上司 ん?……体の調子が良くないのかな……
出社してディスクについて早々に、綾香の微妙な変調に気付いた上司が声を掛けてきた。
綾香 満員電車に慣れていないものですから、すいません。
そんなに酷く見えますか?……見た目ほどでもありませんから、ご心配いただいて申しわけありません。
上司 こればっかりは慣れるまで大変だけど、
無理はしないでね……。
部下の小さな変化に気付くのだから、この会社の雰囲気は良いわけだ。
この上司の人柄の良さは、彼の下で働く同僚たちを見るだけで伝わってくる。
これからは気を引き締めないと………。
あんな事があったあとに、いちいち気付かれるわけにはいかない。
綾香は対策を考えなければと、密かに難題に頭を悩ませていた。
その夜、綾香は入浴前に脱いだ下着を見て、溜息が出た。
派手に汚れて黄色くなったショーツを、丁寧に手洗いをして洗濯機の中にいれる。
シャワーで体を濡らし、泡立てたボディソープを体の隅々まで行き渡らせる。
不意に恥部に触れた指先を止めて、ゆっくりとそこを撫でると何かが沸き起こりそうになった。
バカバカしい………。
我に返ったようにシャワーで洗い流し、バスタブに飛び込んだ。
明日はパンツスーツにしようと決め、羞恥心を振り払うように浴室を後にした……。
翌日の朝、髪の毛をアップにした綾香が鏡の前にいた。
薄いメイクで武装し、柔らかいカーブの眉を描いて控えめな色の口紅を引く。
どこから見ても清潔感があり、聡明な女性が出来上がった。
濃紺色のパンツスーツに身を包むと婦人警察官に見えなくもないので、このルックスは人を寄せ付けない雰囲気が漂う。
ふぅ~………ひとつ息を吐いて、綾香は玄関から軽やかに足を踏み出した。
思った通り男性の誰もが無意識なのだろう、電車の中で警戒感を表して居心地悪そうにしている。
昔から真面目な表情をすると、精悍に見えることも一役買ってこの場合は役に立つ。
安堵する綾香だったが混み合い始めると、またかと眉をひそめて不快感を顕にした。
この路線にこんなにも不届き者がいるなんて、知らなかった。
嬉しくもない温もりをお尻に感じ、手が当てられているのが分かる。
でも何かが違う。拙さというか、執拗性が感じられないのだ。
下手に騒ぎ立てたくはないから、綾香は様子を伺いながら背後に神経を向ける。
人が密集する車内で体を揺られ、男性の体臭を感じながらほとんど動かすことのない、お尻に当てられた何者かの手……。
気弱なサラリーマンだろうかと、綾香は見当をつけた。
タイミングを見て振り返りざま、睨んでやろうと決めていた。
電車が駅に停車、人の入れ替えで密集度が緩んだ隙に綾香は思い切って後を振り返る。
犯人らしき人物を見て、拍子抜けしてしまった。
まだあどけなさを残した少年が、俯いていたからだ。
彼は気付かれたことに緊張し、この日はこれ以上のことは何も起こらなかった。
それから数日間というもの何事もなく済んでいたけれど、仲の良い同性の同僚に指摘されて気付いた。
ちょっと〜、後のファスナーが開いてるよ?
そんなはずはないのに、本当に開いていた。
綾香はファスナーを上げながら、見当はついていた。
あの少年だ………。
相変わらず毎朝飽きもせず綾香の真後ろに立ち、気色の悪い思いをしていたのだ。
思えばトイレでファスナーが僅かに下がっていることが多いと、そう思っていたから合点がいく。
次の朝から綾香は乗る車両を変えて、様子を見ることにした。
なのにどうにかわけか、彼はいつの間にか綾香の側にいる。
考えられることとして駅のどこからから見ているに違いないということ、それしか説明がつかないのだ。
どうしよう………。
然るべき方法を取れば簡単な話だけどまだ相手は少年で、悪質とまではいかない。
もちろんこのまま放っておけば、エスカレートしないとも限らない。
浪人生だろうか、二十歳に達していないとしても善悪の区別がつかない年齢ではないはずはないのに……。
一歩間違えればこの先の彼の人生に、暗い影を落とすことになるかも知れない。
粗治療でもないけれど、綾香はあることを実行しようと考えていた………。
次の日から職場でも通用するワンピースを着て、アウターのブレザーに腕を通した。
綾香の思った通りファスナーのないワンピースだから、悪さが出来ない。
代わりにまたお尻に手を当てることを、彼は始めたのだ。
これを数日間続けてある朝、綾香は春物の淡い色をした薄手のコートを着て先頭車両に乗ってみせた。
