【15】
部室に入ると何人かの部員が来ていた。
紗耶香と由美も既に着替えを終えてラケットの手入れをしていた。
香奈は無言でロッカーに鞄を入れると、バッグからジャージを取り出し着替
えを始めた。
ドアが開き、また何人かの部員が入ってきた。
一番最初に入ってきた背の低い、小太りのあまり可愛いとは言えない子が嬉
しそうに皆に向かって言った。
「なんかさぁ、今日先輩達部活来ないらしいよ。」
「え?なんで?」
着替えていた別の子が、スカートを降ろしながら聞いた。
「西高に練習見に行くんだって。ほら、あそこオリンピックの選手だったコ
ーチがいるじゃん。」
太った子が早口で答えた。
「ふ~ん。先輩達みんな行ったの?二年も?」
また別の子が聞いた。
「そうそう。だから今日は一年だけだよ!台、思いっきり使えるよ!」
そのやりとりの最中も香奈は手を止めずに黙って着替えていた。
何か視線を感じて振り返ると、紗耶香がこちらを見ていた。
香奈が紗耶香に笑顔を送ると紗耶香も笑顔を返した。由美は、周りの様子な
ど気にもとめずに一心不乱にラケットにムースをつけては塗り込むように拭
いていた。
着替えを終えた部員は次々に部室を出て体育館の二階にある練習場へ向かっ
ていった。
香奈も準備を済ませ部室を出ようとしたが、紗耶香に呼び止められた。
「ねぇ、香奈。さっきさ・・中村君と何話してたの?」
紗耶香は香奈の前で右手にラケットとタオルを持ち、左手を腰に当て、膝を
軽く前に出して立っている。その顔は少し怒っているように見えた。
「先に行っとくねぇ~。」
由美が二人の間をすり抜けて出て行った。
部室には香奈と紗耶香の二人だけになった。
「あ・・・見てたの?うん・・なんか・・紗耶香の好きな人って誰?っ
て・・・。あ、知らないって答えたよ!ホントに知らないし・・ね。」
香奈は中村とのやりとりを紗耶香が見ていた事に驚いたが、別に隠さなけれ
ばならない事があった訳でもないのでありのままを話した。
「ふ~ん。」
紗耶香は『なーんだ』とでも言うように呟くと、くるりと向きを変えドアの
方へ歩き出した。
『なんだったんだろ?気になることでもあるのかな?』
紗耶香の態度がよくわからず怪訝な顔をしてその後ろ姿を見ていると、紗耶
香はまた此方を振り返り、
「早く行こ。」
と笑いかけてきた。
「香奈ぁ、あの漫画もう読んだぁ~?聡美が読みたいってぇ~。」
練習を終え、散らばった球を拾っていると由美が聞いてきた。
「うん!面白かったよ。ありがとね!えっとね、バッグの中に・・・。」
そう言いかけて、香奈は教室の机の中から取り出そうとした時に中村から話
し掛けられ、そのまま忘れて来たのを思い出した。
「ゴメン由美!教室に忘れてきちゃった!後でとってくる!」
「えぇ~!?まぁ~別に急いでないから今日じゃなくてもいいけどね~。そ
したらさ、部室のロッカーに入れててくれない?明日聡美に取りに来るよう
に行っとくから。」
「うん、わかった。忘れないうちに入れとくよ。」
「アタシ今日用事あるから先に帰るからさぁ。アタシのロッカーに勝手に入
れといて~。頼んどくね~。」
そう言うと由美は、皆に用事があると伝えて、早々に部室へ戻った。
片付けを終えた香奈は急いで部室に戻り着替えを済ませた。
「紗耶香、あたし教室に忘れ物したからさ、取りに行ってくるよ。先に帰っ
てていいから。」
後から入ってきた紗耶香にそう告げると香奈は急いで部室を出て教室へ向か
った。
校内はもう暗くなっていた。隣の校舎は、まだいくつかの教室に明かりが灯
っている。文化部の生徒が残っているのだろう。
薄暗い階段を駆け上がり、廊下を走って教室に向かった。
