一般道を走るバスは発車と停車を繰り返しながらなんとか目的地に向かっている。ただ、次々と待ち構える信号機が邪魔をして時間の経過の割に距離はさほど進んでいなかった。
一般道を2時間ほど走ったところで、ようやく閉鎖されていない別の地点のインターチェンジから高速道路に入ることができた。
ここで運転士から車内アナウンスが流された。
《お客様にはたいへんご迷惑をおかけいたしております。当バスは先ほど一般道から高速道へと入りました。幸い道路状況が順調ですのでこのまま問題がなければ、約1時間程度の遅れで目的地に到着できる見込みです。尚、予定を変更いたしまして、この先のパーキングエリアで10分少々の休憩を取らせて頂きます。お急ぎのところたいへん申し訳ございませんが、何卒ご了承頂けますようお願いいたします》
揺れる車内で既に寝入っていた千紗の耳には、そのアナウンスは聴こえていなかった。
アナウンスから5分ほどで、バスはパーキングエリアに立ち寄るため側道に入りスピードを落とした。
駐車場に停車すると、運転士から再びアナウンスが流された。
《ただ今、パーキングエリアに停車いたしました。これより乗務員は約10分少々休憩を取らせて頂きます。おタバコやトイレ休憩、自販機をご利用されるお客様は出発時間までにお戻りください》
バス前方の乗降ドアが開き、乗っていた男性客が2人とも降りていった。停車に気付かず眠り続けている千紗だけがひとり車内に残された。
所詮はパーキングエリア。サービスエリアのように飲食ができるところはなく、自販機数台と喫煙所、そして簡素なトイレが設置されているだけだった。
降りた乗客と運転士が喫煙所で立ち話をしている。男性同士、不意のトラブルで妙な連帯感や親近感のようなものが湧いているようにも見えた。
休憩時間の10分が過ぎ、乗客と運転士がバスに戻ってきた。
運転士が客席のほうを向き、乗客数を数えている。3人しか乗っていないことは一目で明らかだったが、律儀な運転士は前方の客から歩きながら順に1人ずつ指差し確認をしていく。
最後尾に座る千紗のところまでやってきた運転士は、運行が遅れていることへのささやかな詫びのつもりだろうか、ぐっすりと眠る彼女の座席に自販機で買ってきとミネラルウォーターのペットボトルをそっと置いた。
彼がふと彼女の寝姿に目を向けた。暑さでボタンを開けたままの胸元から、フリルの付いたパステルピンクのブラジャーが少し見えている。発育の良い膨らみが、彼女がもはや子供ではないことをアピールしているかのようだった。
運転士は軽く咳払いをして彼女のもとを離れた。彼は運転席に戻りながら両側の窓のカーテンを順々に閉めていった。
《それでは皆さん戻られたようですので、これより運転を再開いたします。就寝されているお客様に配慮いたしまして窓のカーテンを閉めさせて頂きました。これより足元の通路灯を残しすべて消灯させて頂きます》
運転席に着いた彼は出発のアナウンスをし、再びバスを発車させ本線に合流した。
つづく
※元投稿はこちら >>