駅に人は居なかった。
改札を出ても、駅前特有のものは何もなかった。アーケードもロータリーも。
ラッシュを過ぎた時間だからか、お昼前の中途半端な時間だからか、快速も特急も止まらない駅だからか、ターミナル駅からいくつも離れた駅だからか、、、、そこは住宅街ですらない、古い雑居ビルばかりが目につく街だった。
私の手を引く男は、駅前の交差点を渡ると右に曲がった。
2つ目の路地を入ると、そこは狭い一方通行の道で、道路を走る車の音も小さくなった気がした。
そこから少し進むと、白いペンキが黒く汚れた雑居ビルの奥に、ピンクと黒でできた看板が立っていた。
アダルトショップ
DVD
グッズ販売
いろんな文字が並んでいた。
男が自動ドアについたボタンを押すと、ガラガラガラと、ブーンと音を立てながら扉が開いていく。
店内に入って左側の通路を手を引かれながら歩くと、突き当たりにカーテンで中が見えなくなっているカウンターがあった。
男がカウンターの内側に馴れ馴れしく話しかけると、カウンターの内側から伸びた手がカーテンを分けた。
カーテンの隙間から顔を出したのは、私の手を引く男よりも小さく、ボサボサの汚い髪の男だった。
私を見てニヤリと笑った口から、黄色い汚い歯が見えていた。
男はカウンターの内側の男を店長と呼んだ。
カウンターの男は山崎さんと返していた。
山崎は私を無視したまま、店長に私を紹介した。
この女は淫乱。
この女はマゾ。
快楽狂いで、露出狂で、痴漢の玩具。
店長は笑いながら同調していた。
淫乱そうな顔だ。
変態だ。
一目でマゾだってわかる。
山崎は満足そうに笑っていた。
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