教室の中はグラウンドの照明が差し込んで、ぼんやりしたオレンジ色になっ
ていた。
ここまで走ってきた香奈は、教室に入ると呼吸を整えようと上半身を折り曲
げ膝に手を当てて、しばらくじっとしていた。
辺りは静まり返り、聞こえるのは、時折グラウンドから響く声と香奈の呼吸
の音だけだった。
呼吸を整えた香奈は自分の机に向かい、中から由美に借りていた漫画を取り
出すとバッグに入れた。
ふと教室の中を見回してみる。
机が整然と並び、黒板は綺麗に拭かれ、後ろのロッカーの上にはクラスメー
ト達の私物やら花瓶やらが置いてある。
誰もいない教室は、昼間の活気を否定するように寂しさだけがどんよりと居
座り、机や壁は異様に古ぼけて見えた。
香奈は鞄とバッグを机の上に置くと、ベランダに出てみた。
秋風が香奈の髪を撫で、冷たくなった空気が肌を一瞬で冷えさせた。
グラウンドでは運動部が後片付けをしている。
彼等は四方から照明を受け細長い影をあちらこちらに伸ばしている。
その光景が何か胸を締め付けるような切ない気持ちにさせ、香奈は暫く彼等
を見ていた。
少し肌寒くなり、教室に戻ると机の上の鞄とバッグを手に取った。
が、ふと辺りを見回すと、また机の上に置き直し、ストンと椅子に腰掛け
た。
誰もいない教室。
昼間ならばクラスメート達が席につき授業を受けている場所。
今は誰もいない。
誰も来るはずはない。
香奈は性的な興奮を覚え始めた。
ゆっくりと右手をスカートの裾から忍ばせ、股間に指を這わせた。
股間の谷間を下着の上から中指で軽く撫でると、鋭い快感と熱い何かがこみ
上げてきた。
香奈の心臓はドクドクと早い鼓動を打ち、顔の皮膚がジンジンと焼けるよう
に熱くなってきた。
右手の指で股間を愛撫しながら左手を右の胸にあてると、撫でるように動か
した。
『・・気持ちいい・・。』
教室で自慰をするという背徳感が、香奈を異常に興奮させ夢中にさせた。
香奈の陰部からは止め処なく愛液が流れ、下着を濡らしていく。
『・・こんなとこで・・するなんて・・あたし・・でも・・気持ちい
い・・。』
香奈は、股間に指をあてたまま立ち上がると、スカートをたくし上げ、股間
を机の角に押し付けた。
堅い木の角は香奈のクリトリスに当たり、新鮮な快感を与えた。
香奈はその感覚に酔いしれ、机に手をついて夢中になって腰を振り貪欲に快
感を求めた。
ガニマタになり机に股間を押し付け腰を前後に動かし、上を向いて目を瞑り
口を半開きにして快楽を求めるその姿は、普段の香奈からは誰も想像できな
いだろう。
その容姿と今行われている行為とは、それほどのギャップがあり、それはと
ても淫靡な光景だった。
香奈の腰の動きはだんだんと激しくなり、机はガタガタと揺れ、床を打ち鳴
らしている。
しかし香奈の耳にはその音は届かなかった。
激しく腰を動かしていた香奈は急に背筋をピンと張り、二回ほど体を震わせ
るとその場にヘナヘナとしゃがみこみ、机にもたれ掛かって荒い息をした。
普段のオナニーよりも遥かに激しい絶頂を迎えたのだった。
しかし、誰にも見つかる事の無いはずだったこの一部始終を廊下の窓から見
ていた少女がいた。
『・・香奈!?・・こんな・・ところで・・・そんなこと・・・。』
香奈の絶頂を見届けた少女は両手で鞄とバッグを抱き締めると、足音をたて
ないように小走りに廊下を走って行った。
その白い肌は赤く染まり、目尻の下がった二重の大きな目は潤み、淡い色の
唇を噛み締めている。
紗耶香だった。
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