【12】
しばらくの間、二人は無言でいた。
紗耶香は手を膝の上に置き、指を絡ませたまま真正面を見据えていた。
香奈はそんな紗耶香をじっと見つめていた。
紗耶香の少し目尻の下がったくっきりとした二重瞼の大きな眼は、赤く充血
し、涙がキラキラと光っている。
なんて綺麗なんだろう・・・。
香奈はいつの間にか紗耶香の横顔に見とれていた。
「・・・ね。香奈は・・好きな人・・いる?」
しばらくして紗耶香は香奈の方に振り向き口を開いた。その目にはもう涙は
消えていた。
ふいに自分の事に話を振られた香奈は、答えようとしたが言葉に詰まってし
まった。
「アタシだって打ち明けたんだから、いいじゃん。教えてよ。」
優しい笑みを浮かべながら問い詰めてくる紗耶香の顔をチラリと見ると、香
奈は考え込んでしまった。
『好きな人・・・。高校に入ってからは考えた事も無かったな・・。』
香奈は中学の時を思い返してみた。
付き合ったと言えるのは後にも先にも一人だけ。
相手から告白されて、惰性で付き合っただけで苦い思い出になっている。
中学三年の時に好きになった人は違う高校に進学して、卒業以来一度も会っ
てない。
確かにたまにその人の事を思い出して会いたいとさえ思うけども、多分その
恋も忘れかけている。
「いたけど・・もういないかなぁ・・・。」
香奈はポツリと呟いた。
「・・なにソレ?」
紗耶香が身を乗り出して香奈の顔を覗き込む。
「中学の時にね、好きな人いたんだけど、告白出来なくて・・卒業してから
は会うことも無いし、忘れたって言うか・・だから・・今は好きな人いない
と思う。」
香奈は考えながら一つ一つゆっくりと話した。
「で、でもさ!それって・・その人と会ったらまた好きになるかもしれない
ってコト!?」
紗耶香は、真剣な顔をして香奈に問いかけた。
少し声が大きくなっている。
「わかんない。でも・・多分そうならないと思う。今だって好きかどうかも
わかんないもん。」
「そうなの?ホントに?」
「うん。」
香奈はそう答えた。
あらためて考えてみると、その男子の事は頭の片隅に思い出として残ってい
るだけで、今の自分にとって特別な存在には成り得ないと思ったからだ。
「・・そう。・・そうなんだ。」
紗耶香は香奈から目線を逸らし、軽く頷きながら笑みを浮かべた。
それから二人は互いの事を話した。
家族の事。友達の事。好きなテレビ番組。音楽。趣味。服装。男子と付き合
った回数。
そして性の話になった。
「ね・・香奈。シたことある?」
「え!?って・・なにを?」
「なにとぼけてんの?話の流れで解るでしょ!?」
勿論、香奈には解っていた。
そして、そういう話には人一倍好奇心が強かった。
それだけに、そういう事を悟られたくなく、惚けて見せたのだった。
「無いよ!無い無い!!」
「じゃあ、まだ処女?」
「そうに決まってるよ!」
「ホントに~?」
「ホントだって!」
「ふ~ん。」
「そう言う紗耶香は?」
「アタシ?う~ん・・なんか恥ずかしいなぁ・・。」
「あるの!?」
「・・・うん。中三の時にね。」
香奈は紗耶香の告白を聞いて驚いた。
確かに紗耶香ほどの美人なら、セックスをする機会だって沢山あったと思
う。
そういう事に驚いたのではなく、自分のすぐ側に経験者がいるという事に驚
いた。
セックスと言う行為がどんな物かは、同じ年頃の女の子よりも遥かに知識を
持っている。様々なプレイがあることも知っている。色んな趣向でセックス
を楽しむ人たちがいるのも知っている。
全てネットや本や兄のAVから得た知識だ。
そして、それらの知識を基に毎晩のように、今紗耶香が座っているベッドの
上で、時に制服のまま、時に素っ裸になり足を広げオナニーをしている。
イクという感覚も知っている。
しかし、それはあくまでもオナニーによる快楽であって、自分が誰かに抱か
れる、セックスをする、というイメージがいまいち掴めず漠然としていた。
それだけに、経験者である紗耶香が別次元の人間に見えた。
「・・・そうなんだ・・シたことあるんだ・・。」
紗耶香がセックスをしている場面を思い浮かべながら香奈は呟いた。
「香奈・・驚いた?・・・軽蔑する?」
紗耶香が不安そうな顔で上目遣いに香奈を見て尋ねた。
「ちがうよ!ただ・・驚いただけ。軽蔑なんて・・あたしだって・・興味な
いって言ったら嘘になるし・・・。」
最後の方は消え入りそうな声で香奈は答えた。
「良かったぁ~。香奈ってさぁ、なんか潔癖なカンジがするからさ、嫌われ
たかなって思っちゃったよ。でも・・・香奈でも興味あるんだ?」
紗耶香は、ホッとしたような表情の後、意地悪そうな笑みを浮かべて香奈の
顔を見た。
「・・あ・・うん。フツーにね。みんなと同じだよ。」
「ふ~ん。でも実は香奈ってメチャクチャスケベだったりして!」
紗耶香の言葉が、まるで自分を見透かしているように聞こえて、香奈は顔を
真っ赤にして否定した。
「ちがうよ!そんなワケないじゃん!フツーだよ!フツウ!!」
「なに怒ってんのよぉ。解ってるって。冗談だよ。」
紗耶香は笑いながら香奈の頭を撫でた。
香奈は、慌てた自分が余計に怪しい事に気付き尚更顔を赤らめながら作り笑
