【13】
「あの娘、ずっと見てたんだろうか。」
孝史は、ハンドルに付着し流れ落ちようとしている精液をティッシュですく
うように丁寧に拭きながら呟いた。
孝史にとってみれば、今日に限っては覗かれた被害者のようなものだ。
孝史の自慰行為を見られたいという特殊な性癖、独りよがりの快感は、先程
の少女により達成されたのだが、孝史の意識しない、まさに不慮の事故であ
った為、その目的の達成感は満足のいくものではなかった。
驚いたのは自分の方だ。
射精を迎え全身を快感の波に震わせていた時、その余韻も感じない内に突然
の少女の声と薄い金属の束を落としたような鈍い音に現実に引き戻され、反
射的に音が発せられた方へ振り向くと、窓の外には少女が両手で口を押さ
え、大きく目を見開いてこちらを凝視していた。
「やっぱり、こういうの見たらああいう顔するよな。でも・・・そんなに美
人じゃなかったけど・・・可愛らしい娘だった。」
孝史は、下着とズボンをずりあげシャツを中に入れながら覗いていた少女の
顔を思い返していた。
そんなに長い時間その少女を見る事が出来たわけでは無かったが、確かにあ
る種の個性的な美しさを持つ少女だった。
しかし、ズボンを綺麗に履いてベルトを締める頃には、孝史の脳裏には陽子
の事がジワジワと思い出され、また深い虚脱感に襲われ始めた。
『こんな事してる場合じゃない・・・。これからどうするかを考えなきゃ。
陽子にはっきり聞かなきゃ・・・。』
孝史の頭の中は、先程妄想した陽子の痴態と、あの少女の顔と、そして、こ
の先変化していくであろう陽子との関係と家庭の事がグルグルと渦巻き、射
精のあとの虚脱感も手伝って、全身に途方もない疲労を感じた。
『なんとかしなきゃ・・・。』
孝史は、キーを回しエンジンをかけると、乱暴にアクセルを吹かし急発進し
た。
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