【06】
「ねぇ香奈。相談したい事があるんだけど・・・あとでちょっといい?」
練習が終わり、卓球台を折りたたんでいた時に紗耶香が言った。
「え?うん・・いいけど。じゃあ久しぶりに三人で御飯食べに行く?」
香奈は紗耶香の方を振り返って答えた。
紗耶香は折りたたんだ卓球台に寄りかかり胸の前で両手の指を絡ませながら
うつむいている。
香奈は紗耶香の顔を見た。
肩まで伸びた細くしなやかな茶色がかった髪を後ろでくくり、くくりきれな
い前髪が額の両側から頬の横を細く垂れている。
長いまつげ、くっきりとした二重で目尻が少し下がっている大きな目、小さ
く高い鼻、程よく濡れた淡い唇、細くしなやかな顎に小さなホクロがひと
つ、小顔で白い肌。
『キレイだな・・・。』
魅入られたように紗耶香を見つめていた時
「あのさ。」
紗耶香がこちらに顔を向け口を開いた。
香奈は、ハッと我にかえり紗耶香から目をそらしてしまった。
「あのさ、二人で話したいんだ。由美にはまだ・・・アイツさ、話し方は間
が抜けてるけどお喋りじゃない?だからさ、帰りにさ、香奈の家に寄ってい
い?」
紗耶香は小声で上目遣いに言った。
「・・・うん・・いいよ。」
なんだか由美を仲間外れにしてるような気持ちになって香奈は少し悪い気が
した。
帰り道は三人一緒だけど由美の家が一番近く途中で別れる。紗耶香の家が一
番遠い為、香奈は家につくまでは紗耶香と一緒だ。由美に気付かれる事はな
い。
『でも何だかなぁ。由美は確かによく喋るけど・・・紗耶香だって似たよう
なもんじゃない。でも・・なんだろ?大事な話なんだろなぁ。』
後片付けをする紗耶香の後ろ姿を見ながら香奈は心の中で呟いた。
『あ・・・そういえば・・・。』
紗耶香が香奈の家に来るのは初めてだ。紗耶香だけでは無く、友達が家に来
るのは初めてだ。
口数も少なくめったに自己主張する事もない香奈は昔から友達が少なかっ
た。
イジメられる事は無かったが、ごく少数の限られた友達付き合いしか無かっ
たからか、香奈の家に友達が訪ねて来ることは無かった。
その事に気付いた香奈は、嬉しいような恥ずかしいような気分になり思わず
笑みが零れてきたが、ふと気がかりな事を思い出した。
『アレ・・ちゃんと隠してたよね?それに・・パソコン・・紗耶香、使わな
いよね?』
香奈の誰にも知られたくない秘密、今では日課となったオナニーに欠かせな
いレディコミやパソコンのお気に入りに入ったアダルトサイト。
もし紗耶香に見つかれば軽蔑されてしまう。
『大丈夫・・・本は押入の衣装ケースの下に隠してる。パソコンはユーザー
ログインしないとワカンナいはずだから。』
香奈は、頭の中で自分の部屋を見回して確認した。
部室で着替えを済ませた香奈は自転車に跨り、いつものように紗耶香と由美
と三人で校門を出た。
時刻は7時を過ぎた頃、辺りは真っ暗になっている。
繁華街を抜け、さびれた商店街を通り国道に出ると、だんだんと人気が少な
くなる。
街灯が遠い間隔で道路を照らしている。
この時間になると車の通りはまだ多いが、市街から住宅街へ小高い丘を突き
抜けて伸びるこの道の歩道を歩く人は殆どいない。
三人は、何時ものごとく他愛もない話をしながら自転車をこいでいた。
紗耶香もいつもと変わらない。
『悲しい話とかじゃないみたい。』
香奈は少し安心した。
風が冷たい。
あとひと月もすれば冬になる。
少し強い風が吹いた。
前を走る紗耶香と由美のスカートが揺れてめくれあがる。
『紗耶香、そんな短いスカートじゃ見えちゃうよ。』
香奈は紗耶香の後ろ姿を見ながら思った。
案の定、また強い風が吹いた時、紗耶香の小さなお尻の部分が捲れ上がり白
い下着が丸見えになった。
『ほら。誰もいないからいいけど・・。』
紗耶香は気にとめる様子は無く、短いスカートをひらひらさせ、由美とお喋
りしながら自転車をこいでいる。
『恥ずかしくないのかな・・・見られるかも知れないのに。パンツぐらい構
わないのかな?あたしには・・・あんな短いスカート無理だよ。』
そんな事を考えながら二人の後をついて行く。
後ろから来る車のヘッドライトが香奈達の頼りない自転車のライトをかき消
し前方を明るく照らし出した。
街灯の真下あたりの側道に車が止まっている。
シルバーのコンパクトカー。
プジョー106。
もちろん香奈には車種なんて解らないが、見覚えのある車。
『あの車・・・この前の!!』
香奈は数日前の出来事をリアルに思い出した・・・。
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