モップ、ウエス、床専清掃専用の機械を所定の場所へと収納を終え、ロッカールームで私服に着替える。
定時を数分回ったころにタイムカードを押すと、いつものように挨拶を一言告げて退社する。
男の会社での評価は可もなく不可もなく生真面目な性格として、目立たない人物で通っている。
そんな50代半ばの男の趣味は足繁く通う古本屋で小説を物色することで、あの本棚に並ぶ古紙の匂いがなんとも落ち着ちつく。
給料が入ると男は月に一度、足を向ける店があった。
アダルトショップ………。
独身の彼は大人の玩具を集めることが、誰にも言えない裏の趣味である。
自身が使用する男性用の玩具ではない。
使う相手などいないにもかかわらず、女性用の物だったりする。
自宅アパートの引き出し、そこにはには大小様々な疑似男性器が綺麗に収納されている。
他にも電気マッサージ器やディルド、クリトリス専用の様々なグッズが取り揃えられている。
彼は缶ビール片手にズラリと並べられたそれを眺めると、惚れ惚れするのだ。
これを使用される女性がどんなふうに喘ぐのか、その姿を想像するのと堪らなく興奮する………。
この日、彼は早速その店の入口を潜った。
定期的に入荷する玩具を見るのは、楽しくて仕方がない。
定番の物が並べられたその横に、それはあった。
何の変哲もないローターだけれど、まだ手元にはない新色だったのだ。
それを購入するとコンビニに向かい、手に入れた電池をセットする。
スイッチを入れるとヴィ〜ン〜………。
中々の音と振動が手の平に伝わってきた。
また新たなコレクションが増えてご満悦な彼は、それを大事にポケットに仕舞って帰宅するために駅へと足を歩を進めていった……。
濃い色のスカートスーツに身を包む女性が、光沢のある皮のブーツをコツコツと鳴らして街中を駅へと向かっていた。
一見お高く見えそうな格好も柔らかな雰囲気とその人柄、美しい顔立ちの綾香だと上品に纏まってしまう。
ロング丈のタイトスカートはフロント中央に深いスリットが膝の上まで切れ上がっている。
抜群のプロポーションの綾香はセクシーさと上品さを兼ね揃え、トップスの黒いハイネックニットが全体を引き締めていた。
いつもと変わらない平日なのに、この日は珍しく吊り革を握る綾香の目の前に座る人が座を立ったのだ。
綾香はお年寄りや体を休めたい人がいないかを見回したけれど、該当者が見当たらないとあって久しぶりに座ることが出来た。
こんな日は年に数回ある程度だから、今日は幸運である。
これで最寄り駅まで座っていられると、バックから女性ファッション誌を取り出して今年流行りのコート特集記事に、目を通しはじめた。
ドア側の位置だったけれど綾香の右側、ドアの前には人が立ち、左隣に座る人の温もりで心地が良くて意識は雑誌の世界へと向かっていった。
男は右斜め前に立つ女性をチラリと見て、胸が高鳴りを覚えた。
まず視界に彼女の下半身が入り、スカートの前に深いスリットが入っているのが見えた。
黒いストッキングに包まれた太腿の内側がチラリと見えて、ドキっとしたのだ。
しかもそのスリットにオープンファスナーが繋がって、上まで伸びるファッション制である。
黒いロングブーツと相まってセクシーでしかなく、どんな女性かと顔を見たらかなりの美人なのだ。
極めつけは右隣りに座っていた人が席を立ち、その美人が座ってきたのだからドキドキするではないか。
女性特有のいい匂いがして、股間が熱くなる。
体が一部接触していて、彼女の温もりが伝わってくる。
女性は膝の上にバックを乗せて、取り出した雑誌を熟読しはじめていた。
男は律儀に着ていたコートを脱いで二つ折りのようにして、座る膝の上に乗せていた。
そのコートの下の手が良からぬ企みを命令された部下のように、女性の体へと向かいそうになる。
男は目だけで横、吊り革にぶら下がる人達を素早く確認した。
意外と座席に座る人のことなんて誰も見ないし、座っている人も立っている人の顔をわざわざ見上げるなんて、そんな真似はしないものだ。
これは盲点なのかもしれない。
人は予測していない出来事に突然遭遇すると、頭がパニックになり体は動かないものだ。
男はついに邪な欲望を決行に移す……。
気がついたら欲望に染まった自らの手が、綾香のスカートに触れていた………。
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