり、邪な気持ちはなくても様子を確認したくなる。
歯を食いしばりながら、何気なく上を見てしまった………。
そこにはあまりにも素晴らしい光景が目に映り、思わず釘付けになる自分がいた。
なぜなら見えたのは白のTバックだけではなく、ガーターベルトを着けていたのだから………。
ハンカチを枝から外した彼女が下を見る瞬間と、それを察した自分が俯くタイミング、それがほぼ一緒だったのかもしれない。
それから彼女の態度がどこかよそよそしくて、勘のいい女性だから覗かれていたことに気付いたのかもしれない。
だから今日は彼女と距離が縮まったような気がして、ホッとする。
それにしても今日の彼女はどんな下着を着けているのか、それが気になってしまう。
清楚な彼女の雰囲気から、彼は勝手に淡いピンク色だと密かに予想していた………。
綾香 それにしてもノスタルジックな看板がそこ
かしこにあって、タイムスリップしたみた
い………
担当者 気に入って頂けたのなら、光栄です。
こんな都会とは言えない街ですけど、
売りのひとつなんですよ……
駅前商店街の軒先に往年の映画スターたちが、その時代の映画の看板となって甦り、この街の風物詩になっている。
担当者 こういうのは、お好きですか?
綾香 古き良き時代の良さが伝わってきて、こ
の時代の映画って素敵ですよね………
担当者 もし良かったら小さな映画館すぐ近く
にあるんです、いかがですか……?
社交辞令のつもりだったのに、彼の誇りとする部分をくすぐってしまったと知って、失敗を悟った綾香。
キラキラさせる眼差しを向ける彼を傷付けるわけにもいかず、その映画館へと向うことになった。
木目の浮いた古い木材の壁が老舗の雰囲気を漂わせ、チケットをかって入口を潜る。
薄暗い中でも分かる良い意味で古めかしい内装に出迎えられ、座席まで当時からあるのではないかと思わせる古いものだった。
綾香の住む街も再開発する前は昭和の雰囲気を色濃く残る、そんな駅前だった。
子供の頃は親に連れられて、古い映画館でアニメ映画を観たものだと懐かしさがこみ上げる。
綾香はこのとき、自分の身に起こることを予想することができなかった。
まさか、あんなことになるなんて………。
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