【09】
人気の無い国道の歩道を走る三人の自転車。
香奈の前方を走る紗耶香と由美は話に夢中になっている。
数十メートル先には側道に止められたシルバーの車が街灯に照らされてい
る。
『あの車・・たしか・・この前の・・だよね?』
香奈は、数日前に目撃した出来事を思い浮かべた。
運転席に座る男が、右手で下腹部から伸びた棒を握っていた場面。
生まれて初めて見た光景。
香奈は確かめたくなった。
というよりも、純粋な好奇心からあの車の中で行われていた行為を見てみた
かった。
三人が漕ぐ自転車は、段々とあの車に近付いて行く。
ここからでは中の様子は見えない。
あの運転手は乗っているのか?
あの時の行為をしているのか?
香奈の心臓は、その鼓動の速度を速めていく。
『・・・よし。』
香奈は、十メートル程手前で自転車を降りると自転車を押しながら成るべく
自然な振る舞いを心掛け、ゆっくりと車に近づいて行った。
街灯の明かりがフロントガラスに差し込み車内の様子がぼんやりと解る距離
まで近付いた。
香奈は前方を向いたまま、目線を車に移した。人が乗っている。
若い男だ。三十歳くらいだろうか。
上を向き目を瞑っている。
男は此方に気付いていないようだ。
香奈の心臓は、周りに聞こえるのではないかと思えるくらい大きな音で速い
リズムを打っている。『・・寝てる・・のかな?』
そのままゆっくりと車の側に自転車を押していく。そして横目で車内を覗い
てみた。
『・・・あ・・!!』
期待通りと言っていいのか、車内の男はズボンと下着をずらし反り返ったペ
ニスを右手で握り締め上下に動かしていた。
香奈は無意識に立ち止まり、その男の行為を見つめてしまっていた。
男はそんな香奈の存在に気がつかず夢中でペニスを扱いている。
赤黒くテカテカしたペニスの先が街灯の明かりに照らされヌメヌメとした光
を放っている。
相変わらず上を向き目をつぶっている男の右手の動きが速くなった。
香奈の顔は、その白い肌の殆どを真っ赤に染め、皮膚が痛いくらいにジンジ
ンしている。
『なんで・・こんなトコで・・痴漢・・変態・・だよ・・・。』
香奈は、眼前で行われている行為を食い入るように見つめ、ハンドルを握る
手に力が入っているのさえ解らないでいる。
体が熱い。
足に力が入らない。
しかし他人の車を覗き込んでいる不自然さを何時までも続けている訳には行
かない。車の男がこちらを振り向くかもしれない。男との距離は1メートル
程しかない。
男がこちらに気付いて車を降り襲ってくるかもしれない。
「急いでこの場を離れなければ」
香奈が車内から目を逸らそうとした瞬間だった。
男の反り返ったペニスの先から白い液体が勢い良く噴き出し、衣服やハンド
ルに飛び散った。
香奈は射精という行為を目の当たりにした。
『はあぁっ!!』
香奈は緊張と驚きのあまり声をあげ、ハンドルから手を離し両手を口に当て
た。
当然、自転車はガシャンと音を立て倒れてしまった。
その声と物音に男は驚いてこちらを振り返った。
男と香奈は互いに驚いた顔で目を合わせた。
一瞬の沈黙が永く感じる。
「ご・・・ゴメンナサイっ!!」
香奈は何故だか咄嗟に謝ると、慌てて鞄を拾い上げ、倒れた自転車を起こし
一目散に逃げ出した。
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