一見痴漢をしなさいと言っているようなものだけど、美しい花にはトゲがある。
美しく可憐に見えて意思が強く精悍な表情をする時の綾香に悪さをする、そんな度胸のある男性はほとんどいない。
しばらくすると綾香の後に着いたらしい彼が、お尻に手を当てる感触が伝わってきた。
電車が駅に停車して人の入れ替わりで密集度が緩んだタイミングを見て、綾香は体ごと振り向いて彼を隅に追い込む。
体の位置が入れ替わり退路が絶たれた彼は、綾香に睨まれて俯いてしまった。
動揺する彼の耳元に綾香は、こう呟いた。
あたしに触りたいんでしょ、ほらっ、触ってみなさいよっ………。
綾香も自分がこんな脅しが出来るなんて自分でも意外だったけど、きついお灸を据えることくらいはしないと気が済まない。
青くなった彼の手首を掴み、綾香は自分に引き寄せた。
嫌がって手前に引こうとする彼の手を力強く引き寄せ、この日から身に着けたラップスカートに押し当てる。
よくもこんなに冷徹になれるものだと自分でも思うけれど、今までの怒りが綾香を残酷にさせる。
ラップスカート、言い換えれば巻きスカート……。
その生地の合わせ目から彼の手を中に引入れて、綾香は下半身に押し当てた。
女性に痴漢をするということはこういうことで、女性に深刻なトラウマを植え付ける犯罪なのだと、今のうちに思い知らせなければならない。
彼の冷たい手を内腿に挟むと、震えているのが分かる。
いわゆるプレイボーイには決して見えない彼は、綾香から見ても恐らく女性を知らないのだろうと思えた。
興味だけが進行して綾香に手を出してしまった、そんなところかも知れない。
でもこれが彼と同世代かもっと年下の女の子なら、たまったものではないはずだ。
綾香は不思議な感覚を感じて、内心で動揺を覚えた。
何なのこれ、どうしよう………。
残酷な喜びが芽生え、自分の中に同じ顔をしたもう一人の綾香が微笑む。
彼の手を上に持ち上げて、自ら股間に導く。
得体の知れない興奮が沸き起こり、怖くなる。
引き返さなければと、綾香の中で警鐘が鳴り響く。
それなのに、彼の手を離せないでいた。
綾香の体温で彼の手が温まり、冬眠から覚めたはじめた動物が身動きをはじめるように、指が動きだした。
それは綾香を喜ばせようだとかそんなものではなくて、女の性器がどんなものかと興味が湧いたに過ぎないのかも知れない。
張りのあるパンストの生地がショーツの生地を擦り、ショーツの向こう側の柔らかい秘肉が歪む。
綾香の内腿に挟まれて彼の人差し指の側面が、溝に沿って上下に動く。
大人ではないけれど、完全な子供でもない彼……。
今の時代は以前よりも性的な知識を得るのに情報は溢れ、彼も表面的なことは知っている。
あどけなさは残っていても、女に性的な興味を寄せる彼に綾香は嫌悪感を抱いた。
もっと彼を汚したい、綾香の中のドス黒い悪女が微笑えんだ。
彼の手を一度どけて、綾香自らパンストに爪を立てて穴を開けた。
穴を広げて、彼の手を再び招き入れた。
さっきよりも指の感触がダイレクトになり、左右の内腿の壁を叩く彼の指が秘肉を左右に割り、溝にショーツが食い込んだ。
その手を綾香が掴み、上のほうに導くと理解した彼が上下に擦りだす。
思わず彼の手を力の入った内腿が拘束し、もっと優しくしなさいと彼の手を力強く掴む。
そんなやり取りをした数分後、目を閉じる綾香がいた。
周囲には彼を隠すように背を向け、前を開けた春物のコートが壁となる。
ラップスカートの中に消えた手首から先は、誰にも見えることはない。
僅かに開いた綾香の唇から、熱い息が吐き出されていく。
彼の指は、クロッチに浸潤した水分を感じはじめる。
恍惚とする綾香の美しい顔と手元のスカートとを視線を往復させ、スカートの中にある湿った温もりに思いを爆ぜる。
こんな綺麗な人が………。
ジーンズを履いた股間を窮屈にさせながら、喉がカラカラになるのも忘れ、とにかく指を動かした。
不意に閉じた瞼を開くと、顔を上気させた彼が見えた。
綾香はしばらく嗅いだことことのない精液の匂いが懐かしく思えて、猛烈に欲しい欲求に駆られて抑えきれない自分に戸惑どった。
性に対してこんなに貪欲になるなんて、未知なる自分が顔を出したとしか思えなくて怖くなる……。
綾香はひとり、動揺していた。
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