二人がいなくなると、いつもの殺伐とした俺の部屋だった。
凄くいい子だった。
また逢いたい。
凄くいい子だったと、呪文のように何度もボソボソと呟く。
大きなため息を上げ、ベッドに横になる。
布団に残る少女の匂いを見つけ匂いを嗅ぐ。
甘く幼い、少女の淡い匂い。
匂いが濃い部分を見つけると顔を埋めて何度も深く息を吸った。
あんなに大量に放出したばかりなのに、またムクムクと股間が疼き、どうしようもない切なさばかりが募っていく。
今日の事を思い返し、夜明け近く、空が白み始めた頃にようやく眠りについた。
起きて仕事に出ても、昨夜の出来事が断片的に頭に浮かび、現れては消えていく。
どうしようもなく我慢できなくなり、女の連絡先に電話をしてみた。
治療費や慰謝料を請求されるかもしれなかったが、それ以上に逢いたい気持ちが勝っていた。
しかし女は、いつも圏外で繋がる事は無かった。
何度も電話し、SMSも送ったが向こうから連絡はない。
そのうち一日一日と少しずつ記憶が薄れ、あれだけ鮮やかな記憶だったものが霞の中に沈んでいく。
淋しい。
もう一度あの少女に逢いたい。
毎日、用もないのにコンビニに行き、駐車場を見渡す毎日が続いていた。
気が付けばあれから3か月が過ぎていた。
ここのコンビニは、塾の送り迎えに使われているようで、頻繁にうろつく俺は間違いなく不審者扱いになって、何度か店員に声を掛けられたことがある。
だから正直もう潮時だな、と思うようになっていた。
日が暮れる時間に合わせて前よりも遅い午後7時頃にコンビニに向かう。
この日関東地方は、ようやく梅雨入りし、朝からしとしとと雨が降り続いていた。
また郵便ポストと公衆電話の隙間にビニール傘を差した人影が見えた。
髪が茶髪というかブリーチをしたような金色で、まるで90年代にハイビスカス柄のバッグを抱えたギャルにも見えた。
俺はヤンキーだろうが特にどうこうは無いが、ここに居座ったら麻由子のような少女はまず来ないな、そんなことを思いながら、自分の決めた見回りルートを歩く。
あれ?
ギャルでもヤンキーでもない?
煌々と灯るコンビニの照明の灯りを避けるように立っていたのは、金髪の外国人女性だ。
俺が近づくと顔を上にあげ、見てもらうかのようにまっすぐ正面を向く。
大人じゃない。
底の厚い靴のせいで背も高く見えたが、実際は、150cmあるかないか。
暗い色のレインコートをボタンも留めず羽織って、胸元深い襟の、あのセーラー服が顔を覗かせていた。
あのセーラー服だっ。
今にも泣き出しそうな顔で、俺を見つめ、両手で襟をつかんで胸を晒す麻由子が頭に浮かんだ。
俺の心臓は早鐘のようにドクドク、ドクドクと脈動し、耳元で鳴り響く。
女の子は、微笑みながら、こっちに向かって歩いて来る。
まるで等身大のフィギュアのようだ。
微笑む瞳は、宝石のサファイアのように輝き、碧いブルーの光を放っている。
細く絹糸のような地毛の金髪は、コンビニの灯りの下、虹のようなキラキラとした光沢のまま右に左に揺れ、辺り一面にいい匂いが漂ってくる。
大人になると無くなってしまう、プラチナブロンドと知ったのは、後のことだ。
〇〇さん?
少女は、違和感のないきれいな発音の日本語で話し、駆け寄ってくる。
麻由子の時も色が白いと思ったが、この少女の白さは次元が違う。
モル違う、こっち。
後ろから声がした。
こっち来て。
あ。
あっ。
あの時の女だった。
女も俺を見て気づいたようだ。
あなたでよかったわ。
こういう子をあっせんするのが私たちの仕事、今日は、キャンセルみたいね。
キャンセル?
お金持ちの人は、好みが煩いし、急用が入ったとすぐにキャンセルよ。
ああ、このまえはありがとう。
え、俺に?ありがとう?
嫌味か、脅しか・・。
ちゃんと教育してくれたおかげであの子、仕事をするようになったわ。
リピートも取れず評判悪かったの。
ああ、そういえば証拠の写メを撮れとか言っていたな。
あの子はもういないのか?
連絡が沢山入っていたわね、辞めてないわ、またこっちに来るときは、連絡してあげるわ。
それはそうと・・・後10分待って、こっちのお客が来なかったら、この子と遊ばない?
料金は、〇〇〇〇〇円、悪いけど、凄く人気のある子なの。
会話らしい話をするのは初めてなのに、何かこの女とは馬が合う、話し方がまるで気心の知れた友人同士みたいな不思議な感じがした。
えっ、これからこのお兄さんとなの?
ね、マリーさん、10分なんてもう待たなくていいじゃないっ。
早くうちに入りたい。
このお兄さんがっちりしていてタイプっ。
ね、もう行こうよ?
俺に身体を寄せ、仰ぎ見るように見つめるモルという少女。
澄んだ瞳がキラキラ輝いて、傘を持つ俺の手を握ってくる。
あったかい。
天真爛漫なモルは、瞳や髪の色を濃くしたら、日本人と見分けのつかない顔立ちをしていた。
じゃ120分ね。
家の場所は変わってないと思うけど、一応玄関までついていくわ。
別れ際、女は、少女を呼び止める。
これ、終わったら飲むのよ。
後、前みたいなことになったら、シャワーで流さずに連絡して。
逆に奥に入れることになるから。
俺に話しているのか、少女なのか良くわからなかったが、話からして俺のようだった。
アフターピルを飲むように伝えたという事は、さながら中田氏OKとお墨付きを貰ったようなものだ。
じゃモル頑張って。
うん。
そう言うや、少女はぎゅっと俺の胸に腕を回し抱き着いてくる。
さ、ここ、入って。
部屋に入るとむわっとした湿り気を帯びた男の匂いが少女を包む。
失礼します。
礼儀正しく、紺色のレインコートを脱ぐ少女。
見覚えのある襟のセーラー服、今日はスカートも短い。
モルは膝から20cmだよと長い脚を自慢するかのように弾むように話す。
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