いを浮かべた。
『ホントのあたしはスゴいスケベなんだよ?いつもいつもスケベな事ばかり
シてるんだよ?』
心の中でそう呟きながら香奈は優しく頭を撫でる紗耶香の手の平の柔らかさ
を感じていた。
「うわっ!もう11時過ぎてる!やっばー。ゴメン、香奈!帰るね!!」
「うん!大丈夫!?送って行こうか?」
「ヘーキヘーキ!てか、香奈が帰り道に独りぼっちじゃん!」
時間が過ぎるのも忘れて話していた二人は夜中になった事に気付き、紗耶香
は大慌てで帰った。
玄関を出るとき母親が泊まって行けとしつこく言っていたが、明日も学校だ
し、そういうわけにもいかないだろう。
紗耶香は丁寧に挨拶すると物凄い勢いで自転車を漕いで走り去っていった。
紗耶香が帰った後、香奈は夕食をとってから風呂に入った。
湯船の中で、先程の紗耶香との時間の余韻に浸っていた。
結局、紗耶香は中村君にゴメンナサイと伝えるのだろう。
それが正しいのかどうかは香奈には解らなかったが、紗耶香も初めから断る
つもりでいたみたいだったし、恐らくは自分が助言するまでも無かったのだ
ろう。
それよりも、紗耶香と二人きりで色んな話をして、今まで以上に親密な関係
になれたような気がして嬉しかった。
風呂から上がった香奈は着替えを持ってきていない事に気付き、丁寧に体を
拭いた後、バスタオルを巻いて二階に上がった。
部屋の前で兄と鉢合わせし、兄から「風邪引くぞ」と言われた。
「スケベ!見ないでよ!」と言って急いで部屋に入った。
部屋の外から「バーカ。」と兄の声が聞こえた。
クローゼットの下の引き出しから下着とパジャマを出すと、バスタオルを外
し下着を付け始めた。
高校になってから下着は買っていない。
胸もそれ程成長していなかったし、必要な分はあったから。
しかし、ブラジャーを付けている時に多少きつくなったのを感じた。
「少し大きくなってきたのかな?」
香奈は鏡の前に立ってみた。
自分ではよくわからないが、締め付けられているような閉塞感は感じる。
「今度買いに行かなくちゃね・・・。」
そう呟きながら鏡の中の自分を見た。
そんなにスタイルは悪くないと思う。
もうちょっと腰が締まった方がいいかな?と考えているうちに、紗耶香の事
を思い出した。
「紗耶香はいいなぁ・・綺麗だし胸もあるし。」
香奈は自分の胸を触ってみた。
まだ手の平で隠れてしまうくらいの膨らみしかない。
軽く揉むと、下着と乳首がこすれてこそばゆい。
寒くなったのでパジャマを着た。
「どんな下着買おうかなぁ・・。」
香奈はまたクローゼットの引き出しを開けて、自分が持っている下着を見
た。
殆どが白で飾りもないものばかり。
他には薄いグリーンの上下がワンセットとストライプのパンツが三枚ほど。
「もっと大人っぽいものでもいいよね。」
引き出しを閉めると電気を消してロフトへ上がりベッドに潜り込んだ。
『何だか今日は色んな事があって疲れたなぁ・・。』
全身に気怠い疲労感を感じた時、帰り道の出来事を思い出した。
香奈の脳裏には、その一部始終がハッキリと焼き付いていた。
香奈は目を閉じて、その場面を瞼の裏側で再生した。
銀色の車の運転席に若い男が座っている。
男は黒いスラックスと下着を半分ほど脱いで下半身を露出させている。
男の下半身からは、はちきれんばかりに勃起して反り返ったペニスが高々と
上を向いている。
香奈は、その目で男性器を見るのは初めてだった。
男はその反り返ったペニスを右手で握り締め上下に動かし恍惚の表情を浮か
べている。
香奈は静かに右手を下着に滑りこませ、ゆっくりとクリトリスを愛撫した。
男の右手の動きが速くなる。
香奈の右手の動きも速くなる。
香奈の陰部からは愛液が染み出し下着を汚した。
男の右手は尚も速度を速め、パンパンの膨らんだ亀頭の先からは透明な液体
が溢れ出し、それが潤滑油となってニチャニチャと音を発てている。
射精が近い。
香奈は左手を下着の脇から滑りこませ、大きく足を広げ膝を立てて腰を浮か
せ、上下にグラインドさせながら両手でクリトリスを擦る。
もうすぐ甘美な絶頂がやってくる。
香奈の動きも激しくなる。
その時、香奈の瞼の裏側に紗耶香の顔が映った。
そして、あの男が紗耶香の上に覆い被さりペニスを紗耶香の股に突き立て激
しく腰を動かしている。
紗耶香は歓喜の表情を浮かべ目を瞑りいやらしく喘いでいる。
男は急に動きを止めてペニスを紗耶香から引き抜くと、その先端から大量に
精液を噴き出させた。
飛び散る精液は紗耶香の腹や胸、顔にまで達した。
紗耶香の体が汗と大量の精液で淫靡に光っている。
精液まみれになり、恍惚の表情を浮かべるその顔をよく見てみると、それは
香奈自身の顔に変わっていた。
「くふぅぁあああっっ!!!」
そこで香奈は絶頂に達した。
呼吸が荒くなっている。
体が熱い。
膣がヒリヒリする。
知らない内に指を中に入れて愛撫していたようだ。
しばらく放心していた香奈はベッドから起き上がった。
「・・下着・・替えなきゃ・・・。